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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第四章:追放者の果実
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12-Sideユキ:アリーシャ覚醒

 エリヤとクーデリアが目覚めた時、二人は救急隊に運ばれて病院にいた。精密検査に回されそうになったところを脱出し、事務所に戻る。エイファが頭を抱えていた。


「すまんな、エイファ。戻るのが遅くなってしまった」

「文句の一つも言いたいところやけど、ええ。

 それよりあいつらの方が重要やからな」

「お前の力で追い切れんのか?」

「無茶言いなさんな。監視カメラの台数も、こっちの目も全然足りんわ。

 しかも、奴さんは監視の目を巧みに潜り抜けてきよる。

 何らかの協力があったと見るべきやろうなぁ」


 エイファは悔し気に舌打ちした。彼女で無理ならば、他の誰であったとしても無理だろう。そうエリヤは納得し、これからの方針を考えた。二人を取り返し、敵を殺すために。


「ユキくんの持っている端末を追跡することは出来ないんだな?」

「いの一番に試したわ。ぶっ壊されて道端に転がっとる、相手もアホやない」

「周辺の目撃情報もなしか。それらしいものを持った奴は?

 例えばデカいバッグ」

「少なくとも通行人にそんな奴らはおらん。

 まだこの近くに潜伏しているのか……いや、そうやないな。

 もしそうやったら市長軍に見つかっとるはずやからな」


 エリヤとエイファは同時に頭を抱えた。

 と、そこでクーデリアが手をポンと叩いた。


「そうです! 地下です、地下に潜ったんですよ!

 それなら上から見つかりません!」

「んなこと言ったって、ポーターやったっけ?

 地下に潜るためのものはあの辺にはないはず。

 すぐ見つかるような場所があったら、とっくに市長軍が押さえとるやろ」


 渾身の思い付きを外し、クーデリアはぐったりとした。

 と、エリヤが顔を上げる。


「いや、案外外していないかもしれんぞ。

 地下だ、エイファ。地下のデータをくれ」

「いや、せやから地下のデータなんてもん誰が持って……」


 そこまで言われて、エイファも理解した。

 地下は地下都市だけではないのだ。


「なるほどな、それは有り得るかもしれん。

 ちょいと待っとき、揃えて来るわ」


 エイファは虎之助のパソコンを起動、自身の端末も並列稼働させ何かを探し始めた。


「ど、どういうことですかエリヤさん?

 何が分かったんですか?」

「まだ何も分からん。

 だが、あいつらは地下道を通って逃れた可能性が高いんだよ」

「地下道、っていうと……あっ!

 下水道とか、ああいうのですか!?」


 少なくともシティの上下水道は過不足なく動いている。絶え間なく汚染物質を垂れ流すそれを動いているというのならば、の話だが。縦横無尽に張り巡らされた地下水道はかなりの広さがあり、人が十分に通れるほどのスペースが存在するのだ。


「あそこなら人目に触れず移動することが出来る。

 逃走者にはもってこいの移動経路だ」

「なるほど! これであいつらを追い詰めてやることが出来ますよ……!」


 クーデリアは拳を打ち付け、獰猛な笑みを作った。エリヤは紫煙をくゆらせながら考えた。ユキとアリーシャを連れ去ったものはいったい、どんな背景を持っていたのかと。


(奴らが使える戦力はそれほど多くないはずだ。

 それを大量に動員して捕まえようとしている……

 やはり、アリーシャちゃんはあいつらにとって重要な意味を)


 そこまで考えて無駄だと悟り、エリヤは煙草の火をもみ消した。


「エイファ、地下道の情報収集を進めておいてくれ。

 私は街に出て、足で探す」

「あっ! ボクも行きますよ!

 このまま黙ってなんていられませんからね!」

「ったく、面倒事全部ウチに押し付けてくれやがって。

 ええわ、さっさと行きぃ。どうせあんたらがやれることなんてないしな。

 無線だけは常にオンにしといてや」




 その頃。

 アウトラスト周辺、廃工場地帯!


 目を覚ましたユキは突然の情景変化に戸惑った。積み上がる錆びた鉄屑、割れたコンクリート、崩落した天井から光が覗く。ここはいったいどこかと、考える暇もなかった。


「おっと、目を覚ましたみたいだな。

 もうちょっと寝ていてくれると楽だったんだが」


 安っぽいコートを着た軽薄そうな身なりの男が目覚めたユキに気付き、話しかけて来た。隣を見ると、まだアリーシャが眠っている。ユキは男を睨んだ。


「あなたはいったい?

 どうして僕たちを浚うような真似をしたんですか?」

「おっと、まだ状況が分かってねえみたいだな。

 狙いは嬢ちゃん、お前はおまけだ!」


 コートの男は足を振り上げると、ユキの腹をサッカーボールめいて蹴り上げた。咄嗟に芯を外したものの、重い衝撃がユキを貫いた。咳き込みながらユキは倒れ込む。


「あまり乱暴なことをするな。

 あの男にも言われているのだろう?」


 その背後から黒いコートを着た男が現れた。目の前の男とは違い、貫禄があるとユキは思った。鋭い眼差し、綺麗に揃えられた顎髭とまとめられた後ろ髪。ただの伊達男ではなく、全身は鍛え上げられている。ユキは思わず、ごくりと生唾を飲み込んだ。


「殺すつもりはない、安心しろ。

 ただお前たちに来てほしい場所があるだけだ」

「いったいどこに連れて行こうっていうんですか? 

あなたたちは、オーバーシアの人間なんですか?

 僕たちを連れて行って、いったい何をしようとして……」

「質問が長えんだよ、ガキ!

 ちったあ立場ってのを弁えやがれ!」


 安コートの男が何度もユキを蹴る!

 ユキは苦痛に必死で耐える!


「よせ。邪悪だぞ、ピジョット。

 そのような行いは止めるんだ」


 黒コートの男は奥ゆかしくそれを止めるが、しかし行動を起こそうとはしない。顔を蹴られたユキはアリーシャの方に倒れ込む。彼の口の中に、血の苦い味が満ちた。


(くっ……縛り上げられてさえいなければどうにかなるのに……)


 ユキの腕にはアストライバーが着いたままだ。恐らく敵が見逃したのだろう。どうにかして拘束を脱することが出来れば、状況を打開することが出来る。しかし、そのためには繰り出される蹴りに耐えねばならない! 狂ったようにピジョットは足を振り上げる!


「う、ん……? どうしたん、ですの? ユキ……」


 アリーシャが目を開いた。ピジョットは怯み、数歩後退した。黒コートの男は冷静にそれを見る。彼女はまどろみから徐々に覚め、現状を理解した。


「……ユキ、どうしたんですの!? だ、大丈夫?」

「うん、ありがとうアリーシャ。

 僕は大丈夫だから、心配しないでね」


 そう言ったが、アリーシャは聞いていないようだった。

 ユキは不安げに少女を見る。


 アリーシャはゆっくりと立ち上がった。そして、腕を広げる。拘束に使われていたロープがあっさりと千切れ、地面に落ちた。ピジョットはそれを呆然と見た。


 アリーシャの目が黄金色に輝き、全身が眩い光に包まれた。

 彼女の全身が、黒へと染まった。ユキは童話『優しい魔王』の挿絵を思い出した。煌めく鱗に覆われた、鋭い鉤爪を持つ腕。雄々しい肉食獣を彷彿とさせる、ゴワゴワとした毛に覆われた太い足。甲殻類を思わせる鈍い輝きを放つ鎧に覆われた胴体。そして、恐るべきねじくれた2つの角を生やした頭。艶めいた長い髪とあどけない表情だけがアリーシャの名残だった。


「アリー、シャ。キミは……ロスペイル、だったのか?」


 ユキは地下での顛末を知らぬ。だから狼狽した。

 アリーシャは背中から生える薄い翼を広げ、はためかせた。

 凄まじい衝撃が辺りの物をなぎ倒し、軟なガラスを粉砕した。


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