2話、袴の不死者と作戦会議~クラズ・ラピス~
不死者救出後、ブラッドガーデンに戻るとそこには城を囲む城壁が一つ増えていた、今までは森などに隠れていた獣人族だが、小麦商連合が行動を開始するため城下町を作りそこに移住したのだ、城壁の中には多くのテントや屋台が立ち並び、小麦商連合最初の作戦成功ということで多くのものが酒を飲み交わしていた、見ていて何とも楽しい光景だ
「いや~、イリス、いよいよッて感じだね!」
私がそう言うとイリスは眠たそうに目を掻いて気だるそうに答えた
「そうだね。。。私はもう寝るよ、吸血鬼は夜行性なんだ、」
そう言うと彼女は城に向かい一人歩いった、作戦時の威厳は何処へやら、今はただ眠たそうな少女である。
少しその辺を歩いているとカツカツと足を外を立てて目の前から人混みをかき分けて歩いてくる少年の姿が見えた、手には葡萄酒のはいったジョッキを持ち、服装は真っ黒な羽織に栗色の袴、腰には少々細身のグラディウスを挿している、恐らく獣人族の仕立屋が見繕ったものであろう、東洋方面の衣服を好む仕立屋がいたはずだ
「ラピスさん、すごいですねここ、まるでお祭りのようです」
少年はマーガレットであった、とても楽しそうで何よりだ。
私はマーガレットの元まで数歩歩いて行き話を続ける
「ああ、だってお祭りだからね、そうそう、その服にあっているね、カッコいいよ」
私がそう言うとマーガレットはとても嬉しそうに体を揺らした、以前の奴隷服とは違い、その高級感溢れる服装は何ともいい感じである
「有難うございます!、この服装すごいですよね、確か東洋の方ではこんな服装でしたね」
「そうそう、あ、そう言えば今から獣王の元に行くけれども一緒に行く?」
「はい!、行かせてもらいます」
そうして私たちは獣人族の王、獣王の元まで歩いて行った。
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野外のテーブルに座っている一際大きい虎の獣人族、顔は虎で目は青く、背中には獣王本人の背丈よりも大きい斧を挿している、本来大きいはずのジョッキはまるで小人専用のジョッキに見える
「がははははは、ラパス!!、よく来たな!!!!!」
名前は間違えてるし、かなりよっている、それに加えて声が大きい、
「私はラピスだ、いくらなんでもハメを外し過ぎであろう、まったく」
獣王は立ち上がると、私の右隣にいるマーガレットの元まで歩いて行き、眼と鼻の距離まで近づくとググッと顔を寄せた、まるで巨人と人間の遭遇みたいな場面だ、
「お前が不死者か、うん、思っていたよりも小柄だな」
マーガレットは少し笑みを浮かべながら一礼し、そして会話を続けた
「ある程度で成長が止まってしまって、個人的にももう少し大きい方がよかったですね、対して獣王様は随分と大きいですね、羨ましい限りです、自分もそんな大きな斧を掲げられればよかったのですが」
獣王は手を上にあげて指をピンとなばした、そしてマーガレットに質問を始める
「お前は何のために戦うんだ?、この革命は大量に人が死ぬぞ、気持ちのいいものではない、何故そんなものに参加する」
マーガレットは金色の瞳の光が消えたかのような暗い目で獣王を見つめると、冷たい声とともに口を開いた
「僕にとって人が死ぬことは見慣れています、最初は兵士として100人殺して化け物と言われました、次にある国の国王になって、指先ひとつで数万の命を敵も見方も散らせました、次は不死者とはなんと恐ろしいと、この世の恐ろしいものとして【四凶】が一人と言われ毎日人間に襲われていました、最後には人間に捕まって毎年100回首を落されました、では、では次は何を見るかと思った時、僕を求めるもののため、僕が求めるもののため、動くというのは案外気持ちのいいものです」
マーガレットがそう言うと、獣王はぐにゃりと頬を上げて大笑いした、獣王の笑い声は何処までも響き周りの者の耳をつんざいた
「はははははははは、そいつはすげえ!、さすがは不死者だな、ならば一緒に新世界に行こうぜ、吸血鬼の求む誇り高き世界へ、俺の求める獣人族の世界へ、ラプスの求める平等な世界へよ!!!」
こいつはいつになったら私の名前を覚えるのであろうか、、、
「不死者!、名前を聞かせろ、俺はグラドス、シヴァだ!!!」
「僕はマーガレットと言います、今後もよろしくお願いします」
彼らの少々長い自己紹介が終わると、すでに日は少し落ちかけていた、今後は作戦会議がある、私たちは城の会議室まで行かなければならない
「シヴァ、そろそろ作戦会議だ、会議室に行くぞ」
「わかったぞ」
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そう言うと何故かマーガレットが他の場所へふらりと行こうとしていた、私は左手を掴んで引き止める、彼はなぜか不思議そうな顔をしていた
「あの、どうかしましたか?」
「お前も参加だよ?」
「は、、、はぁ」
大きな円卓に赤い部屋、今日は珍しく光が灯っていて部屋の中は綺麗な赤だ、席に座ると早速作戦会議が始まった、まあ作戦自体はもう決まっているためただの確認だ、私は作戦会議開始を宣言する
「ではこれより作戦会議を始める」
そう言うとイリスが資料を数枚取り出して淡々と読み上げ始めた
「今回の作戦はハーフエルフ救出作戦だ、ハーフエルフの国は現在宗教国家クララミルによって宣戦布告を出されている、開戦は1月後だ、この作戦は全部で4つの作戦に分割されるためそれを説明する」
彼女がそう言うと、彼女の赤服のメイドが黒板を出してきた、イリスは白墨を持って箇条書きをして、説明を始めた
「まずはメリア王国交渉作戦とゴルド公国交渉作戦、メリア、ゴルド両国は現在聖王国含む聖王連合より宣戦布告を出されている、理由は双方違い、メリア王国は聖王連合のやり方はあまりに理不尽と訴えたため、ゴルド公国は国土にある膨大な金を狙われているからだ、これらを1月以内に小麦商連合に引き込む!」
イリスはそう言うと黒板の文字を消して残り2つの作戦について説明を始めた、頬には少し汗を書いている
「次にエリアル城門防衛作戦とメイジス城門防衛作戦、これらはハーフエルフ救出作戦の本番だ、先ほどの交渉作戦で味方につけた国の財力を背景に大規模な作戦を展開する、エリアル城門はラピスとマーガレット二人で二千人、メイジス城門は獣人兵五十万人と吸血鬼千人で敵兵千五百人を倒す、敗北条件は戦死者がこちら側で五十人を超えることだ、これは小麦商連合の兵力を見せつけるデモンストレーションだ、戦死者が増えればただの数だけと判断される、質も量も脅威だと示さなければならない!」
説明が終了すると各自の疑問点をあげるように促された、と言っても私なんかは知識に尊い、正直なところ疑問を持つほどの能力はなかった。
しかしマーガレットは何やら疑問点を持ったようでイリスに質問を投げかけた
「交渉をするにも、誰が交渉をするんですか?、イリスさんであれば余裕でしょうが1月以内となれば両国一人でという訳にはいかないでしょうし」
マーガレットがそう言うとイリスはケタケタと笑った後にマーガレットを指差して返答をした
「全く何のためにそんないい服見繕わせたと思っているんだね、君が交渉人だよ、マーガレット君、君とラピスにはメリア王国への交渉をお願いするよ」
私も行くという事に驚きを隠せない、私は交渉能力なんて皆無だし、そういった事務仕事は正直苦手だ
「わ、私も行くのか、何でだ?」
「軍神がいるというだけで交渉材料に成るんだ、諦めろ」
交渉材料として出荷されるらしい、そう思っているとマーガレットが日数についてイリスに尋ねた、どうやら交渉役自体は問題がないらしい
「出発日と交渉日程をお願いします」
「出発は明日、1週間で付くから4日で交渉成立、1周間で帰投、できるか?」
「了解しました、ではラピスさん、明日からよろしくお願いします」
何でそんな笑顔なのであろうか、ともあれ小麦商連合二回目の作戦が遂に開始した、次に向かうは人間の国、色々のことがるであろうが私はなんとしてもこの作戦を成功させると心に決めたのであった。