1話、月下の不死者救出作戦~マーガレット~
ー人間とエルフが世界を征服してから二百年が経った、当時は数々の種族、特に人間と飛龍族、そして四軍神と言う強力な者達が世界の覇者であった、しかしエルフ族が提案した異族撲滅宣言により一気に世界の勢力図は崩れて落ちた、今では人間族とエルフ族以外は見つかり次第殺される始末である、もし、もしも全員が共同で生きる世界があればどれだけ素敵であろうかー
座敷牢の中、外には数人の兵士が見張っている、僕は不死者、マーガレット、今では年に一度人間の中心国である聖王国で首をはねられる祭具として座敷牢に閉じ込められている、座敷牢内には窓すらなく、食事だってもう数百年取っていない、空腹も痛みも百年目ほどでまったく感じなくなった、精々人間が滅ぶまでと思っていたが人間は賢く、二百年も見事反映しているところを見ると、僕はこの世界が滅ぶまで座敷牢と聖王国の処刑台しか見ることは無いのであろう
「このクズ野郎!!、なにこっち見てるんだ!、殺すぞ」
座敷牢の外からは兵士が怒鳴りかけてくる、全く子供だこと、こういうつまらない事をする兵士は新兵か使えない粕と相場が決まっている、人間の兵士はあいも変わらず質が悪い、もう少し何とかならないものなのであろうか
「申し訳ございません、兵士さんの鎧、刺繍が変わったように見えたもので」
「わかった、目を潰そう、こちらに来い!!!」
僕は廊の近くに行くと、短刀で目をえぐられた、痛みはとうの昔に消え失せたしどうせ数十秒で元通りになる、もう全く苦でも無くなった、しかしそんな状況が一番苦である、いったい自分がなにをしたというのであろうか、そう思うと頭が痛くなる、この痛みだけはなかなか消えない。
「嗚呼、願ひは空まで届きて煙になりて、雲になりて神に届け、さうならざらば私をどうか殺してくれよ」
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座敷牢の中は案外広い、元々は女牢であったとか宴会場であったとか、色々な話を聞くが、恐らく囚人を数人入れるための場所であったというのが一番まともな仮説であろう、しかし世界に比べれば全然狭い、最近でもたまに思う、もし外に出られればどれだけ楽しいだろうか、どれだけ素晴らしいだろうか、
「あんさんまだ外に出たいと思うんかいな?」
見張りの兵士が話しかけてきた、よほど暇であることが見受けられる、牢の前に座り込んで眠そうな顔で僕に訪ねてきた
「いいえ、僕は祭具ですからここ以外にはいけません」
無論本心なんて答えずに適当な返事をした、兵士はカッカと笑うと僕に悲しげな声で話を始めた
「わいはのう、妻が居るんや、子供もいる、農夫だったんだけどもすごい楽しかったんや、でも最近戦争が始まってな、徴兵されたと思うたらこんな仕事させられてるねん、もし、もしもお互い自分の望む様になったら、家で小麦でも作らへんか?、農業は楽しいで、戦争なんかより楽しいぞ~」
「ふ、はははは、そうだね、うん、死ぬなよ、君の命は有限だ」
この時代には珍しいタイプの人間だ、戦争が嫌いで家族思い、そんな彼は恐らく戦争で死ぬのであろう、分かっていても少々虚しい物がある、なぜ彼のようなものが少数派なのであろうか、、こんな世界は間違えていると思った、
「おい!、不死者!、聖王国へ出発するぞ!」
外から豪勢な服を着た兵士が入ってきた、年に一度の聖王国でのお祭りだ、僕はそこで百回首を跳ねられる、まあ年に一度外を見られるいい機会だと思って僕は座敷牢の外に出た、先ほどの元農夫は悲しげな顔で見ている
「兵士さん、貴方に祝福を」
僕がそう言うと彼はこくりと頷いた、僕は豪華な装備の兵士に手を惹かれて馬車に乗った、毎度そうだがたった不死者一人に数百人で向かうのはあまりに大げさだろうと思う、少し自分が王様か何かになった気分になれる状況だ
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暗い森のなか、久しぶりの外の空気と時間の把握はとても気持ちよかった、座敷牢の中では一切時間も天候も季節さえ分からないがゆえに、この道中は案外ここちのいいものであった、景色もそう嫌いではない、そこら中に並ぶ木々は月の光を遮って夜の道を作り出している、後は前後の兵士と目の前の檻がなければ何とも綺麗な景色だが、そこが残念である。
「全軍槍を構えろ、構え!!、放て!!!」
《ガガガガガガガ》
突如森の木々に鉄製のやりが降り注いで木々が吹き飛んだ、人間の兵士たちは突然の出来事に混乱し慌てふためいている、それを狙ったかのように第二波の槍が降り注ぐと僕の近くの兵士が全て死んだ、槍は完全に兵士を狙っていたのであろう、ほぼハズレがない。
上を見上げると大勢の吸血鬼が紫色の目を輝かせて宙に浮いている、さらにその中心には真っ赤な髪の毛に真っ赤な瞳の女性が杖を持って浮いている、その女性が中で杖を振るうとクモの巣状に魔法陣が形成された
「極大魔法、凍結系九式氷蝶」
詠唱が聞こえると周囲に突如氷の壁が現れた、自分を中心に円状に広がる氷の壁は何処までも続いている、赤い髪の女性は僕の元へ降りてくると突如話しかけて来た
「やあ、こんばんわ、初めまして」
姿形から彼女がブラッドデーモン、軍神であるということがすぐに解った、それならばこの強力な魔法も納得行く、ならば彼女に言う台詞は一つしか無い
「貴方はだれ?」
「私はクラズ・ラピリ、誰と言われると、、う~ん、そう、君の味方だよ」
味方、そういって僕を利用した人間を五万と知っている、しかしもしかしたら彼女は本当に僕を助けに来たのかもしれない、そう思い僕は彼女に問いかけた
「それは僕の不死性が欲しいのかな?、それとも知識?」
ラピスは僕の目をしっかり見て、覚悟を決めたかのような顔で、事実を伝える声で、そして王者の風格で僕の問に冷静に、そして正確に答えた
「勿論、不死性も知識も欲しい、否、君が欲しいんだ、共に食事をとったり、喋ったり、時に苦しんだりしたい、今私達が作る新しい世界に一緒にいきたい、不死性も知識も人格も、君の全てを私に貸してはくれないだろうか、私達は今から人間とエルフを退いて無差別の国を作るんだ、そこでは君がカフェで紅茶を取れるだろう」
思わず驚いた、一切自分の感情を包み隠さずに彼女は自分の本心を言ってのけた、そして彼女の最後のセリフは僕にとって夢の様な台詞であった、僕がカフェで紅茶を飲める世界、そんなのは今の今まで一度もなかった、とても、とてもそんな世界に行ってみたいと思った、そう、僕は彼女の言葉に感動したのだ、
僕は期待を込めて彼女に問いかけた、この問は信用に値するかを見るための問だ、彼女ならきっと答えてくれると僕は確信していた、期待していた、そして望んでいた。
「じゃあ、僕たらしめるものはなんだい、僕からなにが残れば僕なんだ、僕は、僕は何処にいる?」
ラピスは檻の外から僕の手を取って、そして檻に額を付けて、はっきりと応答した
「簡単さ、君は其処にいる、其処以外に何処にもいなく、其処にいる、違うかな?」
初めてだ、初めて僕は認められた、求められた、そして何より手を、、、
「それじゃあ、僕の全てを君に貸す、君は僕になにを貸してくれるかな?」
僕がそう言うと彼女はしっかりと僕の手を握って、魔法を唱えると同時に僕の手をしっかりと引いた
「局部魔法、炸裂系三式崩壊世界」
魔法で檻が砕かれると僕は彼女の胸元まできた、彼女ならば、彼女ならば世界を変えられる、きっと正しい世界を、平和な世界を、僕の求める世界へと手を引いてくれるに違いないとその時確かに思った
「私が君に最初に貸すのは左手だよ、名前を聞いてもいいかな、私の盟友」
やはり彼女は手を貸してくれた、不死者の僕を欲してくれるものは沢山いた、認める奴も僅かにいた、しかしこの長い人生で僕に手を貸してくれたのは彼女が初めてである、僕はとても嬉しかった、涙がもう止まりはしない
「ぼ、、僕はマーガレット、君の力になりたいな」
彼女とならば世界を変えることができる、僕の求める、ラピスの求める、農夫の求める、そんな世界を作れると希望をいだいた、空を見上げると行く数年ぶりに太陽が登っているのを見られた、僕の夜明けもそこまで来ている。
これで第一話は全てです、楽しんでいただけたでしょうか、楽しんでいただけたならば作者はとても嬉しいです、連載していくので今後もよろしくお願いします






