1話、月下の不死者救出作戦~イリス~
ー人間とエルフが手を結んでからというもの、異族への迫害は進む、我ら吸血鬼もそのせいで、二千の同胞も減りに減った、最終的には強固な城に引きこもるしか道はなく、誇り高き吸血鬼が聞いて呆れる状態だ、エルフなんて森の田舎者だったのに人間と組むやいなや今では大陸の覇者だ、まったく酷いものだ、こんなのでは死んだ同胞への申し訳が立たない、そう思いながらも今日も城に篭っているー
薄暗い城の中、もう明かりを灯す油もない、おかげで綺麗な赤い城もこんなに暗くては薄気味悪い、以前は油を購入できたため良かったが、ここ数年は人間の取り締まりが煩く異族には売ってももらえず、一時期は食糧難で全滅しかけた時もあった、現在は獣人族から血を分けてもらってなんとかしてる、そして目の前にはこの世に一人しかいない種族、ブラッドデーモンのラピスが座っている、ブラッドデーモンは軍神とも言われるほど強く、その魔力量は凄まじいものとされている、彼女は王室内が薄気味悪いのか少し微妙そうな表情だ
「そんな顔で私を見ないでくれ、この城内だって資源に余裕があれば光りに照らされて綺麗なんだ」
私がそう言うと彼女は少しキョドった、あの表情でまさか気が付かれていないとでも思ったのであろうか、彼女は軍神と言われているほどだが、性格はチョロく、表情にすぐに出るのが特徴だ、赤い髪の毛は腰まで伸びて、赤い瞳は今にも溶け落ちそうで、スラっとした体型は羨ましい限りだ
「すまない、やはり見慣れないものでね、こういう城は」
別に謝ることはないのにと思いながら私は席を立って後ろを向いた、後には窓があり、月がよく見える、私たちはこの世界に革命を起こそうと計画を立てている、しかし彼女の士気がいまいちつかめない、なので私は少し訪ねてみた
「なあ、そろそろあれをやるのだろ?、どうさね、成功すると思うかね?ラピリ」
するとラピスは席を立ち上がり、やんわりと、そして冷静に返答を返してきた
「大丈夫、ここまでは順調だよ、この世界は間違えている、私たちは正しい、勝利するものが正義であれば私たちは正義だ、行けるよ、私達なら何処までも」
まずまずな返答だ、しかし発言以上に彼女のやる気が伝わってきてとても嬉しかった、もし、もし革命が成功すればと思うと頬が上がってしょうがない、私は率直な感想を彼女に述べた
「はははは、そうだね、その通り、これは人間とエルフへの革命だ、吸血鬼千名とお前と、獣人族がえ~と」
覚えているが私はここで彼女の理解度を確認するためにわざと聞いた
「住民が六千万、兵士が五十万人だ」
「そうそう、はは、計画段階から時間が経ちすぎて忘れていたよ」
「かんべんしてよ、参謀でしょ」
革命の内容は、獣人族と吸血鬼で一国分の兵力を用いて各地に散らばる異族を救出、吸収し世界各地の異族を束ねて圧倒的な影響力を持とうという作戦だ、現兵力は国一つの平均値を10として、小麦商連合の兵力は現在25、吸血鬼大隊で5、獣人族で10、軍神ラピスで10といったところである、しかしこの割合には弱点がある、ラピスが一人削れるだけで兵力の大部分が消えてしまうことだ、つまりラピスが死ぬ=小麦商連合の敗北を意味している、
「そうそうイリス、今日だったよね、最初の行動、やることは覚えているんだけど、目的が少し曖昧だから説明してくれないかな」
行動理念ぐらい覚えておいてくれよと思いながら私は机から作戦を書いた紙を取り出した、本日から小麦商連合は本格的に行動を開始する、最初の作戦は【不死者救出作戦】、これに失敗するとかなりきつい、私はラピスに紙を見せて説明を開始した。
「いいかい、今夜人間の国、聖王国での祭り事で不死者の首を100回落とすという祭り事が開催される、その不死者の救出だ、今聖王国に向かって不死者は送還されている、ここが狙い目だ、不死者を連れ去る理由は3つ、一つは強力な戦力であるから、二つはこの連合が異種族の見方であることの意思表示、最後に君を守る無敵の守護者は今後の作戦に必須である、不死者の奪還の失敗はその時点で革命失敗と同義、分かったかな?」
「了解した」
私は説明を終えると後ろの窓を開けた、窓の外には吸血鬼三百人が構えている、兵の士気を上げることは王の役目、私は吸血鬼の王として兵士の前に立ち演説を開始した、正直緊張する、今にも心臓が飛び出そうだ、私はあまり会話が得意ではない、それ故これは不向きな仕事なのだ
「諸君!今夜遂に我らの行動が開始する!、我らの同胞は最初二千人いた!、しかし今では千人だ!、そう、千人しかいないのだ!、なぜならば人間とエルフが殺したからだ!、我らの亡き同胞は殺された!!!!、これは苦しく悔しく悲しい事実だ!、今から行く戦場では白髪の男と仲間以外皆殺しにしろ!、一人足りとも生かして返すな、槍に恨みと憎しみを乗せて投げつけ切りつけ斬り伏せろ!!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
「夜王、イリスの名の下に、吸血鬼全300名、これより状況を開始せよ」
「「「「「了解!!、これより行動を開始!」」」」」
一気に疲れた、体に汗が出ているのがよく分かった、頭が痛くなりそうだ、とりあえずラピスに泣きついた
「ふああああぁぁぁぁぁ、疲れた、緊張したあああああ」
「イリス格好良かったよ、うん」
「悪かったら一大事だって」
「じゃあ準備してくる」
ラピスが部屋を抜けると私は赤い服を着た、吸血鬼伝統の戦闘服である、もともと再生能力が凄まじい吸血鬼にとって鎧よりも誤爆を減らす目立つ色を重視しているのである、赤い服に吸血鬼の特有魔法により無数に生み出される槍は【悲槍の紅】と言われ一時期は人間に恐れられたものである。
外に出るて少し待つと、黒い鎧を身にまとったラピスが飛んできた、相変わらず黒い鎧はとても重そうである
「さあ行こうか、イリス」
「是非もない、こんな序盤でつまずいて入られないしな」
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暗くて深い緑色の森、その中からはザッザと足音を立てて二百人ほどの人間の兵隊が祭りの祭具を檻に入れて進行している、祭具の不死者はぐったりとしていて生きているのか死んでいるのか分からない
「イリス、あれが不死者だね?」
「あれじゃなければお笑いものさ、さあ!!全軍槍を構えろ、構え!!、放て!!!」
ラピスの問に答えたが、実はそれが一番恐ろしい、もしあれが偽物であればその時点で小麦革命の成功率は一気に落ちる、一応私の直属の者が周辺を探索して万が一がないように偵察しているが彼が本物であるかどうかの確認はすぐに終わらせたいものだ
「次弾準備!!、次は人に当てろ!」
「「「「了解!!」」」」
私が指示を出すと吸血鬼部隊が槍を森の木に向かってやりを投げつけ、爆音が鳴り響き人間の士気を一気に挫く、統制が取れていないうちに次弾も放たせる、見事その槍は人間を貫いた
「さあ、ラピス、やってくれ」
「ああ、了解した、殲滅すればいいんだね」
私が指示をするとラピスは杖の下を空中に突きつけた、するとまるでガラスにヒビでも入ったかのように杖を中心に魔法陣が浮かび上がる、彼女の髪の毛は重力に逆らってふわりと巻き上がり、冷たい声が私の耳をつんざいた
「極大魔法、凍結系九式氷蝶」
彼女の髪の毛が重力にそって地面に向かった、それと同時に地面はまるで大きな華のように凍りつき、救出対象を中心に完全に地面が見えなくなっている、そしてラピスは不死者の元へと降りていった、私は後ろを振り返り指令を出す
「作戦完了!!、諸君ご苦労であった、今回の戦闘はごく小さなもので、ただの奇襲ではあったが人間に対して負け続けであった我らが歴史での勝利の第一歩である!、帰ったら宴会だ!!、気を抜かずに帰投せよ!」
「「「「了解!!!」」」」
私は心の底から嬉しかった、今の今まで同胞を殺され続けたこの歴史に、ついに、ついに反撃の狼煙が上がったのだ、吸血鬼は今までに千人殺された、これは比率換算で人間で言うところの五千万人にあたる、私は全同胞の半分を失ったのだ、それ以来の悲願であったこの第一歩は月の灯よりも美しく、太陽の光よりも不気味であった
「そろそろ日が昇りますよ、イリス様」
そう言ってやってきたのは私の城のメイド長件吸血鬼大隊長、ラメリア、彼女の服装は少し特殊で赤いメイド服を来ている、背中にはクレイモアを挿していて金色の髪の毛はまるで月の灯のようだ、少々目つきが悪いがとても優しく仕事熱心である。
「そうだな、日が昇る前に帰投しようか、帰ったら肉を食べよう」
「そうですね、私が焼きますよ」
かくして我らの革命は遂に歩みを進めた、我らの夜明けももうすぐである。