1話、月下の不死者救出作戦~クラズ・ラピリ~
ークラズ・ラピス視点ー
ーいつからこんなこんな状況であっただろうか、この世界は人間とエルフ以外全てが異端で、惨めで、愚かなものだと定義されて数々の種族が迫害される世界になったのは、昔は異種族の国がもっと沢山あったらしい、しかし現代においてはもう人間、エルフの国と僅かな異種族の国が多額の奉納を人間やエルフに収めて何とか国として成り立っているだけである、私にはこの状況があまりに可笑しく、そして間違っているとしか思えないー
暗くて赤い城内、私クラズ・ラピスは吸血鬼の集まる吸血鬼の砦件住居のブラッドガーデンと言う城の王室の椅子に座っている、城の中は紅を基調としたまるで内臓の中のような感じであり、私はもうだいぶ見慣れたが最初の頃は少し怖かったものである、城の主が座り椅子の後ろには大きな窓があり掛けた月がよく見えて、月光はこの城の主を照らしている、逆光がために城の主の顔は見えづらく、そのせいか紫色の目が薄っすらと輝いているのが目立つ
「そんな顔で私を見ないでくれ、この城内だって資源に余裕があれば光りに照らされて綺麗なんだ」
城の主は少し頬を上げながら私の感情を読み取ったかのように発言をした、私としては心情を読み取られたことに少し驚いている、城の主の少女の名前はウラド・イリス、その背丈は小柄で、髪の毛は真っ白、髪型は、、人間はボブというであろう髪型だ、イリスは机に両肘を載せて、手の甲に少し顎を当てながらため息を付いた。
「すまない、やはり見慣れないものでね、こういう城は」
私がそう言うと城の主は立ち上がり、後ろの窓の方へ向いて手を月に手をかざし、透き通る声で私に問を掛けてきた。
「なあ、そろそろあれをやるのだろ?、どうさね、成功すると思うかね?ラピリ」
私は席を立ち上がり、その問に対してしっかりと答えた、勿論相手にとっては情けない返答であったかもしれないが、しかし自分の言える最大限の返事をしたつもりである
「大丈夫、ここまでは順調だよ、この世界は間違えている、私たちは正しい、勝利するものが正義であれば私たちは正義だ、行けるよ、私達なら何処までも」
イリスはこちらを振り向くと笑顔でこの返答の感想を述べた、その表情があまりにも嬉しそうなので少し恥ずかしくなってきた
「はははは、そうだね、その通り、これは人間とエルフへの革命だ、吸血鬼千名とお前と、獣人族がえ~と」
「住民が六千万、兵士が五十万人だ」
「そうそう、はは、計画段階から時間が経ちすぎて忘れていたよ」
「かんべんしてよ、参謀でしょ」
私とイリス率いる吸血鬼、そして今はいないが獣王が率いる獣人族で連合を組み、他の種族をたくさん引き入れて異種族の国を作ろうと言う計画が今から8年前に考えられた、連合名は小麦商連合、連合目的は小麦の販売と、その小麦を売ることを阻害する者の排除、要するに表向きを小麦売りにして、その本質は異種族でも堂々と小麦を売ることができる、つまり異所属の平等化を図る連合だ。そして今夜初めて連合が人間に対して行動を取るのだ
「そうそうイリス、今日だったよね、最初の行動、やることは覚えているんだけど、目的が少し曖昧だから説明してくれないかな」
私がそう言うとイリスは机の中から幾つか資料を取り出して私に説明をした、資料の数は片面に文字が書かれた紙が3枚ほどである。
「いいかい、今夜人間の国、聖王国での祭り事で不死者の首を100回落とすという祭り事が開催される、その不死者の救出だ、今聖王国に向かって不死者は送還されている、ここが狙い目だ、不死者を連れ去る理由は3つ、一つは強力な戦力であるから、二つはこの連合が異種族の味方であることの意思表示、最後に君を守る無敵の守護者は今後の作戦に必須である、不死者の奪還の失敗はその時点で革命失敗と同義、分かったかな?」
「了解した」
説明が終わるとイリスは後ろの窓を開けてベランダに出た、外には槍を持った吸血鬼が並んでいる、彼女はベランダの柵に手をつくと獣のような声で演説を開始した、後ろ姿にはカリスマを感じられる
「諸君!今夜遂に我らの行動が開始する!、我らの同胞は最初二千人いた!、しかし今では千人だ!、そう、千人しかいないのだ!、なぜならば人間とエルフが殺したからだ!、我らの亡き同胞は殺された!!!!、これは苦しく悔しく悲しい事実だ!、今から行く戦場では白髪の男と仲間以外皆殺しにしろ!、一人足りとも生かして返すな、槍に恨みと憎しみを乗せて投げつけ切りつけ斬り伏せろ!!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
「夜王、イリスの名の下に、吸血鬼全300名、これより状況を開始せよ」
「「「「「了解!!、これより行動を開始!」」」」」
彼女はそう言うとこちらに戻ってきた、顔は少し赤っく、綺麗な白いドレスが少し汗ばんでいる、よほど緊張したことが見受けられる、彼女はドサリと椅子に座ると深い溜息を付いた
「ふああああぁぁぁぁぁ、疲れた、緊張したあああああ」
「イリス格好良かったよ、うん」
「悪かったら一大事だって」
「じゃあ準備してくる」
私は部屋を出て右隣にある部屋にはいると、その部屋においてある黒い鎧を身にまとった、鎧は重く、隣の杖はなお重い、今回の作戦は私も出陣するしイリスも私についてくる、重そうな鎧とは反して私は魔法を使い宙に浮いた、そして空に出ると大きな羽を広げ、赤いドレスをきたイリスが待っていた
「さあ行こうか、イリス」
「是非もない、こんな序盤でつまずいて入られないしな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
深い森のなか、静かな緑に似つかぬ大行列、人間の列を発見した、武装した兵士の列の中心には馬に轢かれた檻があり、その中には真っ白な髪の毛が腰まで伸びた者が入っている
「イリス、あれが不死者だね?」
「あれじゃなければお笑いものさ、さあ!!全軍槍を構えろ、構え!!、放て!!!」
イリスが指示をだすと大量の槍が人間の方へ降り注いだ、しかもその威力は木に当たれば折れるほどであり、爆音とともに人間を蹂躙した、先程まで暗く見えづらかった森のなかが気が少なくなりよく見える
「次弾準備!!、次は人に当てろ!」
「「「「了解!!」」」」
もう一度槍が投擲された、先ほどとは違いほぼ全弾的に命中し、人間は蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑っている、
「さあ、ラピス、やってくれ」
「ああ、了解した、殲滅すればいいんだね」
私は杖を構えて魔法を詠唱する、イメージは広範囲、威力は軽くでいい、人が死ぬ程度、魔力は惜しみなく、杖を空中に叩きつけると魔方陣が出る、後は魔力を注ぎ込めば終わりである
「極大魔法、凍結系九式氷蝶」
森の中が不死者の檻を中心に1,5km凍りつく、生き残りなどいない、絶対に全滅させた、森の色は月明かりで金色になり、ぽつぽつと人間が黒い点のようになってみえる、私はそのままオリの方へ向かい、白い不死者に話しかけた
「やあ、こんばんわ、初めまして」
檻の中の不死者は男で、小柄で白い髪は腰まで伸びて、眼の色はまるで満月のように金色だ、服装は奴隷服、こんな綺麗な容姿であればもっと幸せになれるきっかけもたくさんあったであろうに、こんな時代でなければ、もっと幸せになれたであろうにと複雑な気持ちに襲われた
「貴方はだれ?」
少し高い、まるで子供のような声が降りの中から聞こえた、その発言自体は自然なものだが、森が凍りついたというのに表情ひとつ動きもしない
「私はクラズ・ラピリ、誰と言われると、、う~ん、そう、君の味方だよ」
金色の瞳が私の視線を逃がさない、そして不審そうに不死者は冷たい声で訪ねてくる、檻の中で座り込んでいるとは思えない冷静さと慎重さである
「それは僕の不死性が欲しいのかな?、それとも知識?」
ここで嘘をついてキレイ事を言えば騙せるのではないかと思った、しかし相手は私なんかよりも遥かに年上の不死者、どうせ嘘は見抜かれる、それならば本心を、本音を言うべきであるとその時私は心から思い、そして檻に近づいて彼の目をしっかりと見て返答をした
「勿論、不死性も知識も欲しい、否、君が欲しいんだ、共に食事をとったり、喋ったり、時に苦しんだりしたい、今私達が作る新しい世界に一緒にいきたい、不死性も知識も人格も、君の全てを私に貸してはくれないだろうか、私達は今から人間とエルフを退いて無差別の国を作るんだ、そこでは君がカフェで紅茶を取れるだろう」
不死者は目をカッと開き、驚いた表情を浮かべると、先ほどとは違う期待に満ちた表情でさらに私に問いかけてきた、檻に手をかけ、彼も私の方へと近づいている
「じゃあ、僕たらしめるものはなんだい、僕からなにが残れば僕なんだ、僕は、僕は何処にいる?」
私は檻の中の彼の手を取って、そして檻に額を付けて、しっかりと、伝わるように返答した
「簡単さ、君は其処にいる、其処以外に何処にもいなく、其処にいる、違うかな?」
不死者は目に涙を浮かべて、泣きじゃくった笑顔で渡しの手を握り返してきた、まるで生き返ったかのように表情が出ていている
「それじゃあ、僕の全てを君に貸す、君は僕になにを貸してくれるかな?」
彼は涙を拭って、頬を上げ期待に満ちた声で私に求めてきた、彼がなにを求めているかなんてすぐに解った、私は右手に杖を持って、しっかり左手で彼の右手を掴んだ、そして魔法を唱えると同時に彼の手を引いた
「局部魔法、炸裂系三式崩壊世界」
魔法で檻を砕くと彼は私の胸元まできた、先程までは檻しか無いのにすごい距離感を感じていたが、今では物理的にも、そして精神的にもすごく近くにいると確信できた
「私が君に最初に貸すのは左手だよ、名前を聞いてもいいかな、私の盟友」
「ぼ、、僕はマーガレット、君の力になりたいな」
その笑顔が眩しくて、少し恥ずかしくなるぐらいに彼は笑顔だ、そして私達の革命の第一段階は無事に成功した、これから、これからようやく本番である、空を見上げると少し日が昇っていた。