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間章《八坂神社でのやり取り》

間章  《八坂神社でのやり取り》



 篠田は社務所の中に入ると、直ぐに左手で空中に十六芒星(ぼうせい)を描いた。そこから、とんがりブーツを脱ぎ捨て、登り口の障子戸をあけて玄関から上がってくる。

 (みどり)は視界に入らなくても、そのガサツな足音から、篠田が帰ってきたことを理解した。

 篠田は翠の近くに座ると、コンビニのビニール袋の中からおにぎりを取出し、ビニールを()がすとそれにかぶりついた。

 そして、行儀悪く食べながら翠に声をかける。

「ハルが来てただろう?」

「?」

 翠は顔を篠田に向け、解らないと言った様に眉間にしわを寄せた。

折坂(おりさか)と男の人が来てたけど、その人は名乗らなかったわ」

「折坂って、善一郎(ぜんいちろう)?」

「いえ、その娘よ」

「ふーん」

 自分から振った話なのに、篠田は興味なさそうに答える。折坂 善一郎に娘がいたことは初耳だが、全くと言って篠田には関係のない話だ。

 篠田はおにぎりを食べ終わると、今度はペットボトルのスポーツ飲料を取出し、キャップを開けると翠にさし出した。

 そこで翠は嫌そうな顔をする。

 彼女が今(おこな)っているのは、暴れ神に気に入られるように、覚悟を見せるために断食しているのだ。篠田のこの行動はそれに反している。

 翠は又かと言いたげにため息をついた。

 どういう情報から流れたのか解らないが、翠に霊能力があると解ってから、総本山の安部 智弘(あべ ともひろ)と言う男が、暴れ神を式守神(しきしゅがみ)にするように翠に話を持ちかけたのだ。

 式守神(しきしゅがみ)を持った囲い師に憧れていた翠は、その話に乗って、暴れ神を式守神(しきしゅがみ)にしようとしているのである。

 翠の祖父のほうは、それ以外にも何か安部と取引している様子だが、そちらの内容は知らない。今の翠は目の前の事で手がいっぱいである。

 そう、式守神(しきしゅがみ)に憑いてもらい、目の前に居る、憧れていた少年に、少しでも近づくために。

 なのに、話を持ちかけて来た、安部と一緒に来たはずの篠田は、翠に囲いを強要して、彼女の囲いを見ると諦めることを進めた。

『無茶だ、やめておけ』

 首を振って、簡単に一言。

 一緒に来ていた安部や、名前が解らないが外人の男性が、何とか篠田をなだめて、渋々と言った具合に篠田は納得したのである。そして現在は、翠は篠田に見守られながら、式守神(しきしゅがみ)に憑いてもらう契約を行っている。

 しかしその最中に何度も、篠田は翠に諦めることを進めた。

 だから今回もそうだろうと翠は思ったのである。彼は遠回しに、私に諦めることを進めていると。

 理由は翠にも解っていた。何度も暴れ神に声をかけるが返答もなく、このまま行っても、もし話を聞いてくれるなら、暴れ神は式守神(しきしゅがみ)になる代わりに条件を出してくるに違いないからだ。

 翠は有る程度の条件なら受け入れるつもりでいた。上高井家の血筋の者全てぐらいなら。

 それは他人から見れば、ひどい人間に見えるかもしれないし、自分でもそう思う。

 しかし、自分は霊能力も少なく、囲い師の才能は()の方だろう。だから、これを逃すと次がないこともわかっている。

 今まで霊能力もなく諦めていてから一転、(かす)かではあるが、自分の望んでいる者になれる魅力。

 若さゆえに、それを簡単には手放せない。

 それに篠田も、諦めることを進めるわりには、周りの氏神様を(おさ)え込んだりと、一番最悪になるケースの準備も、進めいるのだ。

 そう、この町の全ての者を生け贄にする準備さえ。

「篠田さん、言いたいことは解るけど、私はまだあきらめたくないから」

 その台詞に篠田は、今気付いた様に頷くと、翠の前にペットボトルを置き、自分は先ほどから飲んでいた微糖の缶コーヒーに口を付けた。

「あぁ、そのことか。怒るなよ」

 篠田は断りを入れてから話し出した。

「このまま断食して話しかけていても、暴れ神は式守神(しきしゅがみ)になってくれない。絶対にだ。条件を出してくると思っているかもしれないが、神様はそこまで甘くない」

 篠田のその台詞で、翠は驚きで目を見開いた。

「このままいったら君が倒れて、救急車が来てそれで終わりだろう。なぜなら、君の考えが甘いからだ」

「甘い? 私は皆を犠牲にしても式守神(しきしゅがみ)に憑いてほしいと、そう思ってるのよ!」

「出来れば犠牲は()けたい、条件が来て、この町の人間すべてを犠牲にするくらいなら、(あきら)めよう。そう思わなかったか?」

 翠はその意見に黙り込んだ。

 確かにそうだった。篠田が周りの氏神様を抑え込んだと聞いた時も、そこまでしないと答えたのだ。

「神様は心を読むぞ。そんな中途半端な考えなら、絶対に話しかけてこない。だからこれはここまでだ」

「……………」

 翠は黙り込み、静かに涙を流した。

 もう、疲れて頭が回らないし、感情も高ぶってくる。

 理想の自分が目の前にあると思い込みたいが、そんなものは最初から、何処(どこ)にも無いと知っていた。

 言われなくとも解っていた。

 誰かを犠牲にする条件を出されたら、自分は躊躇(ちゅうちょ)することも。

 だけど、最初から無理だと、あきらめたく無かっただけ。

 しかし、もう認めるしかない。最初から、自分は憧れた人物の様にはなれないだと。

「解っていたわよ、力がないって。それでも成りたかったんだから! 二年前に初めてあなたを見た時から、あなたの様に式守神(しきしゅがみ)を持った(すぐ)れた囲い師に!」

 体の中の水分が少ないのか、悲しいはずだが涙は直ぐに止まった。

「だから怒るなと言っただろ。それに、俺は優れてなどいない。憧れてくれるのは結構だが、俺程度に憧れないで、もっと視野(しや)を広げた方が良い」

 篠田が謙遜(けんそん)でそう言おうが、出来ない者からすれば、どうしても上からの目線に聞こえる。

 だけど言い返せない。

 彼は無理だと解っていても、ここまで翠を見守ってくれていたから。だからこれ以上は迷惑を掛けれない。

 終わるしかないのだ。 

 翠は(たたみ)の上に置かれたスポーツ飲料に口を付け、一口飲んだ。

 これで終わりだ。自分の覚悟も、成りたい者も。

 篠田は満足そうにその様子を見ていた。

「急に飲んだら体が驚く、ゆっくり飲めよ。それで、飲みながらでいいから聞いてくれ」

 翠は言われた通りに、ゆっくりとスポーツ飲料を飲みながら、篠田の顔を眺めた。

「だから今までは無理だと思ったが………」

 そこまで話して篠田は翠を見た。

 口元には薄く笑いを載せて。

僥倖(ぎょうこう)だ、成功するぞ!」

「えっ?」

 翠は慌ててペットボトルから口を離し、驚いたように篠田を見た。

「………成功するの?」

「あぁ、俺の考えが正しくて、ハルが来てるなら成功する。だから、どうする? 作業を進めて良いか?」

 戸惑(とまど)ったように翠は頷く。

 ハルとは多分、さっき折坂が連れてきた男の人だろう。その人がどう関係するのか解らないが、助けてくれるのだろうか。

「解った、ならナインワードに手伝わせるから電話する」

 そう言って篠田は、ベルトループに付けるタイプの腰バックからスマートホンを取出す。

「それは良いけど、私、スポーツ飲料飲んじゃったのよ?」

 慌てている翠に対して、篠田はスマートホンの画面を見ながら頷いた。

「あぁ、問題ない。別のやり方をするから」

「絶食の他に、式守神(しきしゅがみ)に憑いてもらう方法があるの?」

「あぁ、ちょっと変則(へんそく)だがな。………こっちから暴れ神に条件を出す」

 篠田の言葉に、翠はただただ混乱する。

 先ほどまでとは全く逆の立場。翠の霊能力からして、こっちは圧倒的に下な立場のはずだ。だから、今までは暴れ神にお願いしていたのに、今度は逆に、こっちから条件を出して式守神(しきしゅがみ)になってもらう。

 翠には篠田の考えが理解できない。

 その篠田の方は、自分の台詞で大切なことを思い出し、スマートホンから目を離すと、翠の方を向いた。

「そうだ、忘れていた。上高井は今から暴れ神に向かってこう言ってくれ」

 翠はまだ理解できないその状況に、それでも眉毛をしかめたまま耳を傾けた。

「あなたが危なくなったら、私が助ける。だから、その時は私の式守神(しきしゅがみ)になりなさい。と」

 それを聞いても、篠田が何をしたいのか、翠にはまるで理解出来なかった。こんなに強力な暴れ神が、危ない状況になる訳とは何なのか。しかし、一度は諦めた状況を、篠田が成功すると言ってくれたのだ。

 掛け値なしに信じても大丈夫な気がした。

「解ったわ、言ってみる」

「あぁ、それが終わったら家に一旦帰ろう。少しでも体調を立て直しておかないと、全ては明日に決まる」

 篠田はそう言ってから、やっとスマートホンから電話を掛ける。相手はナインワードという外人で、この場所の結びを切った張本人だ。

 翠は前を向くと正座をして、言われた通りの台詞を暴れ神に伝えると、乱れた衣装のまま、篠田とともに社務所を出ていく。

 あとから考えれば、確かに篠田の言った通りに、翠は自分の視野が狭いと解った。

 だけど、今までと同じように彼を憧れ続けた。

まずは遅くてすいません。

最近はここで謝ってばかりですね。

もうすぐ奈良篇が終わります。説明が長くてわかりにくい所も多くあったとは思います。微かではありますが手直ししてますので、暖かい目で見守ってくれれば幸いです。

さて、奈良篇最後の章では、わたしのお気に入りが顔を出します。やはり、好きなキャラクターが出ないと筆が進まない物で、きっと早くに出来る予定。

頑張ります。

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