日常生活
護に引き連れられてる間、俺は担任からの説教打開策を考えていた。学校までは約10分かかる。その間に考えろ。
先生が急病にかかる? いや、先生が可哀想だ。先生に罪はない。それに先生一人いなくなったところで、他の先生が確認するだろう。じゃあ、休校にさせるか。そうだ、それがいい。では、早速。
あれ? でも、今日って……
「なぁ、今日って何かあったっけ?」
「ん? あぁ、三送会だな。どうかしたのか?」
「あ、いや、なんでもないですよ、うん」
危ない、三送会を潰したら上級生からの反感を買ってしまう。
うちの学校は何かと行事が多い。聞く話によると、生徒会長が優秀で、試しに出してみた案を全て可決した上、見事に全てこなしたそうだ。因みにその時上がった物で採用された行事は、麻雀大会、花火大会、登山、ゲーム大会(さすがに表向きはプログラム研究会と呼ばれている)、水泳大会などがある。本当にがんばったな、会長。
その結果、何かのトラブルで行われなかった行事は延期ではなく、中止になる。まぁ、月に一回は行事があるから何か一つ潰れるぐらいはどうといったこないのだが、それが三送会となれば話は別。基本、一年の俺等には関係の無い話しだが、三年からの反感を買うのは些か危険だ。俺だってまだ生きていたい。
ならば、別だ。さて、何があ……
「着いたぞ」
「え? ま、まじ?」
「まじ」
さようなら、俺は旅立つよ。
両手を胸の前で組み、天に祈りを捧ぐ。道行く人が此方を見ていたが気にしない。どうせ、もう召されるのだ、今更気にしない。
いや、待て! まだ打開策はある!
「地球よ、破滅しろー!」
気が付くと俺は願いを口にして叫んでいた。
出勤中のサラリーマンや登校中の小学生に残念な子を見る目で見られた。しかも、俺が祈ったら絶対に破滅するはず無いじゃないか。
「これで地球は暫く安全だな。それとも何か? 馬鹿なのか? 死ぬのか?」
護からの痛い駄目押しを食らう。
何この公開処刑。自分でやったんですけどね!
「もう諦めろ、着いてしまったんだ」
「お前が連れてきたんだよ!」
「叫ぶな、校内にまで響くぞ」
「って、いつの間に中に!?」
ふと気付くと校舎内の下駄箱まで来ていた。誰もいない玄関には俺の叫びが響くだけだった。
「お前が祈りを注いでいるからだ。全く、いくら勉強が出来ても馬鹿だな、お前」
「……ウッ」
確かに元が元なだけに、勉強は努力でどうにかしたが、生活上でぼろが出てしまう。それだけはどうしようも無いのだが……
「五月蝿い!」
護にローキックを当てる。いくら友達でも言って良い事と悪い事があると思う。
護はその場に崩れ落ちた。
「ちょ、おま、いきなり蹴はねぇだろ」
「五月蝿い!」
もう一発殴ってやろうとしたが、「わ、分かった、悪かった」と謝ってきたため、拳を開いて引っ張り上げた。
分かれば良いんだよ、分かれば。
「ふぅ、にしても、本当に力だけはあるよなぁ、力だけは」
「だけを押すなよ、照れるだろ」
「うん、いや、いいと思うよ、それで」
またも憐れみの眼差しを向けられる。さすがにボケですよ? いくらなんでもそこまで馬鹿じゃないよ。
しかし、困った。
俺は惨劇回避を諦め、もしかしたらまだ先生が来てないかもしれない、という希望を胸に教室へと向かったはいいのだが、見事に全クラスの教室の扉が閉まっている上に物音一つしていなかった。 もうすでにSHRが始まっているようだ。流石にこの静かさの中、堂々と入っていくのは気が引ける。
頼みの綱だった護は、「まぁ、がんばれ」とだけ言い残して自分の教室へと入って行った。
静かさの漂う廊下でうーんと頭を抱えていると、背後から足跡が聞こえてきた。
「やあやあ、おはよー」
不意に声をかけられて焦ったが、そのテンションで誰だか特定できた。
「うーす、日和」
朝から明るい調子で話し掛けてきたのは、『赤芭 日和』。何気、小学校から同じらしい。というのも、自分は小学校の時、男友達と遊ぶ事に夢中で女の子を覚えていなかったのだ。しかし、日和は俺の事を覚えていたらしく、高校に上がって同じクラスになったのをきっかけに話し掛けてきた。中学の時は少しだけ話した事もあったので、すぐに打ち解ける事が出来た。
「んで、何やってるわけ?」
「ん? いや、見て分かるだろ」
「はは〜ん、さては紡も遅刻だな」
「も、と言う辺り、さては貴様もだな」
「ふ、ばれては仕方あるまい、その通り! 私も遅刻したのだよ!」
日和の甲高い声が廊下中に響き渡る。
こいつ馬鹿だ!
「おい、沙千! 赤芭! 何してるんだ、さっさと中に入れ!」
その後、担任だけでなく、生徒指導の先生にもこっぴどく怒られました。