その嘘告白、先手必勝で潰します
私の名前はモニカ。
特待生として、奨学金でゼニアルデ王立学園に通わせてもらっている平民です。
ナーロッパ大陸の中でも有数の大国であるゼニアルデ王国。そのお膝元である学園は、各方面で王国の明日を担う有能な人物の育成を目指しています。
その一環として貴族子息、大手商家の跡取り、才能を見出された平民など様々な身分の者が同じクラスにまとめられ『一学生の内は対等』として自由に交流できる仕様。
様々なしがらみの少ない若い間に、各生徒が多様な価値観に触れられるように……との考えからみたいですね。
そしてそれは実際、ある程度の成果を上げてはいる様子……とはいえ、やはり全くのフェアとはいきません。
例えば私は孤児院出身なんですが、そのスポンサー兼卒院後の大手就職先になってくれている商会のご子息には頭が上がりませんし、そんな彼も実家が商売している地域を治める貴族の令息には頭が上がりません。
まあ、人生そんなもんです。
しかし幸い、私が頭の上がらない商会のご子息であるオウミさんは――
「素敵な方よね、知的で優しそうで」
「ええ、そうですね」
「彼とは幼馴染なんでしょう?」
「うーん、昔からの知り合いではありますが……」
学友であるアンネの言葉に言い淀みます。
幼馴染……とは少し違うような気がしたので。
確かに彼は幼い頃、ご両親に連れられてよく孤児院にいらっしゃいましたし、一緒に遊んだ事もあります。
今だって同じ図書委員として一緒に活動する事も多いし、本の趣味だって合う。
しかしながら、私達は対等の関係ではありません。彼が上で、私が下です。
「とは言ってもさ、モニカってぶっちゃけ、オウミくんのこと好きなんでしょう?」
もう半年近くになる付き合いだからわかるのですが、大きなイチゴ農園の子女であるアンネはこういう甘酸っぱい話が大好き。
「私がオウミさんに惹かれているのは認めますよ」
「わーお!」
目を輝かせるアンネ。どうやら彼女の世界は夢と恋にて構成されているようですね。しかし、現実はそんなに甘くない。
「でも彼のご実家は、商売で深い付き合いがあり同じくらいの経済力をもつ職人ギルド長のお家と懇意にしています。で、そこの娘さんも丁度私達と同い年くらいなんです」
「わーお……」
彼女の目からハイライトが消えました。
まあ、人生そんなもんです。
なので、この気持ちは胸に秘めたまま学業に邁進していく所存。
いずれは優秀な税理士か司法書士となり、彼の実家や彼の役に立つ存在になるのが当面の目標ですね。
アンネとそんな話をしながら学食を食べ終えた後は、気分転換に校内を散歩します。適度な運動は心身の健康に良いらしいですからね……今日はちょっと遠回りのコースへ足を伸ばしてみましょうか。
そうやって裏庭を通りかかったところ、男子生徒達の騒がしい声が聞こえてきました。どうやら『王様ゲーム』というのに興じている様子。
「そんじゃ最後のくじ引くぞー!」
音頭をとっているのは、私達の孤児院がある地域を治めている伯爵家令息のチャランコ・ガラワル様でした。
他国貴族との政略結婚の末にお生まれになった方らしく、この国では珍しい浅黒い肌と金髪の持ち主です。
「ギャハハ、王様は俺じゃねーか!」
身体が大きく騒がしく、筋肉質で、沢山ピアスとかもつけてて威圧感が凄い方だから、正直ちょっと苦手……
(引き返しましょう)
そう考えて回れ右した私ですが……
「じゃあ命令は〜『オウミは明日、モニカに告白する』に、けってーい!」
そんな声が聞こえてきて、足が止まります。
なんでそんな話に!?
そしてオウミさんもゲームに参加されていたことにびっくりです。
「チャランコ様、何故その様なご命令を……」
「ギャハハ、面白そうだからだよ!」
困惑するオウミさんに、軽いノリで答えるチャランコ様。なるほど……分かりました。おそらく、これは所謂『嘘告白』、もしくはそれに準ずる悪趣味なゲームなのでしょう。
「それは流石に……」
「からの〜!」
「彼女にも申し訳ないといいますか」
「か〜ら〜の〜?」
角を立てない様に何とかお断りしようとして下さっているオウミさんですが、それは中々難しそうです。
まあ、それは仕方ない。
本学園は、『一学生の内は対等』として自由に交流できる仕様になっていますがその実、様々なしがらみがありますからね。
例えば私は孤児院出身なんですが、そのスポンサー兼卒院後の大手就職先になってくれている商会のご子息であるオウミさんには頭が上がりませんし、そんな彼も実家が商売している地域を治める貴族の令息であるチャランコ様には頭が上がりません。
(その辺を把握した上での命令だとしたら、随分と意地の悪い事ですねぇ……早いところ、何か対策を考えなくては……)
そんな事を考えながら、私は場を後にしました。
***
その日の放課後。
「お時間頂きありがとうございます」
私は、オウミさんを図書室に呼び出しました。
「それは全然良いんだけど……一体どうしたんだい、図書委員関係の相談かな?」
「いいえ、違います」
理由はたった一つ。
先手を打って『嘘告白』を潰すためです。そしてその方法は――
「オウミさん……ずっと言えませんでしたが、私は昔から貴方の事が好きでした」
こちらから先に告白してしまう事!
まあ、勝算は全くない負けイベントなんですけどね。これが一番双方の受けるダメージが浅いと判断しました。
だって、嘘告白にYESと答えて笑い物にされるのもゴメンだし、NOと答えてオウミさんに恥をかかせるのはもっとゴメンですから。
加えて言えば、『アイツは嘘告白した奴だ』なんて話が広まれば、オウミさんはこの先、結構生き辛くなってしまう。
逆に、今私が告白してフラれるだけなら、青春の甘酸っぱい思い出で終わります。そして、『嘘告白』というゲームが前提からご破算になるってスンポーですよ。
「本当に大好きで……願わくば、貴方とお付き合いしたいと思っています」
強がりを言えば、何もなければ一生秘めていたであろう気持ちを伝えるキッカケにはなりました。いつか今日を笑い話にできる日も来るでしょう。
負けイベントですが、悔いはありません。
さあ、ズバッと振ってやって下さい。
「嬉しい!僕も君の事が好きだったんだ!」
なんですと!?
「勇気が出ず、こちらから言えなくってごめん。返事は勿論YESだよ」
***
その翌日の放課後、モニカからオウミが告白され付き合いはじめたと言うニュースを聞いたチャランコ・ガラワルは仲の良い貴族令息達と共にいた。
「まさか彼女の方から告白するなんてなw」
「お前の準備、全部無駄になっちまったな。オウミが『僕に告白されたら、彼女は立場上、内心嫌でも断れないでしょうし……』とかいつまでもウジウジ煮え切らないから、せっかくゲームにかこつけて背中を押してやったのに」
仲間達からそういじられるチャランコは、ギャハハと大きな声で笑う。
「いいんだよ!」
自由恋愛を楽しむのは庶民の特権。
そして、じれってぇ奴等がいれば適度に応援しつつ、話がどう転ぶか楽しむのが貴族の特権だぜ、と。
「そして何より、ダチ公が幸せになったんだからよ!」
「でもさ、今更だけどお前の立場からしたらオウミの実家は栄えた方がよくて、それにはアイツが職人ギルド長の娘とくっついた方が都合良かったんじゃねーの?」
そんな仲間からの言葉にも、チャランコはあっけらかんと答える。
「いーのいーの。まだ調査中でオフレコなんだけど、あの職人ギルド長、どうやら脱税してるっぽいしそこに娘も一枚噛んでるみたいなんだよ」
利権を持っちゃいるが、大した技術はねーし、伯爵家は今後、別のギルドを贔屓にする予定だぜ。そしたら自然と、オウミの実家とも疎遠になっていくだろうな、と。
「一方、モニカは堅実で実直。成績も優秀だぜ」
「なるほどな、孤児院育ちなだけあって金の大切さもよく分かってるだろうから、商家の妻としても満点ってわけか」
「そうそう。ギャハハ、俺、天才!」
チャランコは身体が大きく騒がしい。筋肉質で、沢山ピアスとかもつけてて威圧感も凄い。ゆえに、脳筋というかちょっとアレな人に見られがちな彼だが……
「それに何より……こっちの方が面白れーじゃねーか、愛する二人が結ばれて、ハッピーエンドだしよ!」
実際はエリート同士の政略結婚により生まれた、情にも厚いただの優秀な貴族令息であった。




