外伝
『約束の木、錆びた剣の誓い』
魔王城が落ち、平和が訪れた世界。 アレンは旅の途中で、かつての故郷、ベルク村の裏山にある「約束の木」の前に立っていた。 そこは、アレンとガイルが初めて「冒険者」を夢見て、木の棒を振り回していた場所だった。
「……なぁ、アレン。俺たち、どっちが先にSランクになるか競争だぜ」
風の中に、幼い日のガイルの声が聞こえた気がした。 当時、二人はまだ10歳。村の大人たちからは「夢見がちなガキども」と笑われていた。アレンは生まれつき魔力が皆無で、ガイルもまた、平凡な農家の息子に過ぎなかった。
ある日、二人は村に迷い込んだ弱った魔物「影狼」に遭遇した。 震える足で、アレンは落ちていた錆びた短剣を手に取り、ガイルの前に立った。才能も力もない。ただ「友を守らなきゃいけない」という一心だった。 その時、アレンの手の中で剣がわずかに熱を帯びた。それは、初代勇者の血が初めて微かに脈打った瞬間だった。
「アレン、お前……今、光ったぞ!」 ガイルが驚いて叫んだ。魔物はアレンの放った不器用な一撃に驚き、逃げ去っていった。 「光った? ……気のせいだよ。ただの錆びた剣だし」 「いや、絶対光った! お前はいつか、すごい勇者になるんだ。俺は、その横で盾を構える最強の戦士になってやるよ」
ガイルは笑って、アレンの肩を叩いた。 それが、二人の冒険の始まりだった。
アレンは現在の手元にある、ガイルの形見の剣を見つめた。 あの日、ガイルが言った言葉は、半分だけ現実になった。アレンは勇者になり、ガイルはその隣で命を懸けて戦った。
「……競争は、俺の勝ちかな」
アレンは小さく呟き、木の下に腰を下ろした。 ガイルがいなければ、Fランクの3年間を耐え抜くことはできなかった。王都へ向かう勇気も出なかった。 アレンが魔王を倒せたのは、初代勇者の血筋のおかげだけではない。挫けそうになるたびに、「アレン、お前ならやれる」と言い続けてくれた親友の言葉があったからだ。
空を見上げると、一羽の鳥が南の空へ向かって飛んでいく。 「ガイル。俺、まだ旅を続けるよ。あんたが見たかった世界の景色、全部俺が見てきてやるから」
アレンは立ち上がり、剣を背負い直した。 彼の背中は、もはや「錆びた鉄屑」ではない。 多くの想いを背負い、どこまでも続く道を歩む、一人の「英雄」の背中だった。
(あとがき) この外伝は、第1章よりも前の出来事と、最終章の後のアレンの心情を繋ぐエピソードです。 ガイルがいかにアレンを信じていたか、そしてアレンにとってガイルがいかに大きな存在だったかを補完しました。




