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隣の教室でアイドルデビュー!?に隠れた俺の災難

いつか書く長編のための練習に短編を書きました。お手柔にです。


その日、俺の隣の教室にアイドルがいた。


細かい説明は面倒くさいので省かせてもらうが、その日俺の隣の教室に、人気アイドルグループのオーディションに合格した美少女がいた。

前日の夜、某アイドルグループの公式配信で新メンバーが発表され、たった一夜にして学校中の誰もが知る話となったのである。


誰もが未来のスターを拝みに廊下に列をなし、握手やら一緒に写真を撮ってもらうやら、まさにお祭りであった。

そんな浮かれきった空間から壁一枚を隔てた場所に、厨二病を拗らせた斜に構えた態度で座るイタイ男がいた。もちろん俺だ。


今までそんなに話したことも、大した関係も持ち合わせていない人間が出世頭になった瞬間に急に眼前に現れるのも迷惑だろうと思い……そう、冷静を装っていたのだ。

しばらくして、「あの時俺も握手と写真、何ならサインも貰っときゃ良かった。人生で最もアイドルに近づくチャンスだったかもしれないのに。」などと後悔を吐露することになるのだが、いやそんなことはどうでもいい。


とにかく、その美少女の日常はその日を境に一変した。

と同時に俺の日常にも、彼女の“余波”というのだろうか。多少の影響が及んだのである。



まず、アイドルとなった美少女ちゃんは学校でも大層活動的で、積極的に何事にも挑戦していたのだろう。

全国の学生たちが企業に向けてプレゼンをする、学生大会的なものの予選に彼女は出場していたのだ。


苗字が珍しかったのも関係していたのだろう。

話題のアイドルがどこそこの学校に通っているのか特定され、アイドル情報をまとめた個人のブログに、彼女の情報と共に学校名が掲載されることとなった。


程なくして彼女は上京したので特に事件はなかったと思うのだが、「ネットって怖ぇ〜!」をリアルに体感した出来事だった。

おそらくこれが、俺に降りかかるちっさい災難の原因である。端的に言うと、不審者の出現だ。


学校を取り囲む閑静な住宅街に似つかわしくない“大きなお友達”の出現である。

俺も牛の系譜を受け継ぐ者なので人のことは言えないが、今回は制服を着ているのでお前はどうなんだとう件については許していただきたい。



そしてダメ押しが、電車で出会った“あのおっさん”である。俺が隠キャ二人で電車で帰る時のことだ。

出発するまでしばらく待っていたところ、ガラガラで他にも席は空いているのに、隣に座ってきたおっさんがいた。


内心ビックリしたが、詰めて座りたいタイプなのかもしれないと警戒心を持ちつつも、当時キャラが可愛いと話題だった学園都市青春美少女RPGをスマホでぽちぽちしていた。

進行のドアが閉まってすぐ、彼は話しかけてきた。


おそらく、見た目とやってるソシャゲから同類だと感じたのだろう。

なんの脈絡もなく、前置きもなく、いきなり


「アイドルとか好きなの?」


知らない大人にいきなり話しかけられるほど恐ろしいものはない。

思い込み過ぎかもしれないが、無視したら何かされるのではないかと考えて、すぐにレスポンスした。


「あんまり詳しくないですね、あはは」


重ねるように彼は喋った。


「〇〇とか知らない?〇〇とか〇〇とか」


「指原しか知らないっすね。すいません。」


なぜ俺が謝らなければならないのか。

そして俺の隣に座っているもう一人はなぜ俺を助けようとしないんだ。おい、目を合わせろ。目を! 怒りが俺を奮い立たせた。


緊張しながらも返事はできるギリギリの状態で、相手をとにかく刺激しないように慎重に言葉を選ぶ。


「えー、もっと勉強したほうがいいよ」


「すいやせん」


「ところでさ、バスの方に向かって行ったすごい可愛い子知らない? 彼女絶対アイドルになったら人気でると思うんだよね。ボォクにはわかるよ。連絡先とか知らない?」


……こいつ、本物だ。俺は絶望した。


「いやーちょっと、それが誰か僕にはわかんないっすね」


「知らないふりしなくていいからさぁ。ほらあれ、背が高かめの女の子」


「いや、そもそも僕が知ってたとしても、外部の人間には教えられないっすよ」


「そう言わずにさ〜頼むよ〜」


刺激しないよう精一杯気を遣っていたが、しつこいのでイラッときてしまった。


「あのですね、本当に連絡先なんて持っていないんですよ! 僕に彼女とかいるように見えます? そ う い う こ と で す よ!!!!」


ヘラヘラ笑いながらおっさんは答えた。


「確かにいそうには見えないよ〜!!! あはははごめんよ〜」


こいつは俺の手で殺す。そう決めた。


「いや君もっとね、アイドルとか見たほうがいいよ。じゃないとモテないよ」


どの口が言うのか。


「あはは、ありがとうございます。ミテミマスネー」


「そんじゃありがとね。ボォクはここで降りるから〜」


こうして嵐は過ぎ去った。今回は相手が俺だったから良かったものの、もしこれが他の人だったらと思うと、何か大きな事件に発展したかもしれない。

いや、“同志”に見られる俺の出立ちのせいだろう。大学生になったら絶対に垢抜けてやろうと心に誓った。


「なんやあいつ。こっわ!!!」


自身が安全圏にいるとわかった途端、話し始めるこいつもこいつである。


「俺を助けろよ!!!( ; ; )」


この日以降、しばらく似たような感じで帰りの道中や電車、駅の周辺でちょこちょこっと話しかけられることが多々あった。


……とまあ、そんなわけで。


俺の日常は、隣の教室にいたアイドルによって、ちょっとだけ掻き乱されたのである。



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