約5000文字で10人のヒロインが出てくるラブコメ
忙しい現代を生きる皆様のために、手っ取り早く多くのヒロインを楽しめる短編を書きました。
「こっちだよ、ヒロ!」
俺の少し前を笑顔が似合う女の子が走っている。
トレードマークのツインテールを揺らしながら、俺を誘うように笑いながら。
「待って!」
俺は必死に追うけれど、どれだけ必死に足を動かしても全然前に進んでくれなくて……彼女はどんどん離れていく。
そして――
――
「はっ……!」
目を覚ますと、見慣れた自室の天井が視界に広がっていた。
夢を見ていたのだとすぐに分かった。
もう何度も見た夢だったから。
「はぁ……」
「にい、起きた?」
「わっ! ……桃か、ビックリした」
「にいのお布団に潜り込むなんて、桃しかいないと思うけど」
そう、俺の隣に横たわりつつ、無感情な目で見つめてくるのは、妹の桃だ。
一つ年下、現在高校一年生。この春から一つ屋根の下に共に暮らしている。
というのも――。
「ヒロくん~起きたぁ~?」
バンッとドアを開け、大人の女性が入ってきた。
ノックくらい……と言いたくなるけれど、ここは彼女の家で、俺は居候の身だ。文句は言えない。というか何度も言ってきたけれど聞いてくれなかった。
「にいは私が起こしました」
「えー、桃ちゃんが来てから役目奪われてばっかりだなぁ」
がっくりと肩を落とす彼女は、俺の叔母だ。
母の年の離れた妹である彼女は、田舎に住む両親に代わり、今俺たち兄妹の保護者として住む場所を与えてくれている。
まぁ、上京にあたって叔母さんが一人暮らしするマンションに転がり込ませてもらったという感じだ。
俺がここに来て1年、桃も来るまでは、目が覚めたとき真っ先に視界に入るのは叔母さんだった。彼女にとって俺は年の離れた弟みたいなものらしく、実にからかいがいのある相手らしい。
大人の女性特有のフェロモンというかつい気を取られてしまいそうな香りを放ちつつ、たわんと揺れる胸部を薄手のキャミソール一枚だけで隠し、俺の上に覆い被さって寝顔を観察してくる彼女……いくら親戚同士とはいえ、心臓に悪い!
そういう意味では、桃がその代わりになってくれて若干ホッともしているのだけど。
「ヒロくんの筋肉、なでなでしたいのになぁ~」
「駄目ですよ、叔母さま。家族同士の過度な触れ合い……実妹以外が兄の体にベタベタ触れるのは違法ですから」
それどこの法?
俺を庇うように叔母さんに立ちはだかる桃と、年甲斐も無くむすっとする叔母。
朝からバチバチと火花を飛ばし合う二人を見つつ、俺は今日が始まって早速溜め息を吐くのだった。
制服に着替え、ゴミ袋を持って部屋を出る。桃は日直とやらで一足早く登校していった。叔母さんは在宅仕事なのでまだ中に居る……しっかり行ってらっしゃいのハグをされた。
ゴミはマンション共用のゴミ捨て場があるので、登校前に出していくというのが俺の日課だった。
「あ、寛人くん。おはよう」
「住吉さん、おはようございます」
ちょうど部屋を出たタイミングで、隣の部屋に住んでいる住吉さんと出くわした。彼女はこの近くにある国立大学に通う女性で、おっとりした雰囲気ながらプロポーションは激しく主張している、ミス○○大なんて称号が似合いそうな人だ。
内心、タイミング合ってラッキーと思いつつ、割と出くわす機会は多い。二日に一回かそれ以上か――波長が合うんだろうか。へへへ。
「寛人くんもゴミ捨て? じゃあ下まで一緒ねっ」
「はいっ」
住吉さんは嬉しそうに右手に持ったゴミ袋を見せてきつつ、ほわっと微笑む。ほんのりと紅潮した頬、とろんと熱の籠もった瞳。声色の節々から「あなたが好きです」と幻聴が聞こえてきそうな、そんな雰囲気を感じさせる……まさに魔性の女と呼べる存在なのかもしれない。
こんなのを全方位に振りまいていたら、ミス○○大にならずとも同じ大学に通う男性達は落ち着かないだろう。一体どれだけの人が彼女の虜になっているか……恐ろしい人である。
ゴミ出しを終え、住吉さんと手を振り合って別れ、通学路を歩く。
この辺りは小中高、そして大と密集しているので、年齢幅様々な若人達が朝からせわしなく行き交っているのが特徴的だ。
それに混ざりつつ、俺も高校に向かってせっせと歩を進めているのだが――。
「あっ、寛人!」
「ん……寛人お兄さん、な」
その道中でランドセルの似合う現役女子小学生、みくりちゃんと出くわした。彼女は近所に住む小学生で、俺は何度か地域活動の場で顔を合わせ懐かれ――いや、舐められている。
「おはよう、みくりちゃん」
「ん」
朝の挨拶をする俺に対し、みくりちゃんは憮然と手を差し出してきた。
むすっと、不本意そうに、顔を背けつつ。
理由は……まぁ、いつものだ。俺たちの進む先には大通りがある。そこにかかるは長い横断歩道。
「はいはい」
俺はみくりちゃんの不本意そうなおねだりを察し、彼女の手を握った。対し、みくりちゃんはぎゅーっと握り返してくる。握力で潰してやろうという魂胆だろうか。
でもこちとら男子高校生。女子小学生の握力でひいひい言うほどヤワじゃない。
みくりちゃんは年上の俺にも余裕でタメ口を使ってくるし、生意気だけれど、交通ルールは人一倍、年相応に守っている。長い横断歩道を渡るときは、こうして大人な俺に手を繋ぐようせがんでくるのだ。
青信号を渡りきったところで、高校と小学校で行き先が別れる。
俺はみくりちゃんの手を離しつつ、彼女の頭を撫でた。
「今日も偉いよ、みくりちゃん」
「ふんっ。寛人も嬉しいでしょ。みくりみたいなビショージョと手を繋げたんだから」
「ああ、嬉しい嬉しい」
「えへへ……」
こうして渡りきった後、交通ルールを遵守する彼女を褒めそやすまでがルーティーンだ。普段は舐め腐った態度を取る彼女も褒められれば相手は誰でもいいのか、嬉しそうに頬を蕩けさせている。
現金にも思えるけれど、小さい頃の桃を思い出して俺もほっこりしてしまうのだった。
ということもありつつ、無事始業10分前に教室に着いた俺。
少し早めだけれど、ギリギリになるとみくりちゃんと登校時間が合わなくなっちゃうからな……仲良く(舐められるように)なってから、タイミング合わなくて泣かせちゃったことが何度かあるから……。
「おはよう、大貫くん」
「おはよ、日野さん」
自席に鞄を置くと、隣の席の女の子、日野さんが声を掛けてくれた。
日野さんは可愛いながらに大人しめな女の子。でも毎朝こうして挨拶をしてくれる凄く良い子で、ついつい先に声を掛けてもらいたいと思って待ってしまう。
女子の中では一番話しやすい、仲の良い相手かもしれない。
「大貫くん、二限の数学、宿題やってきた?」
「もちろん」
「さすが。じゃあ……もし良かったら、お互い見せ合いっこしない?」
「いいね」
この日野さんの提案は、なにも宿題を写して楽してやろうというものじゃない。
お互い確認して精度を上げようという真面目な理由からで……まぁ、日野さんの方が俺よりずっと勉強ができるので、俺ばかり助かっているのだけど。
「よおっ、親友!」
なんて、机を寄せ合いノートを見せ合っていると、後ろからどかっと抱きつかれた。
「よっ、瀬尾」
「おはよう、瀬尾くん」
「おはよう、日野ちゃん。それに親友も!」
男のくせにぐりぐりと体を擦りつけるように抱きついてくるのは、この高校に入ってすぐにできた友達、瀬尾だ。
男の割に女子にしか見えない可愛らしい顔立ちをした華奢な彼は、どういうわけか俺を親友と呼ぶくらい気を許してくれている。
同じ男性のくせに、女の子みたいな良い匂いを漂わせているので、正直変な気を起こしてしまいそうだ……い、いや、そこは理性を振り絞って耐えているけれど!
ただ、学年の何人かは既に落ちているらしく、今年の文化祭はなんとかして瀬尾に女装をさせられないか企んでいるとか……まぁ、俺も若干見てみたくはある。
そんなこんなで親友との挨拶もこなしつつ、机をくっつけたおかげで度々触れる日野さんの腕の感触にドギマギしつつ、宿題を見せ合うことしばらくして――始業のチャイムが鳴り、先生が入ってきた。
「みんな、おはよう」
ゆったりとスーツを着こなし、背筋をピンと伸ばしつつ、柔らかな笑顔を浮かべた我らが担任。彼女は俺たちが入学すると同時に教師になって、その年で早速俺たちの担任になったという付き合いだ。
いきなり担任を持つなんてタイヘンだなぁ……と思うけれど、そういうものなのかもしれない。
一昨年まで大学生だったこともあり、俺たちとさほど年が離れた感じではなく、しっかりした姉みたいな印象だ。少なくとも叔母さんよりはしっかりしてる気がする。
「号令お願い」
先生が日直にそう促し、日直の号令で俺たちは朝の挨拶を交わす。
俺は詳しいわけじゃないけれど、先生はいい先生だと思う。こういう挨拶の時にも感じるけれど、いつも礼が終わって顔を上げると、優しい微笑みを浮かべている先生と目が合うのだ。
きっとみんなにもそう見えているんだろう。一人一人をしっかり見ているからこそ、目が合っていると錯覚する……トリックアートみたいなものだろうか。
いや、だって、毎度毎度俺だけを見ているなんてあるわけないし。
仮に美人すぎる担任教師に特別目をかけられているとなれば、俺もウキウキせずにはいられないけれど……その場合、目をつけられていると表現する方が正しいんだろう。となれば問題児扱いされていることに他ならず……うん、そんなこと無いと信じたい。
一日の授業がすべて終わり、放課後になった。
さあ帰るぞ、と意気揚々と立ち上がったところ、ポンッと肩を叩かれた。
「暇そうね、大貫」
「げ……委員長」
「なにが『げ』よ」
ぱしっと肩を小突かれる。
つり目の似合うこの美少女は我らが委員長。
自らクラス委員長に率先して手を上げる程度には真面目で気が強く、クラス限定風紀委員として恐れられている存在だ。
そんな彼女に、今度こそ間違いなく俺は目をつけられているらしく、よく声を掛けられる。
「別に暇じゃないぞ。帰ろうと思ってただけで」
「そ。じゃあちょうど良いから付き合って」
「え……そんな大胆な告白……!?」
「ち、違うわよ!? ばっかじゃないの! 職員室に用があるからついてきなさいって意味!!」
「えー……それ俺必要?」
「必要かどうかは分からないわよ。でも力仕事がいる用事が出てきたら、いたほうがいいでしょ」
委員長は俺に目をつけていて、更生くらいの感覚で何かと委員長業務に付き合わせてくる。荷物運びや実習教室の掃除など、安請け合いしては俺も巻き込み……まぁ、俺に全部押しつけて帰るわけじゃなく、自分でもやるから文句も言いづらいんだけど。
「いいから行くわよ!」
「へーい……」
俺の腕をがっちり掴み、逃がさないという意思を強く見せてくる委員長に逆らう気も起きず、俺は渋々従うのだった。
そして、案の定委員長が安請け合いした雑用をこなし、途中で先生も合流しつつ色々あって……帰る頃にはすっかり夕暮れ時になっていた。
「疲れた……」
とぼとぼ帰り道を歩きつつ溜め息を吐いた俺はふと思い立って、通学路から外れ、寄り道をすることにした。
といっても大胆に買い食いをするとかじゃなく、ちょっと逸れたところにある神社に行くのが目的だ。
そして神社でお参り――というわけではなく、目的はここに住み着いている子に会うためである。
「にゃあ」
「おおっ、元気かー」
それは一匹の三毛猫だ。いるときといないときがある気まぐれな野良猫だけど、いるときは俺を見つけると自ら勢いよく飛びついてくる。
野良猫なんてバッチィと思われるかもしれないが、この子は抜け毛もまき散らさないし、いくら抱いても頬ずりしても痒くなることなんかない。
毛並みも整っているし、健康的だし……どこかで飼われてるのかなとも思ったけれど、首輪はついてなくてそんな気配はない。
まぁ、よく分からないけど……とにかく、俺にとってはすごい癒やしなので現状維持が一番だったりする。さすがに叔母さんのマンションに連れ帰るわけにはいかないしな。
「ごめんなー、今日は食べ物特に持ってないんだけど」
「にゃう!」
手ぶらで来たことを謝ると、彼女は「気にするな」と言いたげに軽やかに鳴いた。
ああ、可愛い。未だ慣れない都会暮らしの中で、この子と一緒に居るときは本当に気持ちが楽になる。
「いっそ本当にうちの子になるか? なーんてな。ははっ、分かってるよ」
ぺしっと尻尾で手を撫でられ、戯れ言を引っ込める。
誰が人になんか飼われてやるもんか、という気高さみたいなものを感じさせて、好きだ。
「にゃう」
でも、今はいっぱい甘えてこいという度量も感じさせてくれて……俺、大きくなったらこの子みたいな大人になりたい、と思いつつ、遠慮なく日が暮れるまでそのお体を吸わせていただくのだった。
最初は1万字のつもりでしたが、5000文字ちょっとで収まったので今日はこれくらいで勘弁してやる!
以下、ヒロインリストです(登場順)
・夢に出てくる幼い頃一緒に過ごした女の子
①幼馴染み(幼い頃はずっと一緒だった)
・居候中の家のヒロイン達
②主人公の実妹(主人公が好きすぎてついてきた)
③叔母さん(シングルマザーだけど、主人公にほのかな男を感じている)
・通学道中
④近所の大学生のお姉さん(主人公がタイプで、内心ドキドキしている)
⑤小学生(生意気だけれど主人公に大人の魅力を感じている)
・学校
⑥隣の席の女の子(ただただ仲が良い)
⑦親友(男装しているけれど実は女の子)
⑧先生(実は主人公が幼い頃プロポーズしたお姉さん)
⑨委員長(風紀に厳しいけれど実は主人公に一目惚れしている)
・???
⑩女神様(主人公をずっと見守っている。時折猫に化けて主人公にめちゃくちゃ可愛がられている)