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勝ちに乗じて追撃

麗子は新たにAI子会社を設立し、丁寧を技術総裁に任命した。さらに数億円規模の資金を追加投入し、最新型のGPUサーバーを購入する。この算力至上主義の時代において、グーグルなどと比べれば決して大きな投資とは言えないが、丁寧にとっての目くらましとしては、すでに十分すぎるほどだった。


麗子はまた、グループ傘下企業のエンジニア資源を再編し、丁寧のために専属のiOS開発チームとAndroid開発チームを配置した。


新会社の最初のプロダクトは、女性の肌を対象としたAI診断アプリだった。一般的に、肌トラブルを診断するだけでも難易度は高いが、A宝を中核として開発された大規模モデルは、さらに一歩踏み込み、個々の女性のその日の肌状態を診断し、日常的に使用している化粧品の中から最適な使用提案まで行うことができた。


診断を成立させる前提として、ユーザーは毎日肌の状態を記録する必要がある。いわゆる「肌日記」――それがアプリ名でもあった。ユーザーがアップロードした写真は、そのまま学習データとして大規模モデルの改良に用いられる。こうした好循環の中で鍛え上げられたモデルは、A宝の加護がなくとも、すでに非常に高い性能を発揮していた。あまりにも性能が突出しすぎないよう、ユーザー数が数十万人を超えた段階で、丁寧はバックエンドのモデルを徐々にA宝版から通常の機械学習モデルへと切り替えていった。


ユーザー数と高評価が蓄積されると、銀座の有名な皮膚科クリニックとの提携が始まった。目的は二つ。一つは肌診断の学習データをさらに充実させること、もう一つはAI補助によるオンライン診断を提供することだった。利便性を高めつつ、ユーザーがAIを完全に信頼しきれない心理的移行期間にも配慮した形である。


オンライン診断という新しい形態に慣れてきた後、ユーザーは月に一度のオンライン診断を受け、普段はAIによる再チェックを自由に行えるようになった。料金は再チェックの回数に応じて課金され、その一部がクリニック側に還元される仕組みだった。


ユーザー数が百万を突破すると、全国の皮膚科クリニックが次々と提携を申請してきた。比較的医療資源の乏しい地域に対しては、有名クリニックのオンライン診断、AIによる再チェック、地元クリニックでの対面診療を組み合わせたパッケージも提供された。医療の公平性を推進しながら、地域医療を脅かすどころか、良好な共存関係を築くことに成功したのである。


利便性の高い機能と高精度な診断により、日本国内のユーザー数は右肩上がりで増加し続けた。さらに、肌質の近いアジア地域でも、ユーザー数は指数関数的に成長していった。


日常的な肌診断の結果、もしユーザーが普段使用している化粧品の中に適切な製品がない場合、アプリは化粧品のレコメンドも行う。丁寧はユーザー体験を最優先する方針を徹底し、広告優先度を一切設けず、あくまで実際の使用データに基づいて推薦を行った。また、匿名化処理を施したうえで、推薦根拠を参照可能な形で提示した。この方針により化粧品広告の単価は下がったものの、ユーザー数がすでに千万を突破していたため、一般的なクリック広告だけでも会社は莫大な利益を上げていた。


続いて投入されたプロダクトは、もともとMeCut Studioの内部システムの一部だった、スタイリスト向けの顧客管理機能である。多くの顧客を抱える美容師にとって、過去の会話内容や重要なメモを記録し、素早く参照できることは不可欠だ。そうでなければ、次回対応前の準備に多くの時間を費やすことになり、重要な情報を見落とせば顧客満足度の低下にもつながる。


SNS時代において、写メ日記などのソーシャルメディアは、顧客との関係を深め、個人ブランドを発信する有効な手段ではある。しかし、忙しい日常業務の中で、継続的かつ定期的に魅力的なコンテンツを発信し続けるのは容易ではない。


市場には類似の自動化管理ツールが数多く存在していたが、記録形式が簡易すぎれば情報が抜け落ち、逆に厳格すぎれば煩雑になり、負担となる。生成される日記も画一的で、顧客が期待する「特別感」を損なっていた。


丁寧はA宝と議論を重ね、「進化するパーソナライズ」を主軸としたモデルを訓練した。初来店の顧客に対しては、気軽に記録できる設計とし、その段階では顧客側の期待値も高くない。来店回数が増えるにつれて、システムが求める記録内容も徐々に増えていく。


各顧客の記録から嗜好を抽出し、会話の話題を設計する。重要なのは、美容師本人の記憶の癖や業務習慣に合わせ、ワンタイムの記憶カードなど、完全にカスタマイズされた補助機能を提供することだった。これにより、美容師は瞬時に顧客情報を復習できる。


日記生成についても、初期段階では美容師自身が多く入力することで、モデルに語彙や表現の特徴を学習させる。やがて、その日の出来事と対応した顧客を記録するだけで、システムが自動的に写真を選別し、文章を生成するようになる。さらに、顧客名を伏せつつ、その顧客本人だけが分かる小さなエピソードを巧みに織り込むことで、プライバシーを守りながら強い親密感を生み出した。顧客はその日記を読んで、「これは自分のことだ」と理解し、結果としてロイヤルティが強化される。


一般向けに公開されたアプリ版には、DM対応機能も追加された。近年の若者は連絡先を交換することに抵抗が少なく、営業時間外にメッセージを送る顧客も多い。新機能では、定期的な自動返信が可能で、仕事に関係する重要な内容が含まれている場合は、ユーザー本人に通知が届く仕組みとなっている。


アプリはまず他社の美容師から高い評価を得て、その後、美容、ネイル、マッサージなどの個人経営者へと広がっていった。さらに留学コンサルタント、個人経営の飲食店オーナーなど、顧客関係の維持が必要なあらゆる職種で、第一選択肢として採用されるようになった。


無料版には機能と使用回数の制限があり、多くのユーザーが有料版を選択した。後にはVIP会員向けのカスタマイズ機能も追加され、アプリアイコンを顧客専用の識別子として変更できるほか、サービス業のオーナー向けに、好評価をもとにSNS広告を自動生成する機能なども提供された。


安定かつ巨大なキャッシュフローにより、MeCut StudioとAI子会社は短期間で上場を果たす。麗子はその資金を使い、本社グループ内で業績の振るわない旅館や小規模製造工場の大規模買収に乗り出した。


取締役会では鈴木副社長が大笑いしながら、麗子が会社の業績を倍増させたと称賛したが、その裏で自室に戻ると、手当たり次第に物を叩き壊していた。A宝は毎日、今日副社長がいくら分の物を壊したかを、嬉々として報告していた。


本社内での地位を着実に高める一方、麗子は新進気鋭の若手政治家たちとも積極的に交流し、社会貢献活動を推進し始める。


最初の取り組みは、社会的関心の高い保育園問題だった。基金を設立し、保育士に対して給与以外の福利厚生を提供することで、より多くの若者がこの仕事に就き、長く続けられる環境を整えた。これにより、共働き家庭の育児問題の解決を図ったのである。


こうした活動は、鈴木グループが社会貢献を重視する企業であることを、間接的に世間へと示す結果となった。麗子は時代を象徴する自立した女性経営者の代表的存在として認知されていく。


ちょうど、愛子さまが史上初の女性天皇となるべきかが議論されているのと同じように、社内の保守派の間でも、麗子が後継者として大権を継ぐべきかどうかの議論が、次第に増え始めていた。


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