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異世界RTA

作者: 夢来厘華

転生したときに神なる存在からぞんざいに言われた。

「この世界を最速でクリアせよ」

はぁ?と思うまもなく快斗は異世界に飛ばされていた。



異世界に来て1日目。


この世界にはRPGお決まりの魔王と言うやつがいてそいつを倒すことで世界が平和になるらしかった。


それを話してくれたのは快斗が飛ばされたときに都合よく横にいたヒロインだった。

「一緒に頑張りましょう」

そうニコニコと微笑むヒロイン。少し頑張る気になった。



1ヶ月後。


はっきり言って魔王城の前まで来るのは簡単だった。モンスターは弱い順に並んでいてレベルアップ出来るし、武器だって揃ってゆく。万全に進んでいけば命を落とすことはなかった。


「よく来たな勇者よ」

魔王は玉座に座ったまま肘をついて興味深そうにしていた。黒っぽい服に金銀入り乱れた宝石の刺繍。いかにも魔王らしい風貌だ。


「う、なんてオーラ」

横にいるヒロインが膝をついて震えていた。


快斗は剣を抜き取り魔王に切りかかった。


激戦だった。紙一重の攻防。魔王と言われるだけ伊達ではない。快斗は幾度も自分の命が撫でられるのを感じた。


だが、快斗は勝った。魔王の核がローブの裏に隠れていることを理解し、それを切り伏せることで魔王は地面に倒れた。

ドスッと快斗も膝をついた。極度の緊張。命をかけた戦いによる疲労だった。

ヒロインがこちらに駆け寄り快斗を抱きしめた。


そこで意識が途切れた。文字通りプツンと切れた。



2周目。


「一緒に頑張りましょう」

聞き慣れたヒロインの声。そこは快斗が一番初めに目を覚ました場所だった。


今になって神の言葉が思い出される。

"この世界を最速でクリアせよ"そうすればどうなるのか神は言及しなかったがそれでもやってみる価値はあると思った。


10日後。


前回で得た知識、武器の場所、モンスターの弱点などを駆使しかなり早く魔王場にやって来ることができた。後は魔王を倒すだけだった。


「来たのか勇者。素晴らしい」

魔王の言葉に快斗は驚きを隠せなかった。


ヒロイン含め快斗が合う人物は皆前の世界と同じセリフを吐き、同じ行動をしていた。それなのに魔王のセリフだけが前回とは異なっていた。


魔王が立ち上がり戦闘が始まる。


今回も快斗が勝った。変わっていたのは初めの言葉だけで戦闘になると魔王はほぼ前回と同じ動きだった。


またヒロインが駆け寄ってきて抱きしめ、快斗は意識を失なった。


3周目

4周目

5周目―…


10周目を過ぎたあたりから快斗は数えるのをやめた。


ループを何度も経験して快斗は分かったことをまとめた。


1つは死亡、または世界をクリアすると開始地点に戻されること。


またもう一つは魔王のセリフがタイムに応じて変化することだった。




魔王のセリフの変化。これに何か鍵がある。そう睨んだ快斗は何度もループを繰り返してタイムを縮めていった。頭の中でルートを組み、最短を模索して少しでもミスがあると迷わず自害した。


そうこうしている内にいつしか1日で魔王城にたどり着けるようになってきた。

「いよいよですね…」

ヒロインは快斗がどれだけ無茶なルートを進んでも必ずついてきた。




「勇者よ。次の世界で貴様のもとに赴く。そこで"共に"打ち倒そう」


今までで最も早く魔王城にたどり着いた時、魔王は言った。


一度も聞いたことがないセリフだった。


もはやお決まりのようにヒロインは隅で怯え始め、魔王が立ち上がり戦闘が始まる。


そうして快斗が勝つ。ヒロインが駆け寄り抱きしめる。快斗は意識を失う。



?周目。


「一緒に頑張りましょう、て、え?」

「来たぞ勇者よ。さあ」

魔王は約束通りに快斗のもとに来ていた。

そうして…


「ガキィン」

武器の重なる音。


「貴様が、そうか」

禍々しい大剣を持ったヒロインが魔王に切りかかっていた。魔王は咄嗟に鞘付きの剣でその攻撃を防ぐ。


「なんで魔王がこんなとこに…クソっ。計画がおしゃんだ!」

可愛らしい容貌から発せられたとは思えぬ恐ろしい声。あのヒロインが喋っているとは快斗には思えなかった。


「勇者のタイムが最高に達した。だから来たまでだ」


「訳のわからないことを、私の邪魔をするな!」


快斗は目の前で展開される会話に目を見張ることしかできなかった。


「完璧な計画だった。勇者を育てあげ、魔王を殺させる。後は私が残った手負いの勇者を殺せばいいだけだ」


快斗はハッとした。

魔王を倒した後、ループするのは常にヒロインに抱きしめられた後だった。快斗はそれがずっと最速を出せずに世界をクリアしたことによるものだと思っていた。


世界をクリアするか死ぬことでループする。


いつから魔王を倒すことが世界をクリアすることだと錯覚していた?

どれだけ無茶苦茶な進み方をしても必ずついてくるヒロイン。おかしいとは思わなかったのか。そんなことができるのは快斗自身よりもヒロインが断然強かったからだ。


あの瞬間。

快斗はヒロインに抱きしめられ、毎回、毎回、毎回、

殺されていたのだ。そう、理解した。


多分、ヒロインこそがこの世界の悪。討果さなければならない存在。快斗はまだ世界をクリアしたことがなかったのだと知った。


「勇者よ、力をかせ。我だけではあやつは倒せない」

"分かった"


快斗は魔王と共にヒロインを殺すべく戦った。ヒロインは断然魔王よりも速かったし、強力だった。


快斗は自分でも分からなかったが今ヒロインに殺されればループせず、そのまま死んでしまう。ということを確信していた。


手に汗握る攻防。一手でも間違えれば快斗の命はなくなる戦闘。それでも快斗は的確に動いた。何周もしてタイムを縮めるために得た技術が快斗を助けていた。


勝ったのは快斗と魔王側だった。


"なんでこんなことをした?"

快斗はボロボロになって膝をついたヒロインに尋ねた。どうしてもそれだけが謎だった。


「さぁね、ただ世界を壊したくなった。それ…だ…」

言い終わらないまま倒れるヒロイン。

すると、パンという音とともに幾発もの花火が上がった。クリア、ということなのだろう。






気がつくと快斗は自分の部屋にいた。そうして涙を流していた。何か壮大なことをしていた感覚。何をしていたのかは覚えてないが、それだけが快斗の中に残っていた。


読了ありがとうございました。差し障りなければ評価、感想等々を送ってくださるとたいへん嬉しいです。

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