4話 竜の群れ
驚くほどに崖の上での生活に順応していた。
たまに竜王の背に乗り海へ水と魚を取りに行き、少し降ったところにある木々の辺りでは木の実や鳥を取ったりと、食べていくには不自由はない。
火についても竜王は炎を吐くことができる。
最初こそは力加減ができず大変な目にあったが、今となってはお手の物である。
「またか」
ふと竜王がつぶやく。
崖の上に移動したおかげかいまだに人間が襲いに来ることはなかったが、竜に似た気配をたまに感じていた。
竜にしては弱々しいが、日に日に数を増している。
そんな気がする。
竜王のような大きな強者からすれば、竜に似た気配の生き物など、蠅も同然。
それが自分の周りで何匹もうろちょろ飛んでいるのだ。
腹も立つ。
それに竜王は他の竜に比べて短気である。
もう我慢の限界だった。
(あの人間の時のように後手に回るのは嫌だよなぁ!)
恐ろしい。
人間が見たらそんな感想が出るだろう。
むしろ感想が出ることもなく、倒れてしまうかもしれない。
そんな表情をしていた。
「レイ少し出る」
「私もいきましょうか?」
「いや大丈夫だ」
荒々しい口調と恐ろしい顔を見せていた竜王はレイの姿を確認すると、すぐにいつもの調子に戻り、平気な様子でレイに声をかけ、崖から飛び出す。
気配が最後に現れた場所に向かう。
そこは崖から少し離れた場所だった。
(あそこか)
気配のした場所を見ると竜にしては小さく角が無い竜もどきがいた。
こんなのもいるのか。そう思いつつ攻撃をしようとする
ーーが突如炎が飛んでくる。
気配を消して近づいていた個体がいたらしい。
その攻撃を皮切りに次々と竜もどきがが火を吐く。
その数は10を超えていた。
「ひひっ竜王と言ってもこの程度。数には敵うまい」
竜もどきを引き連れた2匹の竜のうち1匹が言う。
それに同調するかのようにもう1匹も喋り出す。
「我々が竜王を始末した。そう言えば評価が上がるのう」
などと好き勝手に2匹は言っている。
もう倒せるとでも思っているのだろう。
火を放った竜達は竜が人間に数で負けたからと竜王も同じだと侮っていた。
「なんだこれ? これが攻撃か?」
火を浴びせ続けられている竜王が発する。
そこには困惑があった。
そして嘲笑の色があった。
「ばっバカな......そんなの強がりだ」
「そうです。我々の火が通用しないわけがありません」
そう2匹の竜もどきは言い、焦ったように自分たちも竜の群れに混ざり炎を吐く。
しかしもう倒れてもおかしくないほどの炎を受けているはずの竜王に中々変化があらわれない。
それどころか効いてる様子がない。
「ぬるいなぁ。緩い! 温い! それが攻撃か?」
これがお手本だ! と言うかの如く炎を吐く。
10匹がかりでも出せないほどの炎を吐き焼き尽くす。
「なっ......なに!?」
2匹の竜が驚く。
たった一息で自分たちの仲間が消されたのだ。
「大層な自信があったようだが、蝋燭の火を消すぐらい容易いなぁ?」
「仲間を愚弄するなぁぁぁ!!」
「待て弟よ!」
ニヤッそう竜王は笑う。
明らかな挑発。
こうすると突っ込んでくる。
そう読んでいたのだ。
嵌められた。そう弟は気づく。
(兄者逃げておくれ)
そんな思いは声にならず瞬く間に弟は焦げつき下へと落ちていく。
幸いにも下は海のため火が木々に移ることはない。
「お前はどうする?」
「くそっ...俺だけ逃げるわけにはいかない」
逃げれば恥だ。
しかし勝ち目はない。
名誉のために戦う。なんとも意味のないことだ。
「憐れだなぁ」
最後にその言葉を聞き墜落していく。
(竜王ここまで強いとは......だがここに来ているのは我々だけではない)
バシャンっと海に落ちる。
火のついた体を海が冷やす。
そこからは太陽を覆い隠す竜王の姿が見える。
その姿はとても大きく見えた。
「大きいなぁ。なぁ兄者」
弟の声が聞こえる。
あぁここが死後の世界か。
ぷかぷかと浮き気持ちが良い。
それに死んだにしても弟と共なら......
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