2話 敵
竜王のまもりびとになって2週間が経っていた。
この2週間は平和だったが、結界が解けた今そんな平和が長く続くはずはない。
「よく毎日飽きずに来れるな」
「はい。まもりびとですので」
まもりびとだから、そうレイは言うがまもりびとでなくても毎日来ていただろう。
レイは竜王と一緒にいるこの時が楽しかったのだ。
「ここにいるだけだと暇だな。昔は外に出てた気がするんだが出られねぇんだろう?」
「そうですね。許可をとってみましょうか?」
「いや。いい......!?」
話している途中ではあったが口をつぐむ。そして竜王は急に黙り体を起き上がらせる。
そのでかい体が少し動くだけで神殿は悲鳴をあげる。
「どうかしましたか?」
竜王が急に黙り不思議に思い声をかける。
それと同時に気づく。
ここに相応しくない気配をーー
「おや?どうやら気づかれたようだな」
音もなく1人の男が現れる。
姿を見せたと思うとすぐに、あたりを見回す動作をとる。
そして他に人間がいないことと、威圧的で強烈な眼差し、獰猛な牙、大きな口、そして並の竜を上回る大きな図体を確認する。
「どうやら俺が一番乗りのようだな」
そしてそう言った。
赤く長い髪。すらっとした高身長。
中々にイケメンな男だ。
それに鍛え抜かれた体。
そんな男の手には2m程の槍が握られていた。
「なんのようでしょうか?」
少しの間も開けずに答える。
「そこの竜を殺しに来た」
自分を害するものが来たと予想はついていたが、レイのような人間かもしれない。
そう竜王は少しでも思ってしまっていた。
そのため反応が遅れてしまった。
「チッ......!!レイお前は下がれ!」
竜王は自身が標的だというのに、レイの身を案じる。
「いえ。私は竜王様のまもりびとですので、下がるわけにはいきません」
竜王の横をそっと歩く。
すると竜を見ていた槍使いの視線がレイに移る。
「そうか...邪魔をするならお前からだ」
言うが早いか槍を持つ手に力を込め突進してくる。
槍の先端が顔に向く。
そして引いていた槍を勢いよく突き出す。
その一撃に加減などはない。
鋭い突きが顔に飛んでくる。
だがレイは紙一重で避ける。
しかし槍の先端は回転している。
紙一重で避けただけでは当たってしまう。
「ふんっ!」
ぐるっと槍の先端がまわり顔に向かって飛んでくる。
しかしレイはそれすらも避ける。
「避けるか。だがーー」
素早く2発3発とレイに向けて突きを撃つ。
突きを放ち槍を引きを繰り返す。
しかし中々レイには当たらない。
レイの避ける能力は中々に高い。
並の人間ではレイに触れることすらできないだろう。
突きを横払いを躱し続ける。
(どうにか反撃がしたいのですが、近づけないですね)
しかし相手は並の人間ではない。
その一撃一撃が正確で避けることが精一杯になってしまい、なかなか近づけない。
だが避けるだけでは倒せない。
近づかなければならないのだ。
槍は間合いが長く近付きづらい武器だ。
レイが武器を持っていたのなら、まだ違ったのだが、武器を持っていない。
まもりびととはいえ竜王に危機感を持たせるわけにはいかない。
そのため武器は極力持たないらしい。
だから最近は素手での戦い方などを老人に学んでいだのだが、竜王を狙うものが来るのが早すぎた。
まだ準備が整っていない。
今のレイでは槍を素手で抑えるなんてできない。
そんなことしようとすれば手がもたないだろう。
(厄介ですね)
避けることしかできない状況がもどかしい。
それに避け続ければレイの体力がいつ切れるかわからない。
紙一重で避けることができればいいのだが、槍の先端は回転しており、過剰に避けなければ当たってしまう。
そのため余計に体力を使わされる。
依然と槍を避け続ける。
相手も突いては引くを繰り返している。
近づかれそうになると距離を取りつつ、突きを放つ。
こんな硬直状態が長い間続いていた。
何度も何度も避ける。
そして男が突きを放つ。
突きを放つ。
「ふんっ」
しかし今回の突きはいつもと違っていた。避けた先に向かい弧を描きつつ2撃目を叩きつけられたのだ。
槍使いはただ槍を突いていただけではなく、避ける先などを予測していた。
そしてついにレイの避ける先を把握した。
これは当たる。そう思われた。
だが......
斜め前に飛んで避ける。
そしてその体制のままレイが力一杯走り出す。
今までの突きなら反撃の隙はなかったが、叩きつけた反動。
そして相手の焦り
もどかしかったのはレイだけではなかった。
槍使いも竜王を倒しにきたのだ。
それなのに戦うことすらできないもどかしさから勝ちを急いてしまった。
地面に吸い付くかのような足運びで近づく。
「速いっ......!!」
槍使いが槍を引くのは間に合わない。
横払いも間に合わない。
あぁ死んだな。
一瞬の間に槍使いの頭の中に走馬灯が駆け巡る。
あの武器さえあれば......
横腹に凄まじい衝撃を受ける。
痛みを噛み締める間もなく、そのまま倒れた。
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