1話 目覚めると
興味をもっていただけて嬉しいです。
「なぜお前は俺の元へ来るのだ? 怖くないのか?」
「怖くなんかありませんよ?」
木々を抜けた先にある薄暗い神殿。
その空間の空気はとても冷たく、止まっているかのように静かだった。
黙っていれば自分の音が聞こえるほどの場所
そこへ来ていた。
今回来るのは初めてではない。
5度目だ。
1度目と2度目は姿も見せてもらえず、3度目4度目になりやっと少し信用されたのか、すこし距離はあるものの姿をあらわした。
そのため怖くないか? と言われても未だ暗く全容が見えていない。
「そうか大きいものは怖いというが?」
「そうですか? 見た目だけで判断しませんので」
この言葉は本心だ。
見た目なんかで、モノの良し悪しなど判断できない。
それに、ここに住んでいる生き物が怖いはずがない。
ここに住われる生物は高嶺の花であり天上の存在。
ーーー竜なのだから
そんな高貴な存在を見た目だけで怖いなんて言えるはずがない。
「ガハハハおもしれぇなぁ」
竜王は心の底から笑う。
今までこんな生き物と関わったことがなかった。
どいつもこいつも似たような感じで心に余裕があり他者に対して興味を持たない。
そのため争いなどはなかったが、ちっとも面白くなかった。
だがこいつは面白い。
「そうですか?」
「あぁ楽しいさ。でっ......なんで俺の元へ来る」
「私はまもりびとと言って守るために存在しているんです」
竜王は首を傾げる。
「守る? 守られるほどヤワじゃねぇが?」
それもそのはず竜王と呼ばれる存在が生半可な奴に負けるはずがない。
しかしこちらにも......レイにも事情があった。
それは4回目の訪問の後だった。
◀︎◀︎◀︎
神殿を出ると時の流れを思い出す。
風の音空を舞う葉っぱに鳥の囁きこの場所は、木々で覆われていた。
そう木々で覆われていたのだ。
神殿の周りはこんなには木が多く生えていなかったはずだ。
こんな場所に見覚えはない。
だが後ろを振り向くと見覚えのある神殿がある。
少なくとも全く知らない場所に出てきたわけではない。
少なくても神殿の位置がわかるのならば帰えることはできるだろう。と考えたがおかしなことにレイは何も思い出すことができない。
帰る場所すら覚えていない。
そうレイは記憶がなくなっていたのだ。
レイは困惑した。
神殿での記憶のみが残っているのだ。
1度目、2度目、3度目この3度を通じて竜からやっと少しだが信用を得た。
その記憶は確かに大事な記憶ではあったが、他にも大事な記憶はあったはずだ。
それにこの記憶だけでは生きていくことはできない。
こんな状況で知らない場所を彷徨うのはさすがに危険。
そう考えたレイは神殿の前で休むことにした。
また時間になったら竜の元へ行きいつものように話をする。
それまではゆっくりとここで休んでいればいい。
そんなことを考え4段ある段差の2段目に座り体育座りの形で身を縮こませていた。
手を口の前に持っていき息を吹きかける。
まだ少し寒い季節だった。
こんなんで私は生きていけるのでしょうか?
少し悲観的な思考になってしまう。
一度考えてしまうと、沼のように落ちていく。
それでもこんな状況だからか五感は冴えていた。
レイが思考の沼を漂っていると、奥の方から枝をつきながら歩く音が聞こえた。
この足音の感じは警戒するほどのものではない。
そう感が告げる。
こんなところまで来るのはどんな人なんでしょうか?
そう思い少し視線を向けると老人が杖をつきながら歩いていた。
その老人はシンプルだが綺麗な服で身を纏い、まるで自分を弱そうに見せるかのように、わざとらしく不安定な足取りをしていた。
老人が悪道を歩くにはいささか安定感に欠けており、少しばかり危険だった。
「おや? 珍しいのぅ。こんなところに女の子がいるなんて」
あたりを見回す。
当然ここには自分しかいない。
「女の子? なんですか? それは?」
「おやおや。そんなことも知らないのかい。面妖な子だ」
この老人が何を言っているのかわからない。
だが敵意は感じられない。
こんなことを聞いても仕方ないと思ったのだろう。
老人は話を逸らす。
「ところでなんでこんなところにいるのかねぇ?」
「ここいる竜に会いにきていたんですよ」
「竜に!?」
老人はかなり大袈裟に驚いてみせた。
「ええそうですよ」
確かに竜にあっている人をあまり見ない。
「おっ...お前さんの名前はなんていうんだい?」
慌てながら名前を尋ねる。
そんなに慌てるようなことなのだろうか?
疑問に思う。
「レイです」
「レイかい。レイはなんでここに座っていたんだい?」
先ほどと少し質問の内容が変わる。
なんだか質問攻めにされている気がするが、レイからしても記憶があまり残っていないため会話をすることは悪いことではない。
「記憶がなくなってしまったんです」
「記憶が?」
「はい。神殿に来た時の記憶だけしかないんですよ」
「そうかい。ここの神殿は歴史があるからねぇ。守ってくれたのかもしれないねぇ」
レイは知らないがこの神殿は世界の中心にある神殿で、世界を護っていると言われている。
そのためここにいた分の記憶が守られたのでは?そう老人は思ったのだ。
「じゃあ、帰る場所がないってことかい?」
「そうですね」
「そうか。じゃあうちに来な」
「いいんですか?」
レイは悪意などをなんとなく感知できる。
記憶がなくなってもそういった当たり前のことはできるようだった。
そしてその感が悪意は無い。
そう告げていた。
「ただし、少し働いてもらうからねぇ」
「何をすればいいんでしょうか?」
少し酷なことかもしれない。そう思い一息置く。
相手の心の準備のためでもある。
「また明日も神殿に行ってくれないかい?」
「神殿にですか?」
しかしレイの反応は老人の思っていたようなものではなかった。
レイからすればもとより明日も神殿に行くつもりだったのだから、条件はないようなもので酷でもなんでも無い。
そんな様子を見た老人が追い討ちのように付け加えて言う。
「あぁ。そして竜王様のまもりびとになってくれんか?」
「まもりびと?」
「そうじゃ。少し酷だが竜王様のために命を投げ出す覚悟で護るんじゃ」
「わかりました」
それすらも少しも迷わずにレイは言う。
「いいのかい!?」
自分から言っといて老人は驚く。
そもそも竜が怖い。そういう人が多いのと、命を軽く投げ出せるものは中々いない。
それに候補は一応いるものの竜王の好みがわからない。
そのため竜王のまもりびとは未だきめあぐねていた。
それなのに急に神殿にあった結界が解けていたのだ。
人を決める時間なんて待ってくれない。
焦っていた。
そんな中既に竜と接触していて、何もされていない人間がひょこっと現れた。
(運が向いてきたのぅ)
そう入った経緯があってレイはなったのだ。
竜王を守るまもりびとに