第6話 通学
扉近くの席が空いていたので、そこに座る。その隣に沙織が座る。特に、話すこともないので、外の景色を眺める。朝日に照らされて、海がきらきらと光っている。今日は、天気は良さそうだ。そんなことを打ち消すようにスマホのシャッター音が聞こえた。
「海、綺麗だね」
「そうだな」
電車が動き出すと、海は次第に遠ざかっていき見えなくなる。たった、二駅ではあるがだいぶ景色は変わる。
学校からは、完全に海は見えなくなる。
「写真送っとく? いらないかも、だけどね」
その言葉通りスマホの音がして、確認すると写真があった。
「ね? 綺麗に撮れてるでしょ」
俺は、うなずくとスマホをしまった。
それから特に会話をすることなく、降りる駅になり、駅を出て、学校へ歩いて行く。学校へは駅から10分程度で到着する。
朝早いこともあり、まだそれほど暑くはない。
ただ気分は落ち着かない。
部活を作ることにわくわくしているのだろうか。
早く登校して、職員室に行きたい。そう思っているせいか早足になる。
「どうしたの? 急いでる様だけど」
いつもは面倒くさそうに、彼女の後ろをのろのろと歩いている。
これほど学校に行きたいと思っているのか。
なぜか、恥ずかしくなってしまい、歩く速度を落とす。
「ははっ、なんでもない」
俺は、笑ってごまかした。
「そんなに部活がやりたいんだね」
「そうかもな……それよりさ、あいつに告白しないのか?」
「……えっ、え、え……知らない。なに言ってるの?」
明らかに動揺して頬を赤くしている。
俺は、さらにからかう。
「いや、どう考えてもそうだろ。用もないのに、うろうろしているし」
こいつは、休み時間になると、俺がスマホでイヤホンを挿してゲーム音楽。ただの音楽ではない、ゲームのイメージに合わされた……いや、それは一旦置いといて、俺の教室の近くで、クラス一のイケメンこと、一宮浩二のことをたまにちらちらと見ているのだ。あの、イケメンは、バスケット部で、勉強も出来る。一年生の時も、試験の席次は常に二十位内だった。
俺は、ほぼ勉強はせず、ゲームばかりしているのではあるが、授業はきちんと受けて、ノートにも書いているので、だいたい百位だ。
去年は、そのイケメンと違うクラスだったから気づかないのだが、それなりに目立つ容姿の沙織――細長い白い指にぱっちりした目――が来ると男連中が騒ぎ出すので、ゲーム音楽に集中させてもらえない。こっちは迷惑している。あ、だとしたら、俺が昼休みにこいつに話かけたら面倒なことになる。まあ、俺は別にいいのだけど。ピアノコンクールで人前で演奏をしたこともあるので、他人の目は気にならない。それは、沙織も同様だろう。だからたぶん、教室の前で平気でうろちょろしているのだ。
俺の考えすぎだな。
「あの、ね……べつに、そんな……好き、とかじゃないから。ただ、気になるなーって、見てるだけ」
「なんだ、それ。意味がわからない」
「たぶん……海を、見ている……そんな、感じ。うまく言葉にできない。そうゆうもの。かっこいいから、絵になるなぁ……ってね。分からない?」
「それなら少し、理解できるな。ゲームに出てくるキャラを見るようなものだな」
「そうやってすぐに、ゲームで例えるんだから、詩音はっ!」
気に触ったのか、俺より数歩後ろに下がると道端に落ちている石を器用に靴で、空中に蹴り上げて、振り返った俺はそれを腹に当てられる。
スカートがまくれ上がるのが気になり、避けられなかった。
それに、気づいた彼女は裾を押さえた。
「見えてなかったよね? あ、危ない、つい、癖で」
「はぁ……まぁ……勝手に、騒いでくれちゃって。反応に困る」
今は、すっかり大人しくなっているが、昔は結構、お転婆だったな。
「早く、学校いこう」
俺は、歩き出した。