友達
※この作品は、再投稿したものがあります。
再投稿したものは、イラストをつけて情報整理しやすくなっています。
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曇り空の午後。
ひめるは、この日のために準備しておいたフレンドソーセージを数本カバンに詰めて、ピオのところへ向かっていた。
道中、桃色のぶちの柄がある白猫、ーーモノが、とことこと足元についてきた。
ピオは久しぶりのひめるの訪問に驚いた。あれ以来、ひめるは一度も顔を見せていなかったから。聞きたいことが山ほどあった。しかし、時間が十分に必要だった。――お互いに。
ピオは、いつも通りひめるを店の中にあげた。
しばらく、店内は沈黙が続いた。
そしてぽつんと、何かに立ち向かうように、でもどこか恐れ震えているように、ひめるは沈黙をほどいた。
「みんなと話がしたい」
ピオは俯き、黙っていた。あの日の光景が目の前をよぎる。
しばらく考えた後、ピオは再び顔をあげ、強い眼差しで頷いた。
その夜。湖のほとりに、ピオとコウカとひめるの三人が集まった。
コウカの膝では、モノが体を丸めて目を瞑っている。コウカの左肩は、長い袖だけが風で揺れていた。ーー中身は空っぽ。
約束の時間になっても、レンは来なかった。レンはあの日から病院で様子を見ることになって、今もまだ療養中らしい。
湖が映した満月は水面に揺れて、遠くから虫たちの歌声が聞こえていた。
ひめるは何日も何を話そうか考えて、これまでの経緯を全てちゃんとみんなに話した。ーーアニータと一緒に研究所へ侵入したこと、見つかってアニータだけ捕まったこと。
“「だから、このことは内緒ね。」”
アニータとの内緒の約束、――アニータが研究員だったこと。全て。
ピオとコウカは、ひめるの話を何も言わずに聞いていた。
その間、ピオは鼓動が徐々に速くなるのを感じていた。
あの日、あの場所に立っていた研究員。ほんの一瞬だけ、フードの下の顔が見えた。
――ずっと前。まだ小さかったひめるを初めてうちに連れてきた。――祭りの日。倒れたひめるを連れ帰った。
ーーあの時。アニータの首に剣を刺したのは、――トールだった。
ピオは、コウカとひめるに気づかれないように、拳を強く握って、静かに深呼吸を繰り返した。
ひめるが話終わった後、再び長い沈黙が訪れた。
「そんなことがあったんだな」
沈黙を破ったのは、コウカだった。コウカは、やるせない精一杯の笑顔で、暗い表情のひめるを言った。
ピオは口を出さずに、情けなく笑うコウカを睨め付けるように見た。
コウカは、片方の手でひめるの背中を撫でた。
「それは仕方ないな。お前は悪くないぞ。自分を責めるなよ」
ひめるはコウカの意外な言葉に驚いたが、同時に安堵した。
馴れ合う二人をみながら、ピオは自分の体温が上がっていくのを感じていた。歯を食いしばっていたせいか、血の味がした。
「そうだろ、ピオ」
冷たい風が吹いたのかと思った。ピオは突然呼ばれたことに、ハッと顔をあげた。
「ーーそうだな」
くしゃっと笑った、いつものピオだった。ひめるは、いつもどおりの二人になった気がした。
だから、気のせいだと思った。――俯いていたピオが、刹那、殺気にみちた顔をしていたように見えたのは。
「さあ、もう今日は帰ろう。」
ピオが立ち上がった。そうだなと、コウカも立ち上がり背伸びをした。コウカの膝から降りたモノは、イブの店へ帰って行った。ひめるは、持ってきたものを思い出した。
「そうだ、みんなにフレンドソーセージ、――持っ、て」
言い切る前に既に、ピオはカバンからフレンドソーセージをポケットに詰めていた。普段の光景のように錯覚し、笑みがこぼれた。
「じゃあな、お前ら。」
コウカは、片方の手を大きく振った。ピオとひめるもそれぞれ手を振り、それぞれの道を帰った。
森に囲まれたこの街は、夜、定時に全ての電力が停止する。
月明かりに照らされた夜道。歩く音が二つ。
「帰ったんじゃなかったのか、どうした。ピオ」
歩みを止めたコウカは振り返って、立ち止まったピオに言った。
読んでくれてありがとう。
夜の匂いっていい匂いだと思います。あと、冬の匂いとか季節の匂いもありますよね。でも小さい時の方が外の匂いってよくわかったような気がします。