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7、秋の国へ ☆

 車庫の中でフーシャが立っていた。

 チャック号はエンジン音を鳴らしているが、ガソリンや排気ガスのような臭いは一切していない。

 使っているエネルギーが違うのだろうとケイトは思った。


「あ……」


 ケイトは車庫の奥の残骸を見る。

 焦げて真っ黒になったフロントガラスと座席位しかなかったが、確かに自分達が乗った避難船だった。


「これしか残らなかったのですね……」

 ケイトは当時の悲惨さを思い起こす。


「いいえ。寒風が機体ごと貴女達を運ぶ際、座席以外を切り取ったのです」

 フーシャが言った。

 彼もカーキ色のつなぎに帽子とゴーグル姿だった。

 痩せた長身の背中を少し内側に曲げている。


 少し小柄で、丸く艶めく頬とのブロワとは対照的だった。


「ケイト主任(チーフ)、相談です。

 貴女達のことを宇宙連合に報告した方がよろしいですか?

 報告する場合は、先に春の国の首都サクラから、身分証確認機器を取り寄せます。

 ただ……」


 フーシャは顎から20センチ程垂らした白い髭を撫でる。


「寒風が墜落地点付近を調べたところ、モノカゲに取り憑かれたロボットの破片が見つかったのです。

 そのロボットは主任達の所有ではありませんか?」


「モノカゲ?」


 フーシャは透明のガラスケースを持ち出した。

 30センチ辺の正方形のケースの中に、ロボットの頭部が入っている。


「パイロボット……!?」


「やはり、貴女方の船にいたロボットなんですね。

 目の辺りをよく見てください。

 動くマッチ棒のようなものが見えませんか?」


 ケイトはケースを覗き込む。

 割れたレンズからニョキニョキと棒が上下している。

 同じ細さの棒が4本横についており、手足のように動いている。


「これはモノカゲ。

 影の妖精の一種で、機械等に取り憑いて故障させてしまうものです。

 一定時間日に当たれば消滅するので、普段我々はあまり気にしないのですが。


 これが原因で貴女達の船が墜落したなら問題です。

 既に、影の妖精とエドが手を組んでいる証拠です。

 影の妖精の恐ろしいところは、侵入されやすいことです。

 私達と共に行動し、影に気を付ければ大丈夫でしょうが、宇宙連合に報告することで、貴女の居場所を知らせることは危険かもしれません」


「そうですね……。

 ただ、連合経由で地球からフェイスに連絡が入ってるかもしれません。

 私達は連合経由でサクラ空港に着陸申請をしました。

 申請したのにその後私達からの報告が無い状態なので、何かしら確認作業は入っているはずです。

 

 アンプリファイアとエドの件は、我々だけで解決は無理でしょうから、連合の協力はすぐ得られるようにしたいです」


「では、サクラにある支部に届いているメッセージを共有出来るようにしておきましょう。

 安心してください。

 私は昔地球にも行ったことがありましてね。

 その縁で、宇宙連合支部の情報はもらいやすいのですよ。

 貴女達のことは内密のままにしておきますから」


「分かりました。お願いいたします」

 ケイトは言った。


■■■■■


 ケイトとフーシャは車庫を出る。


 すると、ヒンヤリした風が不意に流れてきた。

 咄嗟にケイトは身震いする。


「寒風だ」フーシャが言った。


「フーシャさん!」

 空から青年が降りてきた。


 鳥の羽根のように色味が変わる紺色の髪。

 襟を立てて首元を隠している。

 膝まで届く青いコートは袖が無い。

 程良く筋肉のついた青白い腕が見える。

 黒いパンツはふくらはぎの半分位の丈で、頑丈そうな黒いブーツを履いている。

 やはり彼も地面に足元をつけず浮かしている。


「風の便りだと、目立つ事件の話題は入って来ないです。

 森の妖精や鳥達にも聞いてみます」


「そうか、頼んだよ」

 フーシャは言った。


 青年は隣にいるケイトを見る。

 その瞳を見てケイトもハッとする。


挿絵(By みてみん)


 磨かれた宝石のような群青色の瞳だったのだ。


「あなたが寒風?」


「はい、そうです。

 ケイト主任。無事に目覚められて良かったです」

 寒風は微かに口元に笑みを浮かべる。

 淡々とした印象だが、冷たさは感じない。


「私とベスを、墜落する船から助けてくださりありがとうございます。

 本当に感謝します」


 ケイトは胸の前で両手を合わせ、深くお辞儀をした。


「いえ、当然のことをしたまでです。

 それよりもお身体は大丈夫ですか?」


 寒風は唇を少し噛む。


「ベスさんを船に乗せたまま、安定した状態で運ぶ為に、貴女を抱いて飛ばざるをえませんでした。

 本当に申し訳ありません。

 風邪をひいていなければ良いのですが」


「そんなことをしたの?! 寒風!」


 ケイトが返す前に、東風が突然上から現れて言った。

 寒風を強い剣幕で見る。


「それしか方法がなかったからね」


「僕を呼んでくれたら良かったのに!

 抱っこして運ぶことないじゃないか!」


 寒風は東風が怒る理由を理解していないようだった。

 何となく分かったケイトは気まずくなった。


「とにかく僕は引き続き上空で見張りと情報収集をする。

 ケイト主任やフーシャさん達のことを頼んだよ」


 寒風はポンと東風の肩を叩くと、空ヘ昇って行った。


 東風は口を膨らましたままケイトを見るが、すぐにフンッと顔を反らした。



「おーい、フーシャさーん!」


 入口門からズルズルと根を這う音がする。

 一本の立派な木が、根っこを動かしながら、館の庭に入ってきた。


「オオブナさん、ご無沙汰ですな」

 フーシャが木に近付く。


「オオブナさん。

 ブナの木の妖精だよ。

 春の森に住んでいるんだよ」

 東風が目を合わさず教えてくれた。


 ヒトや動物以外の姿の妖精もいると、ケイトは学んだ。


「わざわざ館に来るとは珍しいですな。

 何かありましたか?」


「ちょっと困ったことがありましてな。

 秋の森のカエデから、最近秋の国の様子がおかしいと便りが届きました。

 フーシャさんに相談したいそうです」


「様子がおかしいとは?」


「国王が要求する食糧の量が増えて、秋の森の木の実やキノコが乱暴に採取され続けているそうです。

 このままでは、森は荒れてしまいます」


 オオブナの話を聞きケイトが前に出る。


「アンプリファイアの力で王室の強欲な感情が増幅されてしまったのかもしれません。

 欲自体は何ら悪いものではないですが……」


「うむ、一度秋の国に行って確かめた方が良いですね。

 オオブナさん、知らせてくれてありがとうございます。

 これから我々は秋の国へ向かいます。

 オオブナさんは森で待っていてください。

 我々が秋の国へ行くことは秘密にしておいてくださいね」


 フーシャが言うと、オオブナは快諾し、ズルズルと根っこを引きずり、館を後にした。


「さて、行き先は決まった。

 秋の国なら空から行くのが一番速いね。

 早速出発だ!」


「よろしくお願いします!」

 ケイトは大きな声で言った。

第1章完結。次回から第2章秋の国編です。


挿絵は、天界音楽様作の寒風です。ありがとうございました!



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