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23、大統領候補演説

 ケイト達はショッピングモールに到着した。

 全面ガラス張りの建物に入ると、冷房の涼しい空気が肌に当たった。

 冷却スプレーと寒風に加えてなので、少し冷える。


 中は都会的な外観と異なり、ヤシの木や葉で装飾されたリゾート感溢れるデザインだった。

 1階の吹き抜け部分が広場になっており、そこにスクリーンが張られていた。

 スクリーンの前には既に観客が何人も座り込んでいる。


「スクリーンなら、演説の様子がよく見えると思います。

 どうしますか?」

 フーシャが広場を囲うように設置されているエレベーターに乗った後に尋ねる。


「現場の空気を感じたいので、テラスで大丈夫です。

 演説の声は聞こえるでしょうか?」

 ケイトはパブリックスクリーンと観客を見下ろす。


「ウチには風の妖精達がいます。

 何ら問題ありません」


 フーシャは寒風と東風の方を見ながら言った。

 二人はエレベーターの脇に並んで飛んでいた。


 先にフードコートで昼食を買うことになった。

 各々食べたいものを注文し、支払いはフーシャが行った。


 テラスに行くと、金風がパラソル付テーブルとベンチを一式確保していた。

 特設ステージが真正面に見える。


「良い席を押さえてくれたね。

 ありがとう、金風。

 これで好きなもの買っておいで。

 我々は先に食べ始めておくから」


 金風は嬉しそうにフーシャからサンクスポイントカードを受け取り、館内へ入って行った。


 テラス側にケイトは座る。

 ランチボックスの蓋を開けながら広場を見る。

 観客はかなり集まっていた。


『間もなく、大統領選挙最終候補者の演説が始まります!』


 司会進行役の声が鮮明に届いた。

 ケイトが寒風を見る。

 彼はニコッと微笑んだ。


「ねぇ、寒風。

 このカルボナーラ美味しいよ。

 君も食べたら?」


 東風が寒風の隣で座った姿勢で浮きながら言った。

 彼の傍に、カップケーキとアイスティーも浮いている。


 ケイトの頭上にも金風が置いていったノートパソコンが浮かんでいる。


 風の妖精は荷物の持ち運びに苦労しないようだ。


「僕はいらないよ。ほら、始まった」


 寒風の言葉の後、司会進行役の声が大きく聞こえてきた。


「今日は随分音が綺麗だね」

「スピーカーを変えたのかな?」

 と、他のテラス席の客達が話していた。


■■■■■


『皆様、お待たせしました。

 最終候補者達より、決意表明演説をして頂きます。

 一人目は、イビスコ代表。

 現在の大統領でもある、オセロ候補です!』


 歓声がビビビと伝わってきた。

 テラス席の客達も声をあげる。


 ケイトが目を細めていると、向かいに座っていたフーシャがサッとオペラグラスを出してくれた。

 ケイトは遠慮なく借りることにした。


 イビスコ代表の大統領候補はライオンの獣人だった。

 黄金色の鬣をなびかせている。

 ネイビーのストライプ生地のダブルスーツに、真紅のネクタイを合わせている。

 白いチーフは畳まれて胸ポケットに収まっている。

 恰幅良い体格をしており、首より下だけ見ると、地球人の富裕層にそっくりな出で立ちだった。


『偉大なる夏の国国民達よ!

 愛するイビスコ市民達よ!


 皆さんの温かい応援に支えられ、私は今期夏の国大統領を務めてきました。

 そして、次期大統領への門が目前に差し迫っております。


 さらなる飛躍の為に、どうか最後に皆さんのお力を貸してください!

 この門を開く鍵は、貴方達が持つ一票なのです!』


 歓声が響き渡る。

 現役大統領というだけあり、スピーチも腕前も見事だとケイトは思った。


『今期首都イビスコは、夏の国の誇りであるリゾート産業強化を実現して参りました。

 新しいホテルの建設。

 新しい宿泊滞在スタイルの構築。

 訪れる全ての者達が望むバカンスを提供しました。

 また、夏の国国民全員が望む時にバカンスが楽しめるように、労働環境整備も取り組みました。


 その結果イビスコは前年度、バカンス訪問客数が史上最高に達しました。

 国民のバカンス休暇取得も過去最高です』


 オセロ! オセロ!

 という声援が、会場だけではなく、テラスやショッピングモール館内からも聞こえてくる。


『来期の目標は、夏の国訪問客数のさらなる増加です。

 対策の1つが、イビスコ以外のリゾート化です。


 夏の国は、イビスコ以外にも美しく素晴らしい街が沢山あります。

 食の宝庫、農業市場都市ヒラソル。

 未知なる大自然との遭遇、自然保護推進都市ロト。


 気まぐれな妖精や半妖精を満足させるには、他都市との協力が必要不可欠なのです!』


 歓声に混じってブーイングが聞こえてきた。

 別候補支持者によるものだろうとケイトは判断した。


『もちろん、無理矢理でも命令でもありません。

 住民達と話し合い、双方ベストな形を目指します。

 大切な相手との話し合いは、誠実に丁寧にすべきだと。

 妻も言っています。

 ああ、私は先日再婚しましてね。

 紹介します。クランベリーです』


 オセロの後ろに立っていた数名の中の一人が前に出た。

 黒ヒョウのしなやかな獣人だった。

 ローズ色のワンピースと白のハイヒール。

 獣人として、かなりの美人なのだろうとケイトは思った。


 彼女は颯爽とオセロの隣に立つ。

 二人は腰に手を添え合った。

 クランベリー夫人の方がスラリと背が高い。


 賞賛のような声があがった。


「見目はかなり違いますが、半妖精同士なら結婚が可能なのですか?」

 ケイトはフーシャに尋ねる。


「国地域で若干変わりますが、半妖精の結婚に見た目は無関係です。

 子どもも作れます。

 その場合生まれてくる子は、どちらかの親の見目を継承します。

 見目が同じ者同士が子を作れば、両親と同じ見目の子が産まれます。

 祖父母代の見目を継承する等、例外もありますが」

 フーシャは察したのだろう。細かく解説してくれた。


「同性婚も出来るし、妖精と半妖精同士の結婚もあるよ。

 てか、子どもを作るのに、結婚は直接関係ないしね。

 子どもを作る為に結婚なんてルールにしたら、何十年何百年夫婦として縛られなきゃダメなんだってなっちゃう。

 妖精と結婚なんて、そもそも子ども無関係だし」


 戻ってきた金風が補足する。

 彼は周囲にランチボックスを5個も浮かせていた。


「地球の結婚は子孫繁栄の意味合いが強いらしい。

 男女の人間同士じゃないと結婚出来ない国もあるんだよ」


 金風がフェイス住民向けの説明をする。

 皆「へぇ~」と返していた。


『私はこの素晴らしい妻と共に新しい生き方を始めます。

 国民の皆さんも一緒に始めましょう!』


 大歓声と共に、オセロ候補の演説は終わった。


■■■■■


『次はヒラソル代表。ウノ候補です!』


 オセロの時と負けない勢いの歓声が聞こえてきた。


 ウノはキリンの獣人だった。

 ステージの天井に達しそうな程の高身長だ。

 首の中央より少し下の位置から上半身にかけて、朱色地に金色の果物柄がプリントされた大きな布を纏っている。

 下半身は翡翠色地で金色の野菜模様の布で巻きスカートにしている。

 どちらも黄色と茶色い網目模様の肌に良く似合っていた。

 カンガのようだとケイトは思った。


『愛するヒラソルの皆さん、ご機嫌よう。

 素晴らしき夏の国の国民達よ。

 今日は貴方達に会えて光栄だわ。


 前期前々期と、ヒラソルは投票結果2位。

 悔しくも大統領と首都の座を逃してきました。

 しかし、その涙も終わりです。

 皆さんの目を見て確信しました。

 次期首都は、我らがヒラソルです!』


 ウーノ! ウーノ!

 コールが巻き起こる。


 ケイトはオペラグラスを目から離す。


「首都の座を逃すってどういうことですか?」


「夏の国では大統領が所属する街が首都になります。

 つまり、首都はずっと同じではないのですよ」

 フーシャが答えた。


 ケイトの頭の中に沢山追加疑問が浮かんだが、フーシャの穏やかな表情から「詮索するとキリがないですよ」と言われている気がして黙って演説を見ることにした。


『ヒラソルは農業と市場のさらなる発展を成し遂げました。

 農作物の品質を向上させ、コスモス品評会で数多く金賞を受賞しました。

 また業務効率化を目指し、収穫量を数年前から格段にアップいたしました。


 これからもヒラソルは発展を目指します。

 ですが、限界があるのです。

 この限界を突破する方法はただ1つ。

 私が大統領になり、ヒラソルを首都にすることです!

 そうすれば、他都市との連携も取れます。

 私は夏の国全体で農業を始め、収穫量を大幅に上げることをお約束いたします!』


 歓声とブーイングが混じって起こる。


『現大統領はご存知のはずですわ。

 訪問客が満足した表情でバカンスを過ごせた理由を。

 それはヒラソルが潤沢な食糧を提供出来たからです。

 厳選した良品を他国から取り寄せたのもヒラソルです。

 ヒラソルを観光地化なんてとんでもございません!

 充分に安定したサービスの提供が、リゾートの役目です!

 それを疎かにして拡充なぞ有り得ません!』


 先程よりも激しい歓声とブーイングを浴びながら、ウノは演説を終えて舞台を降りた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ふたりの大統領候補、目指している路線が違いますね。両立できれば良いのに、とか思いました。 大統領が所属する街が首都となるという設定、遷都みたいで面白いな、と思います。
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