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22/27

22、イビスコ都市部

 朝食後、各自身支度を済ませ、タープテントに集合する。


 チャックが運転するミニチャックカーに、フーシャ、ブロワ、ケイトが乗る。


 東風、炎風、金風、寒風が、ミニチャックカーに並走して飛んでいく。


「全員揃うなんて珍しいな!

 金風(お前)はお勉強で来ないと思ったぜ」


 炎風が言った。

 彼は東風のすぐ隣を飛んでいる。


 金風と寒風はチャックカーを挟んだ位置で並んで飛ぶ。


「大統領選挙を間近で見られる機会は滅多にないからね。

 アンプリファイア調査にもなりそうだし」


 金風は言った。

 彼は小脇に銀色のノートパソコンを抱えている。


「炎風はあまり寒風と金風に近付かないでね。

 二人共、暑さに強くないんだから」


 東風が言った。

 炎風が壁になり、寒風が見えにくいのが不満そうだった。


「バーカ、東風。

 ここは夏の国だ。

 俺は力のコントロールをしてるぜ。

 フーシャさん達は過剰に暑がってなかっただろ?

 あいつらがへばっているのは、イビスコが暑いから。

 それだけさ」


「分かってるよ」東風はプイッと顔を背けた。


■■■■■


 海上道路出入口との合流地点辺りから車道が混み始めた。


「随分と車が多いわね」ブロワが言う。


「夏の国の春はバカンスに最適な季節だ。

 バカンス客と選挙見物客が被ったんだろう。

 海港が使えないのも大きい」


 フーシャさんは助手席で顎髭を掴みながら言った。


「そういえばケイト主任(チーフ)

 先程スコープ先生から連絡がありましてね。

 ベスさんが目覚められたそうです」


「本当ですか?!」

 ケイトは後部座席で思わず声を出す。


「ええ。

 体調は問題ないのですが、混乱してるらしいです。

 宇宙連合支部と一緒に対応していくと、スコープ先生は言ってました。

 後で、映像付きメッセージを送りましょう。

 ベスさんは貴女の身を案じているようです」


「連絡なら、今すぐ取りたいです。

 出来ますか?」


「向こうのタイミングがあります。

 先生の指示通りにやりましょう。

 ベスさんのことがヒカゲ達に知られるのは防ぐべきです」


 フーシャは落ち着いた口調で返した。


 ケイトも仕方なく黙った。

 無事に目覚めたなら良かったが、ケイト(自分)が近くにいない状態は彼女にとってひどくストレスだろう。

 無事だと聞かされても、異世界の者の言葉を信じて良いか判断に迷うはずだ。

 ベスが治療を受けている姿を見ることが出来たから、ケイトはフーシャ達を信用することが出来た。

 それが出来ないベスと、応対するスコープ医師達。

 双方難儀している状況であることは予想がつく。

 しかし、それをあの時は気付けなかった。

 配慮の足りない自分の行動をケイトは悔やんだ。


「フーシャさん、都市部までずっと車道は混んでるッスよ。

 これじゃあ演説に間に合わねぇ」


 炎風が助手席の窓外から話しかけた。

 チャック号同様、何ら問題なく外と会話が出来るようだ。


「仕方無い。

 主任だけでも風に乗せて、先に君達だけで行きなさい。

 主任、良いですね?」


 フーシャの言葉にケイトは頷く。


「そんな遠慮はいらねえッスよ。

 全員まとめて運びます」


 炎風が言った途端、ミニチャックカーがガクンと動く。

 他の車が蛇の鱗のように並んでいる様が窓から見える。


「都市部の駐車場で、空いているところは……?」


 炎風は右手を上に掲げている。

 その手の上に、ミニチャックカーが浮いていた。


 着地状態と変わらない程に車体が安定している。

 それでいて、熱風が巻き起こっている訳ではない。

 力の安定ぶりを見せつけられていると、寒風は感じた。


「おっ! あそこ空いてそうだな」

 炎風は狙いを定めると、腕をいっぱいに横に反った。


 そして全身をひねるように腕を振り、車体を真っ直ぐ維持したままミニチャックカーを投げた。


「ギャー!!!」


 車内から叫び声が聞こえたが、すぐに遠くなった。


「何やってんだ?!」寒風が叫ぶ。


「これが一番速いからな。

 さっ、俺達も追い掛けるぞ。

 寒風、お前は冷房係だ。

 着いたらちゃんと皆の近くにいろよ」


 炎風はニヤッと笑った。


■■■■■


 ミニチャックカーは見事に都市部の空き駐車場の1つにぴったり着地した。

 炎風に投げ飛ばされる直前に、チャックがブレーキをかけたので、問題なく駐車出来た。


 車体はともかく、車内の皆はグッタリしていた。


「ケ、ケイト主任、大丈夫……?」

 ブロワが背もたれに全身をくっつけた状態で言った。


「だ、大丈夫です。

 ちゃんとシートベルト着けといて良かったですね……」


「炎風には、後で言っておきます。

 アイツは、手加減を知らない……」

 フーシャも息をゼーゼー吐きながら言った。


 チャックも無言でハンドルに全身を任せていた。


 イビスコ都市部は、高層ビルが建ち並ぶ大都市だった。

 大通りに出ると、高級そうな店のウィンドウが華麗に彩っている。

 行き交う半妖精の多くが、艶やかな軽装でサングラスをかけている。

 大半が、コーヒーの紙コップか、タピオカドリンクか、フルーツアイスバーを片手に持っていた。


「演説は中央広場で特設会場を作ってやるんスよ。

 少し離れたショッピングモールのテラスなら、そんなに混んでなくて全体も見渡しやすいぜ。

 館内にパブリックスクリーンも出るし」


 炎風がテキパキと説明する。

 彼が選挙に協力しているというのは事実なのだろう。


「ショッピングモール、良いわね!

 服とか買いましょうよ。

 冬の国にも行くんだし」


 ブロワが目をキラキラさせる。


 金風が「席を取っとく」とスーッと飛んで行った。


「でも私、宇宙連合共通のマネーカードしか持ってなくて。

 フェイスじゃ使えないですよね?」


 ケイトが言う。

 そもそもこの星に貨幣制度があるのか疑わしい。

 何度かフーシャ達が物資を仕入れる様子を見たが、金銭的やり取りをしてる姿を見たことがない。


「心配しないで!

 私もフーシャも寒風も、サンクスポイントが結構溜まっているから!」

 ブロワはニコッと笑う。


「サンクスポイント?」


「夏の国特有のシステムです。

 何かをしたお礼に、サンクスポイントがもらえます。

 そのポイントを使って、物資の調達やサービスを利用するのです。

 私とブロワは、以前バカンスでイビスコのホテルに長期滞在しましてね。

 その時にちょこちょこ設備の修理なんかをしてたので、ポイントをもらっているのですよ」


「寒風もなの?」


「寒風は冬の国で暗晦(あんかい)を封印した功績でね。

 暗晦の存在は他国にとっても脅威でしたから、当時の夏の国の大統領が贈呈したのですよ」


 フーシャが説明した。


「ねっ! 

 だから支払いとか気にしなくて良いから。

 たーくさん、買い物しましょう!」


 ブロワはケイトの手を取りながら言った。


「じゃあ俺は演説の準備手伝ってくるからよ。

 また後でな。

 東風、お前も来るか?」


 炎風がフワッと皆の頭を越えた位置で言った。


「行かない」東風はパシッと断った。


 その程度では凹まないのだろう、炎風はあっさり去って行った。


「寒風、僕達も場所取りしに先に行こうよ」

 東風が寒風のコートの裾を摘んだ。


「僕は主任達と一緒にいるよ。

 着たばかりで暑さに慣れてないだろうし」


 東風はグッと言葉を飲み込んだ。

 代わりに「じゃあ僕もそうする」と言った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 四人の風の精たち、それぞれ性格がはっきりとしていて、掛け合いが面白くなってきました。 豪快な炎風さんが、まだまだなにか起こしてくれそうですね。 どこの国でも、お買い物って楽しいですよね。せ…
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