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20/27

20、炎風登場 ☆

 昼食から数時間後、チャック号は休憩と食糧等補給とゴミ出しの為、パーキングエリアに停車した。

 そこで2時間程滞在し出発した。

 チャック号は夜通し走り続けた。

 

 翌日も丸一日チャック号は走る。

 ケイトは朝食後、フーシャと一緒にアンプリファイアを保管するケースの改良作業をした。


 ケースに収まっているアンプリファイアを作業台に置く。

 今は光っておらず、ただの細長いガラスに見える。


 一旦停止しても、時間が経つとアンプリファイアは勝手に感情を拾い始めてしまう。

 保管ケースでアンプリファイアの作用を遮断出来るようにしようとケイトは試みた。

 

「アンプリファイア本体の防止機能が復旧すれば良いのですが、エドが波及装置を外す時に細工をしていて、修理が難しい状態なのです。

 貴重なアンプリファイアは、壊さず回収が原則です。

 今ある工具だけで本体を触るのは控えておきます」


 フーシャがもう1つ別の保管ケースを持ってきた。

 ケイトはガラス部分を外し、台を裏返した。

 台の裏面にあるカバーを外し、中の基盤を見る。

 フーシャが用意した工具から適当なものを選び、配線を調整する。


「それにしても不思議だ。

 特殊なものを使っている訳ではないのに、これで感情操作が出来るのですか?」


 フーシャは興味深そうに眺める。

 都度、ケイトに言われた部品を取り出して渡している。


「残念ながら、アンプリファイアの構造や詳しい仕組みについて、専門資格を持つ者以外にお教えすることが出来ません」


 ケイトは微笑みながら言う。


「私も、この後どうやってモノカゲの侵入を防ぐ加工をされるのか、気になりますわ」


 カバーを付け直しながらケイトは言った。


「隠してはないですが、説明しようがないですな。

 半妖精の私がたまたま持ってる、妖精の力なので」

 フーシャもハハハと笑った。


 改良したケースにアンプリファイアを移し、再び金庫に入れる。


 フーシャは昼食まで寝ると言って、寝室に向かった。


 ケイトは少し休憩してから、自室の掃除を始めた。

 シーツも今朝洗いに出している。

 次に廊下の掃き掃除をした。


 適時休憩を取りつつ、ケイトは日中チャック号内の掃除に励んだ。


「明日の夜明け同時に秋と夏の国を繋ぐ海上道路を走るわ。

 支度をして、操縦室に来てみて。

 とても素敵な光景だから」

 夕食時にブロワが言った。


■■■■■


 翌日、ケイトは日が昇る前に起きて、身支度をする。

 服装は主任技術者のそれにした。


 操縦室に向かうと、上着を着たチャックとツナギ姿のブロワが操縦席で確認作業をしていた。


「おはよう、ケイト主任(チーフ)

 夜が明けたら海上道路の入口が開きますので少しお待ち下さい」

 フーシャが熱いコーヒーをケイトに渡す。

 自分も飲みながら、通路を挟んでケイトの隣にある座席に座る。


 金風も現れた。

 あくびをしながら「東風はまだ寝るって」とフーシャに言っていた。


 ケイトは座席横の窓から外を見る。

 外は暗いが、車のライトがあちこちで光っている。

 待機中の車がチャック号以外にも沢山あるようだ。


「大統領選はお祭りみたいなものだからね。

 あちこちから半妖精達が集まってくるよ」


 金風がケイトの近くでぷかぷか浮きながら言った。

 浮いたまま彼は身体を横にしている。


 空が明るくなり始めた。

 道路入口の左側から白い光が差し込む。


「入口が開いたわ。出発!」

 ブロワが軽快な声で言った。

 チャックもキャンッと元気よく鳴いた。


 先頭はチャック号だ。

 ブロワはボタンを押し、正面窓のサイズを変えて、景色が一望出来るようにした。


 白い道が、揺らめく海の上を真っ直ぐ通っている。

 黒から紺、青へと移り変わる空の中に潜り込むように、チャック号は走る。

 水平線の向こうは鮮やかな青空と雲が広がっていた。


 ケイトは後部座席横の窓からも景色を見る。

 道路の位置は海面よりも高い為、波のうねる姿が見える。

 沖に出ると、イルカと思われる背びれが時折見えた。


「早く来て待ってて良かった!

 先頭は気持ち良いわぁ!」

 ブロワとチャックはとても楽しそうだ。


 太陽の光がどんどん強くなる。

 快適な空調のチャック号内だが、身体が熱くなっていく。

 ケイトは座席から立ち、ブロワの背後に立つ。

 真正面からその景色を見たかった。


 やがて濃い緑の山頂が見えてきた。

 くっきりと濃い岩肌もある。


「もうすぐ夏の国に着くわ」

 ブロワの声が一層高らかになる。


「海岸公園へ向かおう。

 キャンプスペースを予約してる」

 フーシャが言った。


 チャック号は海上道路の終着点で一度止まる。

 フーシャが入国手続きを済ませ、チャック号は走り出す。

 他の車もぞくぞく入国して都市部に向かう一方、チャック号は空いた湾岸道路を走った。


 広い砂浜が横手に見える。

 様々な姿の半妖精達が、パラソルを差して寛いでいる。


「首都のイビスコはフェイス一のリゾート地です。

 一年中あちこちから観光客が訪れます。

 私も昔何度かバカンスに来たことがあります。

 夏の国の春は本当に最高ですよ」

 フーシャはケイトを見ながら言った。


 ケイトの表情が明るくなっているのが良く分かった。


 チャック号は海岸公園のキャンプスペースに到着した。

 小さな家一軒分の広さがあり、ココナッツの木や熱帯植物が境界になっている。

 2つ隣にもキャンピングカーが駐車しており、テントが立っていた。


「ホテルはどこもいっぱいで。

 ちょっと暑いですが、ここならゆったり過ごせるでしょう」


 フーシャは言った。


「都市部はきっと選挙で騒々しいでしょうしね。

 炎風は来てるかしら?」とブロワ。


「寒風が連絡してるはずだからいると思うけど」

 金風がシャツの首元のボタンを外しながら言う。


「早く、寒風を呼ぼうよ。

 チャック号内(ここ)も暑くなってきた」

 金風はスーッと出口へ向かった。

 ケイトも付いて行く。


「寒風が来ても大丈夫なの?」


「むしろ、彼はここでは必須さ」

 金風は言った。


 チャック号出た瞬間、浴びる空気が変わった。

 お湯が粒子になっているようだ。

 熱と湿気が全身を覆う。


 ケイトは白い砂を踏む。

 空を見上げて手で太陽を隠す。

 手の平がジリジリと光を受け止める。

 全身の毛穴が目覚めて汗が吹き出してきた。

 

「暑ーい!

 おーい、寒風ー!

 早く来てよー」


 金風が空に向かって呼びかける。

 その横でケイトはヘルメットのローブの裾を外し始めた。


■■■■■


 フェイスを照らす太陽は1つのはずなのに、どうしてこうも違うのか。

 ここに来た途端、日光が強くなったようだ。

 寒風はコートの襟を立てて、後頭部を隠す。

 日差しが容赦なく刺してくるようだ。

 それでも、身体が溶けて小さくなってしまう雪や氷の妖精に比べたら自分はまだマシだろうと寒風は思った。


 炎風には便りを送っているが、まだ返事は無かった。


 海岸公園のキャンプスペースから金風が呼ぶのが見えた。

 寒風は下降を始める。


 金風の隣にいたケイトが、ヘルメットを外した。

 結った長い髪がストンと揺れながら落ちる。

 続けて彼女はジャケットのジッパーを下ろし脱いで白いブラウス姿になった。

 ジャケットとヘルメットを持った両手を横に伸ばし、胸を反らした。


 この暑さの中、ジャケットを脱ぐのは当然だ。

 しかし寒風はその様子から目が離せずにいた。

 ケイトの指が、ブラウスのボタンを上から1つ2つ外す。


「どうしたの? 寒風……あ?!」


 金風の声が届くと同時に、強烈な熱風が寒風の身体を吹き飛ばした。


「寒風?!」ケイトも叫ぶ。


 身体が勝手に回転する中、寒風は気付いた。

 体勢を戻して元の位置に向かう。

 今度は風ではなく身体がぶつかってきた。


「よー! 寒風! しばらくじゃねぇか!」


 寒風の青白い首に、筋肉のついた腕が巻き付く。

 程よく日に焼け、健康的な肌色をしている。

 

 腰部分だけ赤い、黒いムエタイパンツを履いている。

 それ以外何も着ていない為、しっかり鍛えた身体の持ち主であることが分かる。


「彼が、炎風?」ケイトは呟く。


「そ。夏の風の妖精。暑苦しい奴だろ」

 金風はじゃれ合う二人の様子を見ながら言った。


 寒風とは真逆の印象の青年。

 ケイトは彼の特徴的な髪に目を奪われていた。


 赤色とオレンジ色が混じっており、非常に長くて多い。

 それが常に上下左右に揺らめいている。

 まるで頭に燃え上がる炎を纏っているようだ。

 あの毛先に触れると熱いのか、ケイトは気になった。


挿絵(By みてみん)


「この俺を呼び出すとはな。

 よっぽどの事態なんだろうな?!」


 炎風は寒風の頭をぐしゃぐしゃを搔き乱す。


 寒風は引き離したいが、力の差が今はあり過ぎた。


「炎風ー! 寒風ー!

 早くこっちに来てよー!」


 金風の声が、二人のもとに届く。

 炎風の手が緩む。

 すかさず寒風は彼から離れた。


「お、金風とチャック号か。

 あれもまた久々な組み合わせだな。


 と、ん?」


 炎風は寒風の肩をガシッと掴む。


「誰だ? 金風の隣りにいる女?

 えらく別嬪さんだし、胸もまぁまぁデカそうだな」


 炎風は寒風に顔を近付けボソッと尋ねた。


「失礼なことを言うな!」

 寒風は声色厳しく返した。

 彼の頬から耳にかけて赤くなっていることを、炎風はニヤニヤしながら見ていた。

炎風挿絵は若槻未来さん作です。ありがとうございました!

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