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19、寒風の過去

 ケイトはレモングリーンティーを一口飲みカップを置く。


「この星の人々は隕石が落ちても、あまり驚かないのね。

 地球だったら大騒ぎだわ」


「フェイスと言えば、隕石だよ。

 妖精はフェイスに落ちた隕石から生まれるしね」

 金風はゴクンとクッキーを飲み込み言った。


「そうなの?」


「ああ、主任は知らないんだ。

 フェイスに落ちた隕石から生まれたのが妖精。

 その妖精がはるか昔、生殖機能を持ち、子孫を残したのが半妖精なんだよ。


 妖精は不老不死で年齢も性別も無い。

 半妖精は不老不死を手放す代わりに、雌雄に分かれ繁殖能力を得たのさ」


「昨日や先週落ちた隕石からも新しい妖精が生まれたの?」


「それは無いと思うよ。

 隕石が落ちて妖精が生まれたのは、もう大昔の話。

 今も隕石は落ちるけど、新しい妖精は滅多に生まれない。

 代わりに半妖精が繁殖してどんどん増えたしね。

 増えすぎて、星を移住する妖精や半妖精もいる位だし。


 僕らが生まれたのもかなり奇跡的なことなんだよ」


「どういうこと?」


「僕達は大風車に落ちた隕石から生まれたんだ。

 街中びっくりしたらしい。

 住民も生まれたての妖精を見るのは初めてだったから」


「もっと詳しく聞きたいわ。

 そもそもあなた達は何年生きているの?

 見た目は、皆10代後半の子どもに見えるけど」


 ケイトは少し前のめりになる。


「良いよ。

 僕らの見た目は仮の姿だけどね。

 えーっと、主任が分かる年数表記で言うと……」


 金風は浮かせて寄越したパソコンをカタカタ鳴らす。


「26年前!

 26年前の丁度今頃、寒風が生まれたんだ。

 その1週間後に炎風。

 更に1週間後に僕。

 そして2年後に東風が生まれた」


 フワリとパソコンが浮き、机に戻る。


「ねっ。

 不老不死の妖精なのに、まだまだひよっこ」


「でも、私の国の感覚では、全員成人してるわ。

 少し安心したわ。

 子どもを危険な目に遭わせていると思っていたから」


「てか、妖精に成人も子どももないけどね」

 金風は笑った。


■■■■■


 一足先にチャックが操縦室にやって来た。

 安全な走行の為に、点検やルート確認は欠かせない。

 あくびをしながら、チャックは肉球でボタンを押し、モニターを見た。


■■■■■


 ケイトはミニキッチンに行き、湯を沸かし直す。

 窓を見ると、雲一つない青空とその下に黄金色の麦畑が広がっていた。

 微かな揺れを感じながらソファに戻る。


「寒風はちゃんと、空の上で休んでいるのかしら?」


「休んでないんじゃない?

 妖精は半妖精や人間みたいに、健康管理はいらないから。

 食べなくても良いし、排泄もしない、身体は汚れないし、寝なくても疲れない」


「でもあなたや東風は、食べているし、寝ているわ」


「僕らはフーシャさん達と暮らしてたから、半妖精の生活に慣れているのさ。

 習慣化してるから、わざわざ止めないよ。

 それに僕は美味しいものが大好きだし」


 金風は最後の一枚(クッキー)をじっくり眺めてから口に入れた。


「寒風は半妖精の生活に馴染めなかったの?」


「ううん。昔は一緒に暮らしてたよ。ご飯も食べてた。

 でも……」


「でも?」


 金風はトスンッとソファに座り、語り始めた。



■■■■■


 寒風はとても面倒見の良い奴だった。

 生まれてすぐの僕にとても優しくしてくれた。

 フーシャさんやブロワさんに色々なことを教えてもらって、家の手伝いも沢山していた。


 ある日、寒風は街へお使いを頼まれたんだ。

 寒風はその時、子どものヒト姿に変身して出掛けたんだ。


 そう、僕達の本当の姿は別だ。

 身長は10センチメートル位で、ヒトの幼児みたいな見た目で羽が生えているんだ。

 見せてあげるね。


 これが僕の本当の姿。

 妖精の力も一番発揮できる。

 変身してると、力のコントロールが弱まるんだよね。

 まぁ僕は大きくしてる方が、研究作業しやすいし、ご飯も沢山食べられるから、変身してるんだけどね。

 じゃあ姿と話を戻すよ。


 フーシャさんとブロワさんは変身した寒風を見て、とても嬉しそうだった。

 街の住民も、変身した姿の方が接しやすいみたい。

 だから、僕達も寒風を真似して変身したんだ。

 すると近所の子ども達と遊ぶ機会も増えて楽しかったね。


 それから1年程して東風が誕生した。

 

 寒風と炎風は、東風を凄く可愛がってたよ。

 でも東風が懐くのは何故かいつも寒風だったなぁ。

 あと、東風も姿をすぐに変えてたよ。

 

 ある冬の季節に、炎風が東風におねだりされて、夏の国へ果物をもらいに行くことになったんだ。

 炎風は1週間程、チューリップを離れた。


 するとね。住民達が次々に体調を崩してしまったんだ。

 フーシャさんもブロワさんもだった。

 例年に無い、気温の冷え込みが理由だった。


 炎風がいることで緩和されていた寒風の冷たい風が、季節が冬だったこともあり、街中に拡がってしまったんだ。


 フーシャさんは「炎風が戻るまで、姿を戻して力をコントロールするように」と寒風に言った。

 寒風もそうしようとしたんだけど、悲しいことが重なってしまった。


 おじいちゃんが死んだ、と半妖精の子どもが館に訴えてきたんだ。

 死因は老衰だけど、祖父が大好きだったその子は、怒りの矛先を寒風に向けてしまったんだ。


 責任を感じた寒風はチューリップを離れることにした。

 東風も「ついて行く」って言って聞かなかったけど。

 結局、寒風に「フーシャさんや街の皆を頼む」って言われて戻って来た。


 寒風が去った後に炎風が戻って来た。

 炎風は東風を慰めようとしたけど、あまり上手くいかなかったみたい。

 やがて今度は例年よりも気温が高くなって、植物にも影響が出始めた。

 炎風は自分が原因だと知り、夏の国で暮らすことにした。

 夏の国にいれば、身体を戻さないまま力を発散しても問題ないからね。

 炎風も身体が大きい方が動かし甲斐があるからって、そのままにしてるみたい。


 僕はしばらく館にいたけど、もっと勉強したくなってさ。

 フーシャさんに相談して、トゥンナムの学校に入学した。

 学生寮に入る為に、僕もチューリップを出たんだ。


 寒風は姿を見せなくなったけど、たまに現れるらしい。

 山登り中に足を滑らせて落ちそうになった人を助けたり、落下する看板を浮かして助けたりしてね。


 街の皆も、寒風が空からパトロールして、自分達を守ってくれていることを知った。

 皆、寒風にお礼をしたいし、一緒に過ごしたいと思ってるけど、寒風は頑なに断ってるらしいよ。


■■■■■


 ケイトはおかわりのお茶を、二人のカップに注いだ。


「真面目な寒風だからこそ、頑なになってしまうのね」


 ケイトは渋みが強くなったお茶を一口飲む。


「姿を戻せば、冷たい風が起きないようにコントロール出来るのでしょう?

 どうして寒風はしないのかしら?」


 金風は温めのお茶を飲み干した。


「嬉しかったんじゃない?

 初めて変身した時、フーシャさんとブロワさんがとても喜んでくれたことが」


 金風とケイトは談話室の窓を見る。

 今は民家のある通りを進んでいるらしい。

 素朴な建物や屋根が横に流れていく。


「ヒトの姿でいると、冷たい風を起こしてしまう。

 だから、彼が近くにいると寒くなってしまう……」


 ケイトは眼差しを手に持ったカップに移す。


「……でも、彼自身は温かかったわ」


「え?」


 金風の声にケイトはハッと口を塞ぐ。

 頬や耳が熱くなる。


「大丈夫?」


「大丈夫よ……。

 少し失礼なことを考えてしまっただけ。

 ごめんなさい……」


 ケイトは残りのお茶をググッと飲んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  四人の年齢がわかって嬉しいです。背景が深まる良い閑話回でした。  寒風が国を離れることになったエピソードが悲しいですね。東風は自分のせいだと随分悔やんだのでしょう。生真面目で思いやりの…
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