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18、金風とおしゃべり ☆

 秋の森に到着したのは夜だった。

 フーシャはチャック号を出るのは諦め、夜明け早々にカエデに会いに行くことにした。


 フーシャが森の奥へ進む様子を、個室の窓から見たケイトはベッドから下りる。


 顔を洗い、髪を整え、化粧をする。

 ブロワから借りた水色のワンピースを着る。

 靴は黒いパンプスを借りた。

 履き心地が良く、ヒールが低くて歩きやすい。


 ケイトがダイニングルームに行くと、ブロワが朝食の準備を始めようとしていた。

 彼女も今日はベージュのワンピースに白いエプロン姿だ。


「おはよう、ケイト主任(チーフ)。早いのね」


「今日から少しずつお手伝いさせてもらおうと思って」


 ケイトの言葉にブロワは微笑む。


「ありがとう。

 じゃあ、朝食の準備をお願いするわ。

 キッチンの使い方を教えるわね」


 キッチンは基本的に地球のそれと変わらない。

 器具や食器類や調味料の場所をケイトは教わる。

 手順も聞くと、ケイトが自炊する時と大差なかった。

 しかし、調味料の表示が読めない。


「主任には下準備までしてもらうわ。

 仕上げの味付けは私か東風がするわ。

 私はこれから洗濯機を回してくるわね」


「分かりました」

 ケイトは借りたエプロンの紐を結びながら言った。


「あとで、貴女が読めるレシピを用意しておくわね」


 ケイトは昨日の残りのトマトスープが入った鍋に、水と入れて火をかける。

 サツマイモとジャガイモの皮を剥き、一口大に切って鍋に放り込んだ。

 グツグツ音を立てる鍋をかき混ぜて蓋をする。

 仕上げの味付けは、ブロワか東風が来たら頼むことして、ケイトはテーブルにスプーン等を並べ始めることにした。


 やがてブロワが戻って来た。

 ふわぁとアクビをしながら、鍋を見に行った。


 看護に家事にチャック号運行にと、彼女は大忙しだ。

 きっと相当疲れているはずだとケイトは思った。

 出来ることはどんどん手伝っていこうと決意した。


 ブロワが調味料を鍋に入れる横で、ケイトは飲み物の用意をする。

 適時ブロワが手順等を指示する。


「あのブロワさん。

 質問ですが、夏の国へは空路で行かないんですか?」

 ケイトは昨日浮かんだ疑問を述べた。


「夏の国独自の自然保護ルールがあってね。

 領空内は原則生き物しか飛べないの。

 空港や飛行場はあることはあるけど。

 先週落ちた隕石で海港も封鎖中で海路も駄目だったわ」


「そうなんですね……」

 ケイトは次の疑問が浮かぶ。

 だが尋ねようとする前に、東風とフーシャがやって来た。


「おはよう。ブロワさん、ケイト主任。

 フーシャさんが沢山お土産を持って来てくれたよ!」


 東風はフワフワ浮かんだカゴを前に出す。

 採れたてのキノコや根菜類や果物が入っていた。


「カエデさんのところに行ったら、王都の様子が落ち着いたことをもう知っててね。

 お礼でくれたんだよ。

 あと、コスモスの住民からはローストチキンを頂いた。

 昼に食べよう」

 フーシャが大きな銀盆を両手で持ちながら言った。


「まぁ、楽しみね!

 こちらも朝ご飯の用意が出来たわ。

 チャックと金風を呼んできて」

 ブロワがカゴを受け取り言った。


 朝食はカレーだとケイトは思った。

 ジャガイモが溶けて程よくとろみがある。

 ただ、ケイトとしては物足りない味だったので、チリペッパーを足したいと希望した。


「ココナッツミルクがあると、祖国の味にもっと近付くと思います」


「夏の国に行けば手に入るから、作ってみるわ」

 ブロワは朗らかに言った。


 朝食後のコーヒーも済み、各自解散する。

 ケイトは自動食器洗い乾燥機に食器類を入れてスイッチを入れた。

 次にブロワと二人でキッチンとダイニングの掃除をした。

 

「お疲れ様。お昼になったら、昼食の用意をするわ。

 今日はずっとチャック号を走らせるだけだし、のんびりしましょうね」

 ブロワはエプロンを外しながら言った。


■■■■■


 ケイトは個室に戻った。

 歯を磨き、身だしなみを整え直す。

 そしてすぐに部屋を出た。


 フーシャやブロワに色々話を聞きたいと思ったからだ。

 

 しかし、操縦席、ダイニングルーム、談話室、制作室に行っても誰もいなかった。

 ケイトは二人の寝室の場所を知らない。

 流石にその部屋に訪問すべきでないだろうと思った。


 仕方なく紅茶を飲みながら読書しようと決め、ケイトは談話室に向かった。


 談話室のドアを開けると、先程はいなかった金風が、本を抱えて浮いていた。


「主任も読書ですか?」


「ええ、個室にいても落ち着かなくて。

 フーシャさん達は寝室で休まれているのかしら?

 操縦席にも誰もいなかったのだけど」


「全員今は寝てるよ。

 フーシャさんもブロワさんもチャックも東風もね。

 運転は自動だし」


「そうだったの。

 皆さん、お疲れでしょうから、ゆっくり休んでほしいわ」

 ケイトはミニキッチンに行き、水を入れたケトルのスイッチを入れた。


「違うよ。

 春の国の住民は、春の間はずっと寝るのが習慣だからさ。

 朝はお寝坊、昼はお昼寝、夜は夜ふかししない。

 これが春の国の春生活さ」


「えっ、でも皆さんとてもお世話してくれたわ。


 あなたも紅茶飲む?」


「そりゃあ、人命救助だもん。

 寝るより優先されるでしょ。

 でも、それ以外で優先されるものはほとんど無いね。

 春の国では。


 ダージリン、はちみつたっぷりで」


「面白い国ね。

 春の国は暖かくて、確かに眠るには心地良かったわ。


 ごめんなさい。

 文字が読めないからどれがダージリンか分からないわ」


 ケイトがそう言うと、金風がふわりとケイトの頭上から手を降ろし、棚の缶を見る。


 彼はケイトの隣でほぼ身体を横にした状態で浮いている。


「フーシャさん、しばらくの間に随分増やしたんだな。

 よし、僕がスペシャルブレンドティーを淹れよう!

 主任はどんなお茶が飲みたい?

 苦手なフレーバーはある?」


「頭をスッキリさせたい気分だわ。

 ミントかグリーンティーがあれば」


「おっけ〜、任せて。僕もそんな気分だ。

 主任はどうぞソファで待ってて」


 ケイトは紅茶の用意を金風に任し、本を選びに行った。

 書庫から戻ると、柑橘の爽やかな香りが鼻をくすぐった。


「レモングリーンティーだよ。

 メープルクッキーもどうぞ」


 金風はソファのサイドテーブルにポットとカップ、クッキーが山盛りの皿を置いた。

 二人はテーブルを挟んで横並びに一人がけソファに座る。


「頂くわ」ケイトはカップを持ち上げた。


 柑橘の香りとお茶の渋みが気持ちをキリッとさせる。

 カエデの形をしたメープルクッキーは、控えめな甘さとしっとりとした食感で、お茶と良く合った。


 ケイトは金風を見る。

 彼も今は休憩中らしく、持ってきた本やパソコンも別の机に置いていた。


「木星で仕事していたよりも、穏やかに過ごせているから、緊急事態だってことを忘れてしまいそうだわ。

 地球じゃあ大騒ぎかもしれないのに」


 ケイトは発言後、金風の反応を見る。


「地球の様子を知ったところで、アンプリファイアを回収出来る訳じゃない。

 余計な情報は入れなくて良いんじゃない?」

 と、金風は返した。


 ケイトは彼と会話が出来そうだと思った。


「そうだけど、墜落してから一度も地球や宇宙連合からの情報が全然入っていないのよ。

 金風がデータベースにアクセスした時、何かニュースはあったかしら?」


「うーん、実はね。

 影の妖精達に先越されていたみたいでさ。

 フェイスと宇宙連合のアクセスが上手く行ってないみたいなんだ。

 サクラにある支部が連絡を取り合っているみたいだけど、お互い音沙汰ない状態が続いているらしい。

 復旧作業は始めるみたいだけど、時間はかかるだろうね」


「何ですって?!

 じゃあ、あなたにお願いした調査も難しいのかしら……?」


「いや、それは僕が色々アクセス試して頑張ってみるよ。

 通信不可になってるのは一部だけで、学術データベースまでがやられている訳じゃないからね」


 金風はニッと微笑む。

 ケイトは少し安堵するも、フッと思い出した。


「ねぇ、あなた研究発表があったんじゃない?

 ごめんなさい、忘れていたわ」


「あれは来年に回すって、もう教授に連絡したから大丈夫。

 こちらの方が面白そうだしね。

 一件落着したら研究論文に使わせてもらうよ」


 金風はメープルクッキーを同時に3枚口に放り込んだ。

 ケイトはフフッと笑う。


「あなたと話しているの楽しいわ。

 実はこの星のことを誰かに聞きたくて仕方なかったの。

 少し付き合ってくれるかしら?」


 ケイトもポンッとクッキーを口に入れた。


「僕で良ければ」

 フワッと金風の身体が浮き、ケイトと顔を見合わせる。

 プクッとした手を顎に添える。

挿絵(By みてみん)

「あ、でもパソコンでダウンロード中なんだ。

 時々覗きに行かせてもらうけど良い?」


「もちろん」ケイトは言った。

加純様作金風イラストを挿絵掲載しました。ありがとうございます!

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