16、夏の国へ
第2章最終です。
ケイトは金風の背に乗り、3人は飛行場に向かって飛ぶ。
ヒカゲに遭遇したこともあり、寒風は警戒し、ケイト達から離れない位置で飛んでいた。
反対方面から、東風が迎えにやって来た。
「もう、チャック号は離陸して秋の森に向かっているよ」
4人は飛んでいるチャック号と合流する。
側面の一部がスライドドアとして開く。
中は何も問題ないようだ。
ケイトは驚くのを止めた。
「ケイト主任、お疲れ様。さぁこちらをどうぞ」
ブロワがケイトの身体をブランケットで包む。
日に当てたようにポカポカと暖かった。
ケイトの唇は軽く小刻みに震えていたのを見て、寒風が申し訳なさそうな顔をする。
「すみません、俺のせいです」
「そんなことないわ。
私は何度もあなたに助けられているのよ」
ケイトは言ったが、寒風は会釈して離れて行った。
ブロワがドアを閉める。
「さぁ、休憩しましょう」
ブロワと金風がダイニングルームへ向かう。
ケイトも歩き始める。
東風が唇をギュッと噛み、ケイトが横切るのを見ていた。
■■■■■
ダイニングルームに寒風以外全員揃う。
フーシャと隣に金風。フーシャの向かいにケイトが座る。
通路挟んだテーブルに、ブロワ、チャック、東風も座る。
ケイトは出されたホットココアを一口飲んだ。
そしてラボ棟での出来事を話した。
「ヒカゲがエドに加担し、アンプリファイアを使おうとしているのか。
まずいですね。
ヒカゲの狙いは恐らく暗晦の解放でしょう」
フーシャが腕組みしながら言った。
「暗晦?」ケイトが尋ねる。
「闇の大妖精です。
少し前に大暴れしたことがあり、寒風が雪の妖精達と協力して、暗晦を氷で封じ込めたのです。
今は冬の国の大牢獄におります。
ヒカゲは暗晦が封印される時に生まれた影の妖精です。
その為、暗晦の意志を受け継いでいるのてす」
「アンプリファイアを使って、暗晦を解放したら、地球への攻撃だって簡単に出来ちゃうだろうね」
金風が言った。
山盛りのサンドイッチをパクパク食べ続けている。
「エドとヒカゲが手を組んでアンプリファイアを使うことは、お互いにとってメリットがあるのですね。
色々と合点が行きました。
二人はずっと前から計画していたのです。
王宮にあったアンプリファイア。
あれはモノカゲに見張らせて、タイミングを狙ったのでしょう。
更に言えば、アンプリファイアを盗んだのも、私が緊急で火星に向かう際中でした。
火星のアンプリファイアに異変が起きたのも、エドが一人でフェイスに来れたのも、ヒカゲの協力があったと考えれば納得です」
ケイトはため息をつく。
「でも、エドはいつどうやってヒカゲと接触したのかしら?
妖精達はそんなにも簡単に宇宙を移動出来るのですか?」
「いやいや。
この星に宇宙を移動する手段はほとんどありません。
妖精の力も星を出れば弱まることが多いです。
外の情報を得られる手段も限られています。
何より、闇に属する妖精をフェイスのシステムが受け付けることは滅多にありません。
この星にとっても、闇の妖精は厄介な存在なのですから」
フーシャは言った。
「エドとヒカゲの接点。
この辺りをもっと調べることが出来たら、エドを見つけることや、アンプリファイアの回収に繋がるかもしれません。
ねぇ、金風。
調査を頼めるかしら?」
金風は目をパチッと開く。
「良いけど……そうなると宇宙連合のデータベースに入る必要があって……。
僕にはその権限ないんだよなぁ」
金風は食べかけのサンドイッチからレタスを引っ張りながら言う。
「なら、私のIDとパスワードを貸してあげるよ。
あと私の紹介で支部に頼んで、金風専用のIDを作ってもらうよ」
「本当に? フーシャさん?!」金風の目が輝き出した。
フーシャはニッコリ微笑む。
「ヤッター!
遂に宇宙連合データベースに直接アクセス出来るぞー!」
金風はブワッと涼しい風を起こし、天井まで昇る。
「ありがとう、フーシャさん!
ケイト主任、僕に任せて!
わー、探偵みたいだなぁ! 一度やってみたかったんだ!
パソコン持って来ようっと」
金風は軽やかに飛びながらダイニングルームを出た。
「ケイト主任、次は冬の国に行きましょう。
暗晦周辺の警備を強化するよう伝えなくては。
その際、貴女からの助言も必要でしょう」
フーシャは言った。
ケイトは「分かりました」と返した。
「冬の国は大陸続きだから、秋の森から陸路で行く感じ?」
東風が尋ねる。
「そうね。その方が早いし安全だわ。
秋の森に着いたら、冬用タイヤの準備をするわ」
とブロワ。
「あ、今は陸路無理だよ」
ひょこっと金風が戻って来た。
銀色の薄いノートパソコンを小脇に抱えている。
「何故だい?」とフーシャ。
「昨日、国境に隕石が落ちたんだよ。
まだ道路は復旧してないからね」
金風はテーブルにパソコンを置いて起動させる。
「それじゃあ仕方無いわね。
でも冬の国に空路で行くのは大変よ。
向こうはまだ吹雪も続いているだろうし」
ブロワが言う。
「海路で行くか。それも天候が心配だが」
フーシャが頭を掻いた。
「海なら炎風について来てもらったらいいんじゃない?」
東風が言った。
「炎風も風の妖精なの?」とケイト。
「夏の風の妖精だよ。
炎風がいれば、時化る心配も無くなるよ。
夏の国なら、海上道路を渡れば秋の国からそんなにかからないし」
「夏の国に寄る東風案に僕も賛成。
ヒカゲ達は冬の国以外でアンプリファイア実験すると思うんだ。
だとすれば、舞台は夏の国だと僕は読んでいるよ」
「ほう、その理由は?」
フーシャが金風と一緒にパソコンを見ながら尋ねた。
「大統領選さ。
今年の夏、新しい夏の国の大統領が誕生する。
春の今は、選挙活動ピーク時。
毎回接戦さ。
ヒカゲが喜ぶ感情もゴロゴロ転がっているよ」
「そうか。
よし、じゃあ秋の森で泊まって、明朝夏の国に行こう」
フーシャが言った。
「海上道路を走るなんて久しぶり!
楽しみね、チャック」
ブロワがチャックに向かって言うと、チャックも尻尾を振りながらワンッと鳴いた。
「そうと決まれば、各自解散。
ケイトさんは今日はもう休まれてください。
秋の森に着いたら私がカエデさんに話してくる。
金風は調査。
ブロワとチャックは夏の国へ向かうルート確認。
東風は夕食の準備を頼むよ」
各々「はーい」と返事をして動き出す。
金風はノートパソコンに喰らいついている。
その脇で東風が食器類を片付けていく。
ケイトは会釈して個室に戻った。
聞きたいことは山程あるが、今は少し休もうと思った。
次回から第3章夏の国編です。
遂に、夏の風の妖精炎風も登場します。