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チャレンジ

密室裁判 ~ 裁判長、執行猶予は3秒でいいですか?

レモンをナイフで切ると、シャクリという音が響く。この音と香りがたまらない。輪切りにしたレモンを口にくわえると、黄色く爽やかな香りが部屋中に漂った。


昭和30年1月。俺は、賭場の借金に追われていた。


ある方法で、なんとか乗り切ったものの一時しのぎでしかない。八百屋の店先で、ポケットに放り込んだレモンをくわえ、街の酒屋でちょろまかして来た焼酎をラッパのみする。グラスなどという洒落たものは、この部屋にはない。


ふぅ…どうしたものか。


ため息しか出ない。


 ―― ドンッ


その時である。ドアが音を立てて大きく開かれ、数人の男が飛び込んできた。


後頭部に強い衝撃を受ける。カラリと右手のナイフが床に転り、俺は、意識を失った。



******************************



「兄さん。密告はよくねぇな。」


街の小さな麻雀店『明治蛭子常盤座』の常連たち…。しかも、玄人と呼ばれる賭場を専門とする危ない面々が揃っている。まずいっ!バレた…。


隙間風が吹き込むトタンの壁。壁の周りには、男たちが並び、その前には 油のにおいがするドラム缶や、茶色いセメントの袋が無造作に積まれている。


「おいっ。何とか言ったらどうだ。

 お前が密告したのは、もう分かってんだよ。」


借りていた賭場の金。それが、どうしても返せなかった。俺の取ることのできる道は、警察への密告しかなかったのだ。


「待ってくれ。俺じゃねぇ。

 知らない。俺は、その日、金策に走ってたんだ。」


嘘でも何でもいい。この場を逃れなくてはならない。俺は、思いつく限りの言葉を並べた。


「ほぅ。言うねぇ。

 まぁいいや。じゃぁ陪審員の判断を聞いてみようか。」


壁際に並ぶ男たちが前に出てきた。


「ほとんどの人間は、お前のせいで豚箱に入ってきた。

 お前に警察はいらない。ここで、裁きを下す。」


「有罪っ。」


「もちろん有罪だ。」


「有罪。」


壁に並ぶすべての男たちが意見を述べていくが、『有罪』以外の声は無い。


「分かったな。ギルティ。有罪だ。

 3秒だけ時間をやろう。神に祈りなっ。」


壁際の男の一人が、ドラム缶を転がす。もう一人は、セメントの袋を破り始めた。


俺の前に立つ男が、胸ポケットからナイフを取り出した。黄色い香りがする。あぁ、さっき俺がレモンを切っていたナイフだ。


1・・・ 2・・・ 3・・・。


3秒後、俺の首元で、シャクリというレモンを切るような音が聞こえ、赤く薄汚れた鉄の匂いとともに、世界は真っ白になった。

文字数(空白・改行含まない):998字

こちらは『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』用、超短編小説です。


そのままでも楽しんでいただける形に仕上げたつもりですが、下の短編もあわせてお読みいただくと、より楽しくお読みいただけます。


https://ncode.syosetu.com/n1274hj/

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