少女に恋した家守妖精
むかしむかしから伝わる妖精がいる。
彼らは「家」を守る妖精。
どの「家」にもいて、「家」を守るため、そこに住む者たちを守る。
彼らは、「家守妖精」と呼ばれている。
*
ある一軒家に、家族が引っ越してきた。
男が一人に、女が一人、それと小さな嬰児が一人。
夫であり父でもある男は外で仕事をし。
妻であり母でもある女は家で家事をし。
子であり娘でもある嬰児は揺り籠に揺られていた。
家族は何年もその家に住み続けた。
やがて嬰児だった娘は一人で歩けるようになり、少女へと成長していった。
男と女は老いを見せつつも元気で、娘である少女と三人幸せな日々を過ごしていた。
やがて少女は恋を知り、女性へと移り変わる。
そして伴侶を見つけ、この「家」を出て別の「家」をもって暮らし始めた。
……そう。いつか、こうなることは知っていたハズなのに。
―― 本来なら、ただ在るだけの存在だった。
―― 家守妖精は、ただ家とそこに住む家族を守るだけの存在。
―― 家守妖精の望みは、家主によってもたらされる。
―― それなのに。私は。あの人に、「恋」をしてしまった。
―― 家主の望みではなく。わたし個人が抱いた、初めての「望み」
―― いつからか、「家」を守るためではなく。「彼女」を守るために「家」を守るようになった。
―― そんな彼女が家をでることになった
―― 私は知っていた。知っていたのに、ここから離れられぬ己の定を恨んだ
―― 悲しみが恨みに変わり、その恨みは家に住むものたちへ向かう
―― 恨めしい……。恨めしい……。
―― 離れられぬ、この身が口惜しい……。
―― この家さえなければ、自由になるのに。
―― この家さえなければ。
―― この家があるから私は彼女の元へ行くことが許されない。
―― この家さえなければ……。
しかし、それは家守妖精として、決して想い願ってはいけないことだった。
私の願いはあまりにも強く、定を超えて影響をもたらした。
【 家主を死に至らしめる 】
という、悲劇をもって。
私の願いは家主に不幸をもたらした。
そしてそれは自らにも還ってくることに。
願ったの私。そして叶ってしまった願い。
家は、なくなってしまった。
私の存在意義であり、私そのものの「家」が……。
願いは叶った。
しかし、同時に、それは自らの「死」を、この世からの「消滅」を意味していた。
私は願ってしまったのだ。
自らの死を……。
初めての「恋」に溺れ、自らの存在としての理由も忘れ、すべてを見失ってしまった。
―― ああ、彼女に会いに行くこともかなわない
―― 私は私であることも失った
―― 守るべきものも守れず、消えゆくのみ
ああ、ああ、ああああああ、
愛していた
愛していた
けれども、私は私であることに満ち足りていたのに
せめて、せめて、最期に願うのは、
この後のものが、家守妖精も、家主も、
皆が、幸福であれと、
ただ、、、、、、それ、だ、け、、、