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少女に恋した家守妖精

作者: 葡萄鼠


 むかしむかしから伝わる妖精がいる。

 彼らは「家」を守る妖精。

 どの「家」にもいて、「家」を守るため、そこに住む者たちを守る。

 彼らは、「家守妖精(ドモヴォイ)」と呼ばれている。







 ある一軒家に、家族が引っ越してきた。

 男が一人に、女が一人、それと小さな嬰児が一人。

 夫であり父でもある男は外で仕事をし。

 妻であり母でもある女は家で家事をし。

 子であり娘でもある嬰児は揺り籠に揺られていた。



 家族は何年もその家に住み続けた。

 やがて嬰児だった娘は一人で歩けるようになり、少女へと成長していった。

 男と女は老いを見せつつも元気で、娘である少女と三人幸せな日々を過ごしていた。



 やがて少女は恋を知り、女性へと移り変わる。

 そして伴侶を見つけ、この「家」を出て別の「家」をもって暮らし始めた。




 ……そう。いつか、こうなることは知っていたハズなのに。



 ―― 本来なら、ただ在るだけの存在だった。

 ―― 家守妖精(わたしたち)は、ただ家とそこに住む家族を守るだけの存在。

 ―― 家守妖精の望みは、家主によってもたらされる。



 ―― それなのに。私は。あの人に、「恋」をしてしまった。

 ―― 家主の望みではなく。わたし個人が抱いた、初めての「望み(おもい)

 ―― いつからか、「家」を守るためではなく。「彼女」を守るために「家」を守るようになった。



 ―― そんな彼女が家をでることになった

 ―― 私は知っていた。知っていたのに、ここから離れられぬ己の定を恨んだ

 ―― 悲しみが恨みに変わり、その恨みは家に住むものたちへ向かう



 ―― 恨めしい……。恨めしい……。

 ―― 離れられぬ、この身が口惜しい……。

 ―― この家さえなければ、自由になるのに。


 ―― この家さえなければ。

 ―― この家があるから私は彼女の元へ行くことが許されない。

 ―― この家さえなければ……。



 しかし、それは家守妖精として、決して想い願ってはいけないことだった。


 私の願いはあまりにも強く、定を超えて影響をもたらした。


 【 家主を死に至らしめる 】


 という、悲劇をもって。



 私の願いは家主に不幸をもたらした。

 そしてそれは自らにも還ってくることに。


 願ったの私。そして叶ってしまった願い。

 家は、なくなってしまった。

 私の存在意義であり、私そのものの「家」が……。


 願いは叶った。

 しかし、同時に、それは自らの「死」を、この世からの「消滅」を意味していた。


 私は願ってしまったのだ。

 自らの死を……。


 初めての「恋」に溺れ、自らの存在としての理由も忘れ、すべてを見失ってしまった。



 ―― ああ、彼女に会いに行くこともかなわない

 ―― 私は私であることも失った

 ―― 守るべきものも守れず、消えゆくのみ




 ああ、ああ、ああああああ、

 愛していた

 愛していた


 けれども、私は私であることに満ち足りていたのに



 せめて、せめて、最期に願うのは、

 この後のものが、家守妖精も、家主も、

 皆が、幸福であれと、




 ただ、、、、、、それ、だ、け、、、




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