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なんと!今年で90歳のお爺さん60年続いたゲームに転生することになりました  作者: 暁 龍弥


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第8話「敵の目的。そして、“世界の裏側”の名前」

 遭遇戦からおよそ一時間。

 南の街道を抜けるまで、護衛隊の誰もが無言だった。

 沈黙は恐怖ではなく、考え込む沈黙だ。


 玄道は馬車の後部、揺れる木枠に背を預けていた。

 風が土埃と草の匂いを運び、どこか乾いた空気が続く。


 敵は一切の痕跡を残さなかった。

 倒木も、魔力刃の残留も、魔力痺れを受けた兵も。

 逃げる直前に何かの魔術で証拠を消している。


(あれは兵士ではなく“影”だ。表に出ない組織が動いてる)


 そう理解した矢先、ジャレッドが声をかけてきた。


「……玄道。少し話がある」


 馬車は止まらないが、戦闘警戒が緩み、仲間全員の耳がこちらへ注意を向ける。


「さっきの敵――お前を狙っていた。俺達商隊を狙っていたわけではない。それで間違いないか?」


「あぁ。俺以外の者を殺す意図は薄かった。脅しあっても、護衛全滅が目的じゃない」


「……敵は最初から“お前個人”を狙っていたわけだ」


 クロードも腕を組んだまま、真剣な顔で聞いている。


「お前、心当たりは無いのか? 商隊の荷を狙ったわけでも、金でもねぇ。お前の名前だけピンポイントで把握してやがった」


「心当たりは……無い。俺は転生前の知り合いに恨まれてもいないし、この世界の人間に悪さをした覚えもない。今日来たばかりだ」


 冒険者たちの間にざわりと困惑が広がる。


「じゃあなんで狙われんだ? 意味がわからんぞ」

「名前を知ってるのもおかしい……登録してすぐに襲撃って早すぎる」

「ギルドの内部情報か……もしくは王国の情報局か……?」


 そこでジャレッドが深い呼吸をして、重く言った。


「……この依頼、ギルドからの通達は“魔物増加による護衛依頼”だった。だが裏ではもうひとつの情報がある」


 玄道はジャレッドの視線をしっかりと受け止めた。


「玄道──この護衛任務は、“お前に戦わせて実力を測るための依頼”だった可能性がある」


 馬車内がざわつき、クロードが鋭く問い詰める。


「どういう意味だよジャレッド。俺達を実験台に使ったってことか?」


「違う。ギルドが仕掛けたというより“ギルドの上層に潜り込んでいる別組織”が意図を混ぜたんだ」


 ジャレッドは周囲を見渡し、言葉を慎重に紡ぐ。


「この国には──表向きの“王国”とは別に、《裏組織》が存在する」


 冒険者の何名かが唾を飲んだ。

 この話は一般に知られている噂ではない。


 ジャレッドは続ける。


「国の中枢に“公的に存在しない兵力”があると言われている。王族の影、聖職の影、あるいは古い王家の残党とも噂されている。名前も目的も不明。だが……昔から、異常な力を持つ者を監視・排除する動きを見せる組織だ」


(そうか……俺が狙われた理由、それだな)


 俺は“異常な力を持つ者”。

 創造スキルと、スキルの深度。

 隠しステータス“加護”──創造神の寵愛。


 この世界に転生した瞬間から、俺は“特別”だった。


 それを“排除すべき危険要素”と判断した勢力がある。


 ジャレッドが絞り出すように言う。


「俺は今まで多くの護衛任務をしてきた。だが今回の襲撃は異質だ。“狙いが誰か一人”というのは、大きな恐怖を持った組織のやり方だ」


 俺はジャレッドの言葉を正確に受け止めて言う。


「つまり──“俺がこの世界にいること自体が危険視されている”ってわけだ」


 沈黙が落ちる。


 冒険者たちは目を逸らさず、だが怯えずに聞いている。

 それだけ護衛隊の覚悟は強いということだ。


 そして、ジャレッドが声を潜めて続けた。


「……実は、商隊の荷物にも“同じ情報”が関係している」


 俺はそれに静かに反応した。


「荷物……“ただの商品”じゃないってことか」


「あぁ。表向きは交易品だが、実際は“国の魔術研究所に送る資料”が積んである」


 冒険者達が目を見開いた。


「魔術研究所……国家機密かよ」

「こんな依頼、よく受けたな……!」

「狙われるわけだ……」


 ジャレッドは首を振った。


「だが、資料自体はそこまで重要じゃない。中身が“問題”なんだ」


「中身……?」


「“異世界人の存在に関する記録”だ」


 空気が凍りついた。


 クロードが低く呟く。


「……異世界人? つまり、玄道みたいに別の世界から来た奴か」


「そうだ。その記録が盗まれればこの国の均衡が崩れる。異世界人を兵器として研究する勢力が動き出すだろう」


 俺は確信した。


 敵は“俺の存在”を知った上での襲撃だった。

 俺が異世界から来たと察知している勢力がいる。


 ジャレッドが重い声で言う。


「玄道、今回護衛依頼を受けてくれて本当に助かった。恐らく俺達だけなら全滅していた。だが──ここから先は、お前に決めてもらいたい」


 馬車が軋み、護衛達が息を飲む。


「俺達は荷物を届けなきゃいけない。だが同時に、敵は“お前を狙って追ってくる”。このまま護衛を続ければ、お前はさらに命を狙われる。逆にお前が降りれば、商隊は安全になりやすい」


 ジャレッドは言い切る。


「選択権は──玄道、お前にある」


 その瞬間、護衛全員が玄道を見た。

 怯えではない。

 不安でもない。


 “覚悟ある者の目”だ。


 クロードが叫ぶ。


「俺はどっちでも構わねぇ! 玄道が残るなら全力で戦う! 離れるなら絶対死ぬんじゃねぇぞ!」


 魔法使いの青年も言う。


「俺は正直怖い……でも、玄道さんの判断に従いたい。命の恩人だから!」


 弓使いの少女も震える声で続ける。


「玄道さんが一緒にいてくれたら安心する……けど、無理はしてほしくない……!」


 みんなの視線が重なり、俺に託されている。


【マスター、選択肢の確率分析を行いますか?】


「いや、必要ない。これは計算で決める話じゃない」


 俺は全員の顔を順に見た。

 もう“仲間”だ。

 俺だけ逃げて、この人達が死ぬ未来を想像できるわけがない。


(結論はひとつだ)


「俺は──このまま護衛を続ける」


 その瞬間、馬車の周囲の空気が変わった。


 恐怖が消えたわけではない。

 だが“覚悟”が上書きした。


「敵が来るなら来い。守る依頼だろ? 最後まで守り切る。それが“護衛”だ」


 ジャレッドは表情を崩し、深く頷いた。


「……ありがとう。全員、玄道に感謝しろ」


 クロードが笑う。


「ははは! やっぱり好きだぜ玄道! 死ぬなよ!」


 冒険者たちも武器を構え、次の戦いへ備える。


 馬車は進む。


 街の灯はもう見えない。

 草原の先に、次の街の影がぼんやり浮かぶ。


 だがその道は必ずしも平和ではない。


 “異世界人”を狙う組織。

 国の裏で暗躍する影。

 そして、資料が示す“真実の歴史”。


 玄道勝利は、静かに視線を前へ向けた。


「……やることが増えてきたな。だが、悪くない」


【マスター、心拍数上昇。精神状態は安定、士気は極めて高いです】


「だから分析するなって言ってんだろ」


【でも、誇らしい気持ちなのは本当ですね】


「……うるさい」


 だが、確かに胸が熱い。


 九十年前の少年のように、冒険の高揚がある。


 そして──


 本当の戦いが始まる。

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