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なんと!今年で90歳のお爺さん60年続いたゲームに転生することになりました  作者: 暁 龍弥


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第7話「街道の罠。そして“冒険者でも盗賊でもない”者達」

 南の街道は、地図で見るより荒れていた。


 馬車の車輪が揺れ、土埃が舞い、遠くでは獣の遠吠えが木霊している。

 陽射しは強いのに、空気はどこか重い。

 “ここから先は無事では済まない”と告げられているかのような気配だ。


【マスター、周辺の反応を定期的に探知しています。今のところ魔物や大型獣は検知されません】


「ありがたいが……逆に静かすぎるな」


 俺の言葉に、クロードがうなずく。


「南の街道ってのはよ、だいたい“序盤に魔物が襲ってきて強敵が出る”って流れなんだが……今日は妙だ。魔物の気配がねぇ」


 ジャレッドも警戒の視線を前方へ向けたまま言う。


「状況が読めないのは一番危険だ。全員、気を抜くな」


 護衛達はそれぞれ武器に手を置き、周囲を睨みながら進む。


 数十分が過ぎた頃だ。

 馬車の速度が唐突に落ちた。


「どうした?」


 御者が手綱を引きしぼり、声を張り上げる。


「前方に倒木! 道を塞いでます!」


(……来たか)


 護衛達はすぐに隊列を固め、周囲の警戒を強める。


 だが――魔物の気配は依然として無い。


 俺は馬車から降り、倒木を確認しに近づく。

 幹は太く、根元から折れている。自然倒木のようにも見えるが──


 幹の切断面を指でなぞる。


(刃物の跡……しかも“魔力加工した刃”か)


 わずかに魔力が残っている。

 つまりこれは、意図的に道を塞ぐために置かれた障害物。


 ジャレッドが低く問う。


「盗賊か?」


「……いや、盗賊にしては違和感がある」


「違和感?」


「盗賊なら獲物を逃さないため、必ず《先制攻撃》を仕掛ける。倒木で道を塞いで“挟み撃ち”にするのが常套手段だ。だが攻撃がない。姿も見せない」


 クロードが腕を組む。


「じゃあ何だ? 魔物の群れでも出てくるってのか?」


「それも違う。魔物はこんな精密な切断をしない。しかも魔力刃を使うような魔物は滅多にいない」


 つまり──


(魔物でも盗賊でもない“高度な意図”を持った人間の仕事だ)


 そう考えた瞬間。


 風が変わった。


 肌に絡みつくような圧迫感。

 遠くの草原に“気配を消した視線”がいくつも向けられているのを感じる。


【マスター、周囲に十数の生命反応。魔力反応も非常に高いです。隠密スキル持ち……いや、それ以上】


 俺も同時に察知する。


(気配察知すら突破しようとしている……レベルが違う)


 護衛達はまだ気づいていない。


 “見えていない敵”は、冒険者にとって最悪だ。


「全員戦闘準備だ! 敵は魔物じゃない、人間だ!」


 俺が叫んだ瞬間だ。


 草原の左右から、黒い布のフードを纏った者達が一斉に姿を現した。


 合計十四人。

 武器は短剣・魔導書・槍・杖とバラバラ。

 盗賊のような乱雑さはなく、動きは軍人のように統率されている。


 ジャレッドが叫ぶ。


「──敵だ! 全員構えろ!」


 クロードは片手斧を構え、戦士達も盾を前に出す。

 魔法使い達は詠唱の準備を始める。


 だが敵は攻撃してこなかった。


 服装の同じフードの集団が横一列に整列し、先頭の人物が一歩出た。

 フードの奥には深い紅の瞳が潜む。


「……護衛隊に告ぐ。我々は商隊の荷物を狙っているのではない」


 低く、落ち着いた声。


「では何が目的だ?」


 ジャレッドが鋭く問う。

 先頭の人物はゆっくりと後ろへ視線を向け、そして──俺を指差した。


「“玄道勝利”を引き渡せ。抵抗すれば全員殺す」


 空気が凍った。


 護衛全員が俺を見た。

 ジャレッドの表情がわずかに強張り、クロードが歯を食いしばる。


 俺は前に出て聞く。


「理由は?」


 敵の指揮官はフードを少し上げた。

 紅い瞳がまっすぐ俺を射抜く。


「理由を話す必要はない。ただ命令を遂行するだけだ」


 その言い回しは盗賊のものではない。

 狂信者でも傭兵でもない。

 “組織の命令で動く暗部”特有の冷徹だ。


【マスター、彼らの装備・身体能力・魔力……どれも高水準。護衛隊全員を守りながら戦うのは難易度S以上です】


「ん……やっぱり“護衛依頼の本質”は“護衛側の実力試し”じゃなかったわけだ」


【おそらく最初から“あなたを狙っていた”可能性が高いです】


(だろうな。俺がギルドで注目された瞬間から、すでに見張られていた)


 敵は一斉に武器を構える。


「返事は一度だけだ──玄道勝利を渡すか?」


 ジャレッドが答えようとした瞬間、俺が先に言う。


「馬鹿言うな。俺は荷物じゃねぇ。俺は護衛の一員だ。渡す義務なんざない」


「……交渉決裂だ」


 敵の指揮官が短く呟いた。


 魔力が一斉に爆ぜる。


 詠唱の気配……矢の気配……魔力の渦……暗殺者の歩法。


 四方向からの同時殺害パターン。


 そして俺は理解した。


(俺は強くても、“守る依頼”で失敗すれば全滅する)


 ジャレッド達もただじゃ済まない。

 クロードは戦士と言えど、不意を突かれれば死ぬ。

 魔法使いたちも詠唱中を狙われるのは致命的。


 “俺が生きるため”じゃない。

 “護衛任務を成功させるため”に必要なのは──


 敵の攻撃を受ける前に、すべて制圧すること。


「全員伏せろ!!!!」


 叫ぶより先に体が動く。


 エルが指示を重ねる。


【敵魔法詠唱完成率68%! 矢射出予測3秒後! 槍突撃2秒後! 暗殺者接近0.8秒後!】


「全部把握した──任せろ」


 俺は馬車から跳躍し、空へ飛び上がった。


 敵の視線が一斉に上へ向いた瞬間。


「《創造》──『絶対防御の陣』!」


 空中に魔法陣を描き、爆発的に展開させる。


 円状の陣から光の壁が波紋のように広がり、護衛隊と馬車を瞬時に覆う。


 矢・魔法・槍・暗器・衝撃……すべて光の壁に弾かれた。


 その隙に俺は空中から敵陣地へ急降下。


「寝てろ」


 地面に拳を軽く突き立てる。


 爆発でも衝撃でもない。

 無数の“魔力痺れ”を地中に流し込み、広範囲の人体神経を一瞬だけ麻痺させた。


 十三人の影が同時に膝をつく。

 立っているのは、敵指揮官一人だけ。


 紅い瞳が、微かに動揺した。


「……やはり化物か。力の階級が違う」


「まだ抵抗するなら続けるが?」


「いや、撤退する。命令の失敗は許されるが、損耗は許されない」


 指揮官は短剣で自らの腕を切り裂いた。

 血が地面へ落ちた瞬間、術式が展開される。


 紅い霧が一気に発生し、全員の姿が掻き消され──無音のまま消失した。


【消えました……位置追跡不可です】


 俺は深く息を吐いた。


「……ただの盗賊なんかじゃないな。国規模か、宗教か、諜報機関か」


 静寂を破るように、護衛隊が立ち上がる。


 クロードが俺の肩を掴み、大声で笑う。


「ははは! とんでもねぇなお前!! 背中預けるどころか俺達全員“守りやがった”!!」


 ジャレッドも押し殺した声で言う。


「……本当に……護衛だったんだな。仲間を守るために戦った」


 冒険者達が次々と頷く。


「玄道がいなきゃ今頃全滅だった」

「ありがとう……命を救われた」

「本物だ……間違いなく“本物”の護衛だ」


 その言葉を聞きながら、ひとつだけ胸の中で確信した。


 俺はただ強いだけじゃダメだ。

 “守れる強さ”こそ、この世界を生き抜く答えだ。


 馬車は再び街道を進み始める。


 だが、敵指揮官の最後の言葉が頭に残った。


──“玄道勝利を引き渡せ。抵抗すれば殺す”──


(なぜ俺の名前と存在を知っていた? ギルドは今日登録したばかりなのに)


 違和感が膨れ上がっていく。


【マスター……敵の発言に矛盾があります】


「わかってる。俺を狙っていた“理由”がある」


 風が吹き抜けた草原で、俺は静かに目を閉じる。


 守るべきものは増えつつある。

 だが同時に、俺を狙う影は確実に広がっている。


 この先の戦いは、ただの依頼じゃ済まない。

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