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なんと!今年で90歳のお爺さん60年続いたゲームに転生することになりました  作者: 暁 龍弥


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第6話「護衛依頼開始。信用なき実力者」

 南門へ向かう途中、街の景色が徐々に変わっていく。

 中心街の賑わいは消え、倉庫や馬小屋が並び、旅支度をする冒険者や商人の声が飛び交っている。

 現実世界の物流拠点だ。人の生死が、金と品に直結する。


 門前には木製の荷馬車が三台。

 その周囲に鎧やローブを纏った冒険者達が十数人集まっていた。


 依頼内容には推奨人数3〜6と書かれていたが、実際はもっと多い。

 緊急依頼らしい緊迫感が漂っている。


(南の街道は今、“危険地帯”になっている……と)


 商隊を守るのではなく、“守り切れるかどうかが試される”依頼だ。


【マスター、参加冒険者の戦闘力を簡易計測……平均よりやや上。精鋭ではありませんが弱くもありません】


「つまり、実力はあるが死ぬ可能性も高いってことだな」


【はい】


 商隊側、そして護衛側のどちらも空気が張り詰めている。

 一歩踏み出すと、すぐに視線が集中した。


「……あいつが例の“新人Cランク”か?」


「今日登録したばかりで昇格って噂の?」


「スライムを高品質で十数体倒したらしいぞ。普通あんなことできねぇ」


「いや、やりすぎて危険人物扱いだろ……」


 ざわめきが波のように広がる。


 その中心、商隊の責任者らしき男が腕を組んでこちらを見る。

 鍛え上げられた体躯、鋭い目つき、灰色の短髪。

 ただの商人ではない。


「名は」


 一切の前置きなしの低い声。


「玄道勝利だ。今日から世話になる」


 責任者の男は数秒沈黙したあと、短く返す。


「俺は商隊隊長のジャレッド。護衛の統括も担う。……一応聞くが、本当にランクCなのか?」


「あぁ。ギルドでそう言われた」


「そういうことじゃない。“実力がCか”って聞いてんだ」


 周囲の冒険者たちの空気がさらに険しくなる。


 玄道はあくまで淡々と答える。


「実力の評価は任せる。依頼は真面目に果たすだけだ」


 その言葉に、ジャレッドは眉ひとつ動かさずさらに問う。


「仲間は? 連携スキルは? 過去の護衛経験は?」


「仲間はいない。一人だ。護衛経験もこの世界ではゼロだ。ただし──」


 玄道はジャレッドの視線を正面から受け止めた。


「“守る”ことには自信がある」


 そのひと言で、冒険者たちが一斉にざわついた。


「自信だけなら誰でも言えるだろうが!」

「護衛ってのはなぁ、火力自慢だけじゃ務まらねぇんだよ!」

「新人はすっこんでろ、足手まといになるだけだ!」


 暴言が飛び交う。緊張が爆発寸前まで高まる。


 だが玄道は揺るがない。

 反論も怒号もなく、ただ静かに状況を観察している。


【マスター、反感指数が急上昇。衝突が起きる可能性97%】


「そりゃ望ましい状況じゃないな」


 タイミングを測り言葉を選ぶ。


「俺はお前らの足を引っ張るつもりはない。役に立つ。だが、必要以上に前に出る気もない。指揮系統はジャレッドに従う。それでどうだ?」


 言い切ると、ジャレッドは初めて表情を変える。

 驚きではなく、興味だ。


「……自分が最強だと喚き散らすタイプではない、か」


「最強かどうかはどうでもいい。依頼を成功させて生きて帰れりゃそれでいい」


 その一言は、玄道の本気の本音。

 虚勢でも誇張でもなく、“現実世界で生き残るため”の思考だ。


 冒険者たちの怒りが少し和らぎ、代わりに困惑が生まれる。


 だが──空気を敵対に戻す者が一人いた。


 重装鎧の大男がズカズカと歩み寄ってきた。

 身長2メートル近い巨体、顔には無数の傷。

 ワイルドさではなく“攻撃性”を塊にしたような男だ。


「俺はギルドランクB、クロードだ。力でのし上がってきた。こういう“急成長野郎”が大嫌いなんだよ」


(来たな、“力ずくで順位を決めるタイプ”)


 クロードが玄道を睨みつける。


「この依頼は命懸けだ。足引っ張る奴は殺されて当然の世界だ。だからよ──お前の実力、ここで証明しろ」


 挑発ではなく、本気の確認。

 仲間を守るため“弱い奴はいらない”という考えだ。


 周囲の冒険者たちが息をのむ。


 玄道は深く息を吐き、肩を落とす。


「証明しろって……どうすりゃいい?」


「──俺を倒してみせろ」


 静まり返る空気。


 みんなが悟った。

 

 これは半端な戦いでは終わらない。


 ジャレッドが止めようと口を開く。


「待てクロード、ここで揉めれば──」


「ジャレッド、俺の役割は“挑発”じゃねえ。“選別”だ。弱い奴を入れたら商隊の全滅に繋がる」


 それは正しい。

 残酷だが、護衛依頼という現実において間違っていない。


「方法は問わねえ。素手でも武器でも魔法でもいい。俺を倒せりゃ認めてやる。倒せなきゃ帰れ」


 クロードは両腕を広げ、無防備な姿勢で立つ。


「正面から来い。背中から殴ったら殺す」


 玄道は一度だけ空を仰いだ。


(……面倒くせぇ)


 だが“証明”は最短で済ませるべきだ。


 玄道は前へ歩く。

 誰もが次の瞬間を固唾を飲んで見守っている。


 剣も魔法も使わない。

 姿勢も変えない。

 ただ、クロードの目の前まで歩く。


 クロードは鼻で笑う。


「武器も構えねぇのか? 終わったな──」


「始まってすらいない」


 玄道は 足元の石畳を“軽く踏んだだけ” だった。


 空気が爆ぜた。


 小石が跳ね、土埃が舞い、衝撃波がクロードの体を真横から吹き飛ばす。


 重装甲の巨体が、木箱・樽・荷袋をなぎ倒しながら十数メートル転がった。


 だが──鎧はひとつも壊れていない。骨も砕いていない。

 正確に“吹き飛ばしただけ”。


 クロードは壁に背中を打ち付け停止する。

 数秒の沈黙の後、笑い声が爆発した。


「……っは、はは……! いいぜ……! 完敗だ……!」


 踏みつけられたプライドではなく、強者を認めた笑み。

 クロードは立ち上がり、玄道の肩を掴む。


「よくやった。手加減が化け物じみてる。お前なら背中預けられる」


 大男のその言葉は想像以上に大きな影響を与えた。


 硬直していた冒険者達が、一斉に評価を覆す。


「クロードが認めた……!?」

「じゃあ実力は本物だ」

「心配しすぎだったみたいだな」

「頼りになる奴が増えるのは歓迎だ」


 敵意も緊張も、音を立てて崩れた。


 ジャレッドが前に進み出る。


「……実力、しかと見た。玄道勝利──護衛隊へ正式に迎える」


 握手を差し出してくる。


「あぁ、よろしく頼む」


 手を取った瞬間、戦う前の空気とは完全に違うものが生まれていた。


 敵ではなく仲間。

 信用ではなく信頼の芽。


「全員乗れ! 出発だ!」


 ジャレッドの声で冒険者達が馬車に乗り込む。

 クロードは隣に座り、豪快に笑う。


「お前がいてくれるなら安心だ! 今日は俺、死ぬ気が起きねぇ!」


「勝手に死ぬなよ。護衛の意味がなくなる」


「はっは! その冗談いいな! 好きだぜ玄道!」


【マスター、評価指数の大幅上昇を確認。人間関係の構築、極めて順調です】


「ああ……わかってる。こういうの、悪くないもんだな」


 荷馬車が軋む音とともに、街の門が開かれる。


 南の街道──危険地帯。

 魔物、盗賊、さらには“人外”まで現れると噂される地。


 風が強く吹き、草木がざわめく。


 玄道勝利は、新たな戦場へ足を踏み入れた。

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