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なんと!今年で90歳のお爺さん60年続いたゲームに転生することになりました  作者: 暁 龍弥


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第5話「依頼達成と、揺らぎ始める評価」

 ギルドの建物が見えてきた。

 スライムの魔石がずっしり入った革袋を肩にかけ、俺は入口の重厚な扉を押し開ける。


 中は相変わらず騒がしい。

 昼間にも関わらず飲んだくれている連中、カード賭博に熱中する連中、依頼人と交渉している冒険者……混沌そのものだ。


 ただ、一つ前と違っていることがある。


(……視線が増えたな)


 俺が入った瞬間、酒杯を止めた者は二十人以上。

 武器の柄に手をかける者も数名。

 “新人が大勢のチンピラを瞬殺した”という噂は完全に広まっている。


 冒険者たちの視線には、恐れだけでも羨望だけでもない。

 “強い者を評価し、同時に警戒する”ハンター特有の目だ。


 その空気を無視して受付へ向かう。


 さっき応対してくれた女性職員が、緊張が走った表情で立ち上がった。


「お、お帰りなさい! ……ま、まだ昼ですが、もしかして……」


「あぁ。《森のスライム討伐》達成だ」


 革袋をカウンターへ静かに置く。

 女性職員が袋を開き、中を確認した瞬間、目を大きく見開いた。


「こ、こんなに……しかも魔石の状態がとても良い……! 破損や溶解は一つもありません……」


「損害の出る倒し方はしてないからな」


 まるで宝石を扱うように魔石を慎重に取り出し、魔力測定器にかけていく。

 ひとつひとつ判定するたびに、女性の表情が驚愕へ変わっていく。


「討伐数、規定を大幅に上回っています……品質も全て〈一級〉……!」


 周りの冒険者たちがざわつき始めた。


「スライムを一級品質で回収?狂ってやがる……」

「普通なら酸で溶けるか、爆発するか、魔石が濁るんだぞ……」

「“新人”のやることじゃねえ」

「いや討伐数が異常だろ……袋一つじゃ収まってねえじゃねえか?」


 ひそひそ声が大きなうねりとなり、場の雰囲気が一変していく。


(良くも悪くも注目を浴びすぎだな……だが隠す理由もない)


 やがて女性職員が改めてカードを携え戻ってきた。


「玄道勝利様──依頼達成を確認しました!報酬として銅貨20枚と、追加報酬の銅貨10枚……それに品質が高すぎるため〈ボーナス〉として銀貨3枚が支給されます」


「銀貨3枚? ずいぶん太っ腹だな」


「通常ではありえません。魔石が一級で揃うことなどまず無いので……ギルドとしても評価せざるを得ません」


 女性職員はカードを両手で差し出した。


「──冒険者ランクを“F”から“C”へ昇格します」


 ギルド中が息を飲む音がした。


「C……? は? 今日登録したばっかだろ」

「まだ依頼一回目だぞ!?」

「ありえねぇ……」

「規格外すぎだ……」


 冒険者たちのざわめきがさらに大きくなる。


 女性職員は真剣な目つきで俺を見る。


「玄道様。おめでとうございます……ですが、注意もあります」


「聞こう」


「この速度で昇格すると──あなたを“排除しようとする者”と、“利用しようとする者”が必ず現れます。お気をつけください」


 その声には心配が滲んでいた。


(優しいやつだな……だがその懸念は当然だ)


 圧倒的強者は、構造上“敵”を生みやすい。

 自分が上に立つだけで、妬む者・利用する者・恐れる者が増える。


 それはゲームでも、現実でも、そしてこの異世界でも変わらない。


「忠告感謝する。覚えておくよ」


 俺はカードを受け取った。


《冒険者ランク:C》


 文字が刻まれた瞬間──ギルドの空気が決定的に変わった。


 酒杯を置き、距離を詰めてくる者。

 仲間に目配せをして警戒体制に入る者。

 俺を観察しようと目を凝らす者。


【マスター、殺気が高まっています。距離8・6・4メートル、三方向から接近──】


(わかってる)


 武器にはまだ手を伸ばさない。

 無用な戦闘を避けるためなら言葉での牽制も必要だ。


 静かに振り返り、一言。


「俺は喧嘩を売らない。だが買ったら返す。以上だ」


 ただそれだけ。


 だが──それで十分だった。


 圧迫でも威嚇でもなく、淡々とした事実の宣告。

 冒険者達は三歩ほど後退し、殺気が霧散した。


(ここは“殺伐”でも“友情”でもなく、実力の世界だ。虚勢はすぐに剥がれる。必要なのは本物だけ)


 受付の女性が安堵の表情で囁く。


「……本当に強いんですね。見ていてわかります」


「強いだけじゃダメなんだろうけどな」


「え?」


「生き残るのに必要なのは強さだけじゃない。“見極め”だ」


 女性は少し考えるように目を伏せたあと、小さく頷いた。


「──次の依頼、紹介できますが……挑戦しますか?」


 俺は迷いなく言う。


「もちろんだ。街で生きるための土台は早めに作る」


「では……適正を考えて、この依頼がおすすめです」


 差し出された依頼書には大きな文字で書かれていた。


─────────────

◆緊急依頼《南の街道の護衛任務》

・輸送商隊が魔物の襲撃を受けています

・依頼ランク:B

・推奨人数:3〜6

・危険度:高い

─────────────


「依頼ランクB……Cの俺が受けられるのか?」


「普通は無理です……ですがあなたなら、という評価が上から」


(つまり、早速ギルドの上層に“目をつけられた”ということだ)


 女性職員が真剣な目で続ける。


「倒すことだけが目的ではありません。護衛は失敗=死者が出る可能性があります。戦闘力だけでなく判断力も必要です」


「わかってる。だが選択肢は他にない」


 名声が広がる=利用価値と危険性が同時に上がる。

 ならば評価を“実績”へ変えて固定化するしかない。


 ここがターニングポイントになる。


「引き受ける」


 依頼書を持った瞬間──ギルド中が再びざわついた。


「BランクをCになったばっかの新人が受けたぞ!?」

「死ぬぞあいつ!」

「いや……ひょっとしたら本物かもしれん」


 評価、懐疑、恐怖、希望──全部ひっくるめて俺の背中へ降り注ぐ。


 それでいい。

 俺はただ、やるべきことをやる。


「南の街道へ向かう商隊はあと一時間で出発します。集合場所は街の南門です。どうか……気をつけて」


「あぁ。ありがとう」


 ギルドを出ようとしたとき──受付の女性が小さく呼び止めた。


「あの……」


「ん?」


「どうか……無事で戻ってきてください。あなたみたいな人が死んでしまうのは、嫌です」


 その言葉は冗談でも営業でもなく、本心だった。


(……守りてぇと思わせる顔だな)


「約束するよ。必ず戻る」


 扉を押し開ける。


【マスター、心拍数が上がっています】


「黙ってろエル、分析すんな」


【はいマスター(でもちょっと嬉しそうですね)】


「うるさい」


 南門へ向かって歩きながら、思考を整理する。


 スライム討伐は単なる始まり。

 次は“護衛任務”──仲間を守る必要がある。

 そして失敗は死に直結する。


(面白くなってきたじゃねぇか)


 九十年の人生でも得られなかった“生の高揚感”が、今ここにある。


 玄道勝利、異世界転生後の最初の大仕事へ出陣。

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