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なんと!今年で90歳のお爺さん60年続いたゲームに転生することになりました  作者: 暁 龍弥


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第23話「神がいない世界で、最初に起きたこと」

 神殿が消えてから、十日。


 世界は、驚くほど静かだった。


 空は落ちてこない。

 大地は割れない。

 魔物が急に暴走することもない。


 人々は噂する。


「神が消えたって? そんなはずないだろ」

「どうせ王族の陰謀だ」

「神様なんて、元から見たことないしな」


 ――それが現実だ。


 神がいなくなっても、

 世界は“だいたい今まで通り”続いていく。


「……拍子抜けですね」


 サリオが、街道を歩きながら言った。


 俺たちは今、国境を越えた先の交易路にいた。

 護衛のいない商隊が普通に通り、

 子供が石を蹴りながら走っている。


「世界が救われた実感、あんまりありません」


「実感なんて、そんなもんだ」


 俺は杖代わりの木の枝を突きながら言う。


「本当に世界が壊れそうな時ほど、

 終わった後は“何も変わらない”」


 アンシュラが周囲を警戒しつつ、低く言った。


「……だが、違和感はある」


「ほう」


「空気が……薄い。

 魔力の流れが、少しだけ不安定だ」


 マールが足を止めた。


「……それは……

 “世界の自動修復機構”が、止まったからです……」


 サリオが振り向く。


「自動修復……?」


「はい。

 神がいた頃は……

 大きな歪みは、無意識に修正されていました……

 干ばつ、魔力暴走、概念の偏り……」


 マールは、申し訳なさそうに続ける。


「でも今は……

 世界は“人の手”でしか、直せません……」


「つまり?」


 アンシュラが問いかける。


「小さな異常は……

 そのまま積み重なる……ということです……」


 その瞬間だった。


 街道の先から、悲鳴が聞こえた。


「――た、助けてくれ!!」


 商人の一団が、立ち往生している。

 荷馬車の周囲で、空気が歪んでいた。


 いや、正確には――

 “空間が擦り切れている”。


「……あれは……」


 俺は目を細める。


「“綻び”だな」


 サリオが慌てて詠唱する。


「魔法反応、異常です!

 魔物じゃない……現象そのものが敵……!」


 空間が裂け、

 そこから“形の定まらない何か”が滲み出す。


 影のようで、光のようで、

 近づくと頭が痛くなる。


【解析結果:

 世界歪曲現象《空隙種ギャップ

 発生原因:局地的因果不整合】


 エルの声が、久しぶりに明確な警告を出した。


「神のいない世界で……

 最初に生まれた“病気”か」


 アンシュラが剣を構える。


「斬れるのか?」


「いや」


 俺は前に出る。


「これは“敵”じゃない。

 世界の傷口だ」


 マールが小さく息を呑んだ。


「……私……

 昔なら……

 触れるだけで……治せました……」


「今は?」


「……今は……

 “考えて、直す”しかありません……」


 俺は頷いた。


「十分だ」


 拳を握る。


「創造《因果縫合・局地安定》」


 直接壊さない。

 引き裂かれた空間同士を、

 “本来あるべき形”に縫い合わせる。


 光が走り、

 空隙がゆっくりと閉じていく。


 だが――

 完全ではない。


 サリオが気づく。


「……閉じる速度が……遅い……!」


「人の力だけじゃ、こうなる」


 俺は歯を食いしばる。


「だから――」


 マールが、一歩前に出た。


「……私も……やります……!」


 彼女は目を閉じ、

 深く息を吸う。


「……神じゃなくても……

 “世界を知っている者”として……!」


 彼女の手が、空間に触れた。


 眩しい光はない。

 奇跡もない。


 ただ、

 丁寧で、不器用で、真剣な修復。


 数分後。


 空隙は、完全に消えた。


 商人たちは呆然としている。


「……な、何が……?」


「気にするな」


 俺は笑って言った。


「世界が、ちょっと咳をしただけだ」


 その場を離れた後、

 サリオが言った。


「……これが……

 神のいない世界……」


「ああ」


 俺は頷く。


「これから、こういう“面倒事”が増える」


 アンシュラが静かに言う。


「……俺たちの出番、だな」


 マールは、小さく拳を握った。


「……私……

 逃げなくてよかった……」


 俺は、歩き出しながら言った。


「逃げ場なんて、最初からなかったんだ。

 世界は続く。

 だから――」


 振り返り、三人を見る。


「直しながら、生きる。

 それでいい」


 夕日が、街道を赤く染める。


 神のいない世界は、

 不完全で、危うくて、

 だが――


 確かに、生きていた。

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