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なんと!今年で90歳のお爺さん60年続いたゲームに転生することになりました  作者: 暁 龍弥


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第19話「影路へ──王都潜入と、破壊神の囁き」

 帝国潜入は、戦争より静かで、戦争より怖い。


 剣を握っている時より、

 “笑って通行証を見せる時”の方が、よほど心臓がうるさい。


 夜明け前。

 俺たちは王都ヴァルトルナの外縁、交易路を見下ろす小高い丘に伏せていた。


 城壁は高く、黒い石で組まれ、ところどころに赤い魔力灯が灯っている。

 門は二重、検問は三段。

 そこに並ぶのは武装兵と、魔導検査官。


「……厳戒態勢だ。俺が裏切ったせいもある」


 アンシュラが唇を噛む。


「それに、破壊神の欠片を運用してる国だ。警戒が甘いわけがない」


 サリオが小さな声で言う。


「玄道さん、正面突破は無理ですよね……」


「正面突破は“最後の手段”だ。

 俺はできるだけ、国民を巻き込みたくない」


 ここはゲームじゃない。

 この門の向こうには、兵士だけじゃなく普通の民が暮らしている。


(救うために来たんだ。殺すためじゃない)


 俺は息を吐き、エルに問いかける。


「エル、王都に“影路”はあるか?」


【存在します。地下排水路・古代回廊・死都の遺跡連結部。

 侵入可能確率:64%

 ただし、警戒結界あり。反応すると“帝国神殿騎士団”が来ます】


「神殿騎士団……厄介そうだな」


【非常に厄介です】


 アンシュラが目を細めた。


「……神殿騎士団は皇族直属。

 破壊神の欠片計画の“護衛”も担ってる」


 つまり、そこに近づけば“神核”へも近づく。


「行くぞ。影路から入る」


 サリオが頷く。


「了解です。支援、準備します!」


 アンシュラは少しだけ笑って言った。


「……潜入の基本は、静かに、速く、痕跡を残さない。

 昔の俺なら得意だったんだがな。

 ……今は、仲間ができた分だけ難しく感じる」


「仲間ができたのは弱点じゃない」


 俺は言う。


「“帰る理由”ができたってことだ」


 アンシュラは目を伏せたが、もう迷いの匂いは薄かった。


◇ ◇ ◇


 影路の入口は、城壁から少し離れた古い排水溝の奥にあった。


 草に埋もれた石蓋。

 そこから微かに冷たい風が吹き上がってくる。


 サリオが小声で詠唱する。


「創造《気配隠匿・薄幕ヴェール》」


 空気が一枚薄い布になるように、俺たちの気配を包む。

 耳鳴りのように魔力が静かに馴染んでいく。


「よし」


 俺は石蓋を持ち上げ、地下へ降りた。


 湿った石の匂い。

 水の滴る音。

 遠くに響く金属の反響。


 地下回廊は古く、そして広い。

 帝国が建国するより前の遺構だろう。


 エルが即座に地図を投影する。


【この先、三分岐。右が排水路、中央が古代回廊、左が封印区画。

 神核の反応は──左方向】


「封印区画……そこか」


 アンシュラが眉を寄せる。


「左は危険だ。昔、俺が案内された時も近づくなと言われた。

 “開けたら戻れない”場所だ」


 サリオがゴクリと唾を飲む。


「でも、そこに神核が……」


「行くしかない」


 俺は歩き出した。


 湿った床を踏む音が、小さく響く。

 ここは戦場じゃない。音ひとつが命取りだ。


 だが、しばらく進んだところで異変が起きた。


 壁の紋様が、ゆっくりと“動いた”。


 蛇のような影が、石に浮かび上がり、こちらを覗き込む。


【警告:結界反応。帝国の監視術式が起動しました】


「チッ……」


 俺は即座に創造する。


「創造《監視眼の偽装・眠り》」


 術式に“これはただの水の流れだ”と錯覚させる。

 だが──


 影が笑った。


 声が、直接脳に響く。


――創造は、壊れる。

――救うは、壊れる。

――玄道勝利、壊れろ。


 サリオが震えた。


「……今の、聞こえました?」


「聞こえた。破壊神の残滓だ」


 アンシュラが苦しそうに額を押さえる。


「……あいつだ……

 俺の頭をずっと壊してきた声……」


 俺は二人の肩に手を置く。


「無視しろ。

 あいつは“命令”で人を壊す。

 だが命令には穴がある。

 ──俺たちが“選ぶ”限り、命令は絶対じゃない」


 サリオが小さく頷いた。


「……はい。僕は、玄道さんと一緒に救います」


 アンシュラも息を整え、震えを止める。


「……俺もだ。壊す側じゃない」


 その時だった。


 回廊の先、暗闇の中に“足音”が響いた。


 カツ、カツ、カツ。


 鎧の音。

 規律の音。


 静かで、揃っている。

 精鋭の足音だ。


 次の瞬間、赤い魔力灯がいくつも点灯し、地下回廊が昼のように明るくなった。


 そして現れたのは、銀の兜を被った騎士たち。


 胸の紋章は帝国王家。

 背に刻まれるのは黒い神殿印。


「侵入者確認」


 騎士たちの先頭に立つ女が兜を外した。


 白金の髪を短く束ね、片目だけに黒い刺青。

 鋭い視線。


「神殿騎士団長、リュシア・アル=ヴァルトルナ。

 ここから先は皇族の領域だ。

 ──名を名乗れ、侵入者」


 アンシュラの顔が凍りつく。


「……リュシア……姉さん……?」


 サリオが小さく息を呑んだ。


「姉……?」


 リュシアはアンシュラを見て、表情を変えなかった。


「アンシュラ。生きていたのか。

 ……裏切り者がこの地を踏むとは、随分と恥知らずだな」


 アンシュラが震える声で言う。


「姉さん……俺は……兵器じゃないって、気づいたんだ……

 だから戻って──」


「戻る? 戻る場所などない。

 お前は皇族に刃を向け、帝国の計画を壊し、そして敵側に立った。

 その時点でお前は“帝国の敵”だ」


 リュシアが剣を抜く。


 その剣は普通の剣じゃない。

 刃の周囲が“欠けた黒い光”をまとっている。


(破壊神の力を“武器にしてる”)


 俺は一歩前に出る。


「リュシア。俺は玄道勝利。

 目的は戦争じゃない。

 神核を回収し、破壊神の残滓を止める」


「その口ぶり……“創造神の寵愛持ち”か」


 リュシアの目が細くなる。


「ならばなおさら通せない。

 皇子ジークの命令だ。

 創造神の寵愛持ちは“帝国の未来を壊す”。

 見つけ次第、拘束せよ」


 俺はため息を吐いた。


「拘束って言葉、便利だな」


 サリオが俺の横で魔力を整える。


「玄道さん、戦いますか?」


「戦う。だが──殺さない」


 アンシュラが歯を噛みしめた。


「……姉さんと戦うのは嫌だ……でも、止まれない……」


「止める方法はある。

 “勝って、通る”だけだ」


 俺は刀を抜かず、拳を握った。


「来い。

 神殿騎士団長が相手なら、ちょうどいい」


 リュシアは冷たく言う。


「九十歳の老人が、神殿騎士団を相手にするというのか」


「九十年、負け続けたことがない。

 ゲームでも、人生でもな」


 俺は踏み込む。


 瞬間、リュシアの剣が閃いた。


 黒い欠光が空間を裂く。

 当たれば“斬る”のではなく“存在を壊す”類い。


 だが俺は、拳一つで受ける。


「――創造《存在補強・スケルトン》」


 自分の骨格の“存在強度”を一段上げる。

 剣が触れた瞬間、黒い光が弾かれた。


「……なに?」


 リュシアの瞳が揺れる。


「壊す力には、壊されない“土台”が必要だ。

 お前の剣は強い。だが、壊すことしかできない」


 俺は間合いに入る。


「守れない剣は──必ず負ける」


 掌底が、リュシアの鎧の隙間へ吸い込まれるように入った。


 衝撃は最小。

 狙いは神経。


 リュシアの腕が痺れ、剣が落ちた。


「ッ……!」


 だが彼女はすぐに後退し、騎士団へ命令する。


「包囲! 結界展開! 侵入者を分断しろ!」


 騎士たちが一斉に魔法陣を展開。

 地下回廊が“格子状の障壁”で区切られ、俺たちが分断されかける。


「サリオ!」


「はいっ!」


 サリオが即座に支援をかける。


「創造《結界見切り(シースルー)》!

 障壁の“脆い点”が見えます! 玄道さん、左上です!」


「アンシュラ!」


「任せろ!」


 アンシュラの影が伸び、障壁の結び目を“縫いほどく”ように切る。


「創造《影断シャドウ・リムーブ》!」


 障壁が崩れる。


 その瞬間──リュシアの背後の空間が、黒く歪んだ。


 そこから聞こえたのは、笑い声。


「いいねぇ。いいねぇ。

 やっぱり“創造の寵愛持ち”は面白い」


 男の声。

 軽く、愉快で、しかし底が冷たい。


 歪みから姿を現したのは、黒い外套を纏った細身の男だった。

 仮面をつけ、片手に黒い水晶。


 エルが即座に警告する。


【警告:対象は“破壊神の残滓”と高い同調率。

 識別名:不明。危険度:極】


 男が言った。


「僕は帝国の“神官”だよ。

 神殿騎士団長リュシアの監視役。

 そして──破壊神の声を“翻訳”する者」


 アンシュラが血の気を失う。


「……お前……俺の頭に命令を流し込んでた奴……!」


 神官は楽しそうに笑った。


「そうそう。君、いい反応するよね。

 心が折れる音がとても綺麗だった」


 サリオが怒りを露わにする。


「……人の心を何だと思ってるんですか!」


「道具だよ。

 兵器だよ。

 世界を作る素材だよ」


 神官が水晶を掲げる。


「そして今──君たち三人は、最高の素材だ」


 黒い水晶が脈打つ。

 地下回廊の壁が泣くように軋み、黒い影が増殖する。


 リュシアですら顔色を変えた。


「神官、ここは戦闘許可区域ではない。

 皇族の領域で勝手な儀式を──」


「黙って。

 君は剣を振っていればいい。

 世界は僕が“壊して作り直す”」


 その言葉と同時、俺の脳内に“あの声”が響いた。


――玄道勝利。

――お前の中の神核を、よこせ。

――創造を壊し、世界を終わらせろ。


 マールの声に似ている。

 だが似ているだけ。

 冷たく、空っぽで、命令しかない。


(破壊神の残滓……本体が近いな)


 俺は一歩前へ出る。


「神官。名前は?」


「名前? あぁ……そういうの好きなんだ。

 じゃあ名乗ろうか」


 仮面の男が微笑んだ。


「僕は ネヴァン。

 破壊神ダゼル=ノアの“代弁者”だよ」


 アンシュラが震える声で言う。


「代弁者……そんなの……」


「あるさ。神は言葉を持たない。

 だから僕が言葉を与える。

 君たちが神を止めたいなら──僕を倒さないと無理だ」


 ネヴァンが指を鳴らすと、騎士団の後方が黒い影に呑まれ始めた。


 兵士の悲鳴。

 肉体が壊され、存在が削られる感覚。

 ここはもう潜入じゃない。戦争だ。


「クソ……!」


 ラディンがいない。

 リエラもいない。

 ここで頼れるのは俺たち三人だけ。


 俺は深く息を吸った。


「サリオ、アンシュラ。

 ここから先は──“殺さない”とか言ってる余裕はなくなるかもしれん」


 サリオが震える声で、それでも言った。


「……でも、僕は救います。

 誰かを壊すためじゃなく、壊させないために戦います」


 アンシュラも頷く。


「……俺も。

 壊す力は持ってる。

 だがそれを“壊すため”に使うのはもう嫌だ」


 俺は笑った。


「よし。じゃあ、やることは一つだ」


 拳を握り、宣言する。


「この帝国の地下で、

 破壊神の代弁者をぶちのめして、

 神核を奪って、

 世界を救う道をこじ開ける。」


 ネヴァンが楽しそうに拍手した。


「最高。

 ……さぁ、見せてよ。“創造神の心臓を持つ老人”。

 君が壊れる瞬間を。」


 黒い影が俺たちへ襲いかかる。


 そして戦場は、帝国の地下深くで静かに燃え上がった。


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