第17話「寵愛の激突──神の欠片を持つ者たち」
国境線──焦げた大地を踏みしめ、三人の寵愛持ちが前へ出る。
俺、玄道勝利。
サリオ。
アンシュラ。
そして対峙するは、帝国第三皇子ジークと、禍々しい寵愛持ち。
風が唸り、戦場の空気が張り詰める。
ジークの背後に立つ影が、一歩、前に出た。
白い髪。黒い瞳。皮膚は灰に近い冷たい色。
人間というより“人の形をした何か”。
サリオが震える声で呟く。
「……あれ……生きてるの……?」
「いや──“生かされている”だろうな」
彼の胸には黒い紋章。
マールが持つ“創造の波長”とは真逆の、破壊の波長が流れている。
ジークが満足げに言う。
「紹介しよう。我が帝国が独自に造り上げた寵愛持ち──
**《破壊神の欠片》、名は“ゼオル”**だ」
「破壊神……?」
リエラが後ろで息を呑む。
「そんな神話……残ってないわ。創造神マール以外の神なんて……」
「残っていない?
それは“都合よく消された”というだけだ。」
ジークが笑いながら続ける。
「創造神がいるなら、対となる存在がいるのは当然だろう?
だが王国はその記録を封じた。
“破壊の権能は危険すぎる”とな。」
「……あぁ、なるほどな」
俺は刀の柄を握り直す。
「だからお前は“自前で神を作った”のか」
「正確には“神の欠片”だ。
創造神の寵愛が“創り出す力”なら、破壊神の欠片は“壊すだけの力”。
命令も思考も要らぬ。
ただ破壊するためだけに存在する兵器だ。」
アンシュラが歯を噛みしめる。
「……お前……だから俺を“兵器”って呼んでたのか。
あれの前段階……試作品が俺達だったってわけか……」
「そうだとも。
そして完成した“ゼオル”は、お前とは違い、裏切らない。」
ゼオルが無言で首を傾けると──
地面が波打つようにひび割れた。
魔力圧が重い。
ただ立ってるだけで、周囲の空間に耐圧が走るタイプ。
(チートにも種類はある。
俺は“創る”側。
こいつは“壊す”側。
……悪いが、噛み合いの悪さなら俺の方が上だぞ)
ラディンが叫ぶ。
「玄道、来るぞ!!」
瞬間、ゼオルが消えた。
いや──速すぎて“存在が薄れた”だけ。
「後ろ!!」
サリオの叫び。
振り向くより早く、俺の背に黒い腕が迫る。
ゼオルの腕が触れた瞬間、
空間そのものが崩壊し始めた。
「空間破壊か……厄介だな」
俺は即座に創造する。
「――創造《空間補正・織》!」
黒い穴が広がる前に、織物のような魔力線で塞ぐ。
ゼオルは無言で攻撃の方向を変えるが……
「遅い」
アンシュラが影の鎖を伸ばし、ゼオルの足を絡め取る。
「創造《影縫い》!!」
だがその影が触れた瞬間──
影が“破壊されて消えた”。
「……え?」
アンシュラの顔が引きつる。
「影が……殺された……?」
ゼオルの拳がアンシュラに迫る。
「危ねぇ!!」
俺は無意識に飛び込み、間に割り込み刀で受ける。
金属が砕けるような重圧。
刀身が悲鳴を上げた。
(これ……生半可な武器じゃ持たねぇな)
ゼオルは無表情のまま、俺を見つめる。
「……玄道……」
感情はゼロ。
あるのは、“殺す”という命令だけ。
「サリオ!!」
「はい!!」
サリオの魔力が展開し、俺の身体に光が宿る。
「創造《超反応加速》!!
身体能力30%アップ! 思考速度20%上昇!」
「助かる!」
ゼオルの腕を弾くと同時、俺は踏み込む。
だがゼオルの反応も速い。
まるで“先を読んでいる”ような動き。
ジークが嘲笑する。
「無駄だぞ。
ゼオルは“相手の攻撃意図”を破壊する。
貴様の攻撃は届かぬ。」
「意図を破壊……?」
サリオが眉をひそめる。
「それ、予知じゃない!!
未来の“行動の形”を感じて、それを破壊してるだけ!!」
(未来予知じゃない……
俺の“攻撃の構造そのもの”を殺してるってわけか)
攻撃を仕掛ける前から、壊されてる。
(だが──壊せない攻撃もある)
俺は刀を握り、ふっと力を抜いた。
「玄道さん……?」
「アンシュラ」
「……あぁ、わかってる。
“壊されない攻撃”──“存在しない攻撃”だろ?」
「頼む」
アンシュラが笑った。
俺は深呼吸し──
攻撃の意図を完全に“空”にした。
構えも、意識も、方向性も持たない。
ただ歩く。
ただ近づく。
攻撃としての意味がゼロの動き。
ゼオルは反応しない。
サリオが息を呑む。
「これ……ゼオルが壊せない……!」
アンシュラの影がゼオルの背後から伸びた。
「創造《影写し(コピー)》──!」
ゼオルの影を複製し、床にはりつける。
ゼオルが初めて動きを止めた。
「……ッ」
その一瞬。
「そこだ!!」
俺は刀を構えず、ただ拳を作り──
最短の距離で、最小限の動きで、最強の一点を打ち抜いた。
「武術・九十年式(勝利さんver)……
《無意識反射撃ち(ノーインテンション・ブロウ)》!!」
ゼオルの身体が鈍く揺れた。
表情も声もない。
だが明らかに、内部の魔力構造が乱れた。
サリオがすかさず補助魔法を撃つ。
「玄道さんの攻撃に合わせて──
創造《破壊構造固定》!!
ゼオルの魔力構造、3秒間だけ固定します!!」
アンシュラが叫ぶ。
「その3秒で決めるぞ玄道!!」
「言われなくても!!」
俺は刀を振り上げ──創造を重ねた。
「創造《刀身再構築・神鋼化》!!
さらに──創造《理断》!!」
刀は光を吸い込み、世界の“因果そのもの”を断つ輝きに変わる。
時間が止まったように見えた。
ゼオルの身体が、攻撃意図を感知する暇もなく固定されている。
「──終わりだ」
振り下ろした。
黒い波動が割れ、世界が震えるような音が響いた。
ゼオルの胸の紋章が砕け──
彼の身体は膝をつき、地面へ倒れ伏した。
戦場に静寂が訪れる。
ジークの表情が一変し、怒りと恐怖が混ざる。
「……馬鹿な。
破壊神の欠片が……倒された……?
寵愛を三つ束ねただけで、そこまで……?」
アンシュラがジークを睨みつける。
「ジーク様。
もうその“正義”……通用しませんよ。」
サリオが前に出て、声を張る。
「帝国の兵士さんたち!!
もう戦う必要なんてない!!
あなたたちは“騙されていた”だけなんだ!!」
帝国兵たちがざわつく。
破壊神の欠片が倒れた光景が、彼らの士気を根こそぎ奪っている。
俺は刀を下ろし、ゆっくりと告げた。
「ここで退け。
これ以上戦えば、お前たちも国も、本当の意味で救われなくなる。」
ジークは一度だけ歯を食いしばったが──
やがて冷静さを取り戻し、宣言する。
「……よかろう。
今日のところは退く。
だが忘れるな玄道勝利。
これはまだ“序章”だ。帝国はこれで止まらぬ。」
「だったら次も叩き潰すだけだ。」
ジークは笑った。
「楽しみにしているぞ、老人。」
黒い転移陣が足元に浮かび、帝国軍は撤退していった。
◇ ◇ ◇
大地に残されたのは俺たち三人と、倒れたゼオル。
アンシュラがゼオルの傍に膝をつく。
「……こいつ、どうするんだ?」
「殺さない。」
俺は即答した。
「こいつも兵器じゃない。
“壊すために造られただけの哀れな存在”だ。
助けられるなら、助ける。」
「玄道さん……優しすぎますよ……」
「九十年生きてりゃ、色んなやつを見てきた。
壊したい奴より──救われたい奴の方が多いんだよ。」
アンシュラはゆっくり頷いた。
「……俺達、三人で……救っていけるかな」
「いけるさ。
世界が壊れる理由は全部、ぶっ壊してやる。」
サリオが嬉しそうに笑った。
「じゃあ、次は……“帝国に乗り込む”番ですね!」
「そうだ。
黒幕の正体も、マールの命令が壊れている理由も……
全部“帝国の奥”にある。」
俺は空を見上げる。
雲の向こうに、見えない糸がゆらゆらと揺れている気がした。
(マール様……
お前が泣いてた理由、全部突き止めてやる。
世界を救うだけじゃ足りねぇ。
“神様”も──救ってやる。)
「さぁ──行くぞ、寵愛三人衆。」
三人の足音が、焦げた大地を踏みしめる。




