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なんと!今年で90歳のお爺さん60年続いたゲームに転生することになりました  作者: 暁 龍弥


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第14話 「三つ巴の乱戦──檻を壊すのは拳か、意志か」

 警報が鳴り響き、研究所のあちこちで光が明滅する。


――《中央裁定院より通達! 玄道勝利を即時再拘束! 抵抗時は殲滅を許可!!》


 その放送が終わるのと同時、廊下へ複数の転移光が降り注ぐ。

 黒鎧の部隊が浮かび上がった。


 中央直属の対異能殲滅部隊──

 王国の戦力の中で“最強、最悪、最も言い訳できない暴力”。


 冷たい声で宣告する。


「これより作戦を開始する。標的──玄道勝利。

 抵抗勢力は全て殲滅。捕獲不要。死体でも問題なし。」


 研究所兵の顔色が一気に青ざめた。


 中央が動く時、それはすなわち“国が敵意を宣言した”に等しい。


 だが、先に剣を抜いたのは意外な人物だった。


「──黙れ」


 鋭い声と共に、ラディンが長剣を抜いた。

 刃先が中央部隊へまっすぐ向く。


「玄道は俺が守る。命の恩人だからじゃない。

 俺の“戦友になる予定の男”を無抵抗のうちに殺されて黙っていられるか」


 中央隊長が目を細めた。


「騎士ラディン。貴様は国家反逆の意思ありと判断した」


「反逆で結構だ。お前らの“国家”に俺は仕えてねぇ。守るべきは国民だ」


 さらにリエラもラディンの横へ立つ。


「観測者リエラ・フェネリア、中央命令に反対します。

 私は“研究の名の下に人を殺す”つもりはありません」


 研究所兵の半分ほどが、ラディンとリエラの側へ移動し剣を抜いた。


 しかし残り半分──

 上層部の命令に従う研究所兵は、中央側の前へと立ち塞がった。


 空気が一気に殺気へと変わる。


 同じ施設、同じ制服、同じ研究所の仲間が──

 “玄道の扱い”を巡って刃を向け合っている。


 三つ巴。


■ 中央の殲滅部隊

■ ラディン・リエラ率いる現場派

■ 上層部の命令に従う研究所兵


 緊張の糸が切れる一秒前。


「……はぁ、くだらねぇな」


 俺は一歩前に出た。


 剣の音が止まる。

 兵も魔導師も、視線を俺に向けた。


「俺を殺すために仲間同士で戦う?

 俺を守るために仲間同士で殺し合う?

 ──つくづく、人間ってのは面倒だな」


 中央の隊長が冷徹な声で言う。


「ならば貴様が死ねば済む話だ。お前がいるから争いになる」


「そうだな。だが俺が死ねば──争いは終わらない」


 中央部隊の指揮官が氷の声で問う。


「根拠は?」


「俺が死ねば“次の寵愛持ち”が狙われる。

 そして、その次、その次だ。

 “原因を消す”のではなく、“替え玉を探す”だけの地獄が始まる」


 リエラが息をのむ。


「玄道……」


 俺はゆっくり、中央隊長の前まで歩く。


 剣や魔法は飛んでこない。


 攻撃すれば“味方を巻き込む”と理解しているからだ。


 俺は隊長の目をまっすぐ見据えた。


「一つ聞かせろ。

 お前らが殺そうとしてるのは“俺”か、“創造神の寵愛”か?」


 中央隊長の口が止まった。


 兵士たちの顔が揺らぐ。


「寵愛そのものが危険だから排除したいのか?

 創造の力をこの世界から消したいのか?

 なら俺じゃなく“力”だけが標的だろ」


 中央の魔導士の一人が思わず声を漏らす。


「……力だけ、取り除く……?」


「それができると思ってるから、俺を殺せば済むと思ってんだろ。

 違うか?」


 沈黙が肯定だった。


 要するに──

 中央は“力を消せる方法”を持たないから“持ち主を消そうとしている”。


(国はいつもそうだ。“方法が無い時”は、人を消す)


 低く笑ってしまう。


「お前らのやり方は“結果的に世界を救ったことが一度もない”んだよ」


 隊長が剣を抜き、宣告する。


「お前は危険だ。感情で人心を操る気か?」


「俺は事実を言っただけだ。

 言葉で揺れるなら、その正義は最初から空っぽだ」


 次の瞬間──中央隊長が足を踏み込んだ。


 権限の言葉を捨てた。

 ただの殺気。

 ただの戦闘。


「玄道勝利、ここで死ね!!」


 来た。


 だが俺は動かない。


 剣が振り下ろされた──その腕を、ラディンの大剣が受け止めた。


「悪いが、こいつは死なせねぇ」


 火花が飛び散る。


 同時に後方で轟音。


 魔術研究所兵の一部が中央部隊に火魔法を放ち、

 中央魔導士が氷魔法で迎撃。

 さらに現場派の魔導師が雷撃を撃ち込み、

 上層部派の魔導師が障壁を展開する。


 混乱は一瞬で戦場になった。


「ラディン、右側! 押しすぎ!!」

「くそッ、後衛の盾が薄い! 配置変えろ!!」

「中央の術式が早い! 詠唱阻害撃ち込め!!」

「広域魔法は研究区画に当たるぞ! 反射障壁を!!」


 叫び、爆音、魔力の閃光。


 研究所という知の殿堂は、

 あっという間に“死線が交わる戦場”へ変貌した。


 俺の横ではリエラが必死に叫ぶ。


「やめて!! 同じ国の仲間でしょう!? 何で殺し合えるのよ!!」


 その声は届かない。

 届く余裕のある者はいない。


 誰もが“自分の正しさ”のために剣を振るっている。


(……悲しいもんだな)


 人は“正義”のためなら簡単に仲間を殺せる。

 そして“守るための戦い”すら、“壊す戦い”に変わる。


 だが──


(俺はここで見てるだけの老いぼれじゃない)


 俺は拳を握った。


「リエラ、下がれ」


「玄道……?」


「間違うと死人が出る。でも“力ずくで止めても誰も納得しない”。

 だから俺がやることは一つだ」


 床を踏みしめる。


「戦って“止める”んじゃない。

 俺が“戦場を終わらせる”。」


 リエラが大きく息を飲む。


「……どうやって……?」


「簡単だ。

 “俺を殺したら勝ち”って認識を、全員にぶっ壊す」


 俺は床に拳を当てた。


 戦うためじゃない。

 殺すためじゃない。


「――創造《戦場演算・虚像共有フィールド・ゴーストコピー》」


 目に見えない波が戦場全域へ広がる。


 次の瞬間。


 戦っている全員の“視界”に、

 俺の姿が“十数体”現れた。


 全方位、全距離、全レイヤー。


 立っている俺。

 歩く俺。

 前進する俺。

 笑っている俺。

 怒っている俺。

 剣を構える俺。

 倒れる俺。

 死ぬ俺。


 それらが一斉に重なり、揺れ、増幅し、認識を揺らす。


「ッ!? 幻術か!? 違う、情報が……多すぎる……!!」

「どれが本物だ!! どれを殺せばいい!!」

「殺していいのか? そもそも今、戦う必要が……」


 頭を抱える者も膝をつく者もいる。


 俺は静かに言った。


「俺を殺せば世界が救われる──その“前提”が間違ってる」


 幻像の俺たちが一斉に告げる。


「俺は世界を殺さない。

 俺は世界を救う。

 俺は味方だ。

 俺は敵じゃない。

 俺を殺す必要はない。

 俺以外を殺す必要もない。

 戦う理由はない。

 止まれ。

 深呼吸しろ。

 落ち着け。

 武器を下ろせ。

 死なせるな。

 殺すな。

 守れ。

 守れ。

 守れ。」


 重なる言葉が、“思考の根を揺さぶる”。


 敵意も正義も恐怖も、一瞬すべて止まる。


 全員が武器を握ったまま凍り付く戦場で──


 俺はただ一つだけ、本物の声を放った。


「ここで戦って死ぬ気なら、それこそ“世界の敗北”だろうが」


 長い沈黙。


 最初に剣を下ろしたのは、中央隊長だった。


 刃が床に落ちる音がした。


「…………玄道勝利。

 貴様は、殺すべき存在ではないのかもしれない」


 ラディンがゆっくり剣を収めた。


「……やっと気づいたか」


 リエラは涙を流しながら笑う。


「……止まった……戦いが、本当に……」


 研究所兵たちが次々に武器を降ろす。


 殲滅部隊の魔法陣が消える。

 防壁が解除される。

 殺気が波のように退いていく。


 戦場が、静寂へと戻った。


――終わった。


 だが、終わりではない。


 中央隊長が言う。


「玄道勝利。

 お前は“脅威”ではなく“必要戦力”だと判断し直す余地がある。

 だが国全体の意志がまだ追いついていない。

 このままでは混乱は続く。

 そこで提案がある」


「聞こう」


 隊長は、これまでで一番現実的な声で言った。


「玄道勝利──お前は国の“最高戦力”として、正式に登録されろ。

 国にも、研究所にも、中央にも属さない“特別独立戦力”だ。

 誰の命令にも縛られず、誰の所有でもなく、しかし国の敵でもない存在。」


 それはつまり──


“自由に動ける異能戦力としての保護制度”


 ラディンが大きく息を吐く。


「……それなら文句はねぇ。守るも戦うも、本人次第ってわけだ」


 リエラは頷きながら、嬉し涙を零す。


「それが……玄道にとって一番いい形よ……」


「で、中央の立場は?」


「貴様を殺す必要がなくなるなら、それでいい」


「研究所の立場は?」


「……玄道を観測対象として、正式に保護・支援する」


「現場の立場は?」


 ラディンが笑った。


「もちろん味方だ」


 リエラも笑う。


「当たり前でしょ」


 中央隊長が尋ねる。


「玄道勝利──貴様の返答は?」


 俺は迷わなかった。


「俺は“世界を救う”。

 そのためなら、その肩書き、使わせてもらう」


「了解だ。交渉成立」


 その瞬間、中央の殲滅部隊が全員膝をつく。


「──独立戦力・玄道勝利殿。

 以後、我々はあなたの戦場で干渉せず、必要とあれば協力する」


 戦場は沈黙し──

 やっと、争いは終わった。


 だが、ラディンがふっと顔を曇らせる。


「玄道……一つだけ気になることがある」


「なんだ?」


「この戦い……“誰かが意図的に起こした”気がしねぇか?」


 リエラも息をのむ。


「中央が来たタイミングも、命令の内容も……あまりに急すぎた……」


 エルドが遠くからゆっくり近づき、眼鏡を押し上げる。


「ええ。恐らく“裏に黒幕がいる”。

 しかも──“別の寵愛持ち”を利用している可能性が高い」


 全員の背筋が凍り付く。


 その時だった。


 遠方の区画で、轟音。

 魔力が暴走したような気配。

 濁った悲鳴。


「ッ!? 敵襲か!!?」


 エルドが表情を険しくする。


「違う……これは、寵愛持ちの魔力だ。

 “制御を失った寵愛”……!」


 まさか──青年が暴走したのか?


 リエラが蒼ざめて叫ぶ。


「……医療区画は!? サリオ(青年)は!?」


 ラディンが大剣を掴む。


「行くか、玄道!」


「ああ。行く」


 戦うためじゃない。


 ──救うためだ。


「寵愛は俺が止める。

 仲間を守って、世界も救う。

 約束しただろ」


 俺達は医療区画へ駆け出した。


 そこには、

 この世界の“最悪の真実”が待ち構えているとも知らずに。


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