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なんと!今年で90歳のお爺さん60年続いたゲームに転生することになりました  作者: 暁 龍弥


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第11話「“もう一人の寵愛持ち”──殺意か、再会か」

 扉が爆風で砕け散り、黒装束の刺客たちが雪崩れ込んでくる。


 短刀、魔術、投擲、闘気、杖。

 そのどれもが“殺すための間合い”で飛び込んできた。


 護衛任務ではない。

 身を守り、仲間を守り、逃げる必要もない。


 今回は──俺自身の“殲滅戦”だ。


「――創造《全域解析領域展開アーカイブ・オーバーライド》」


 視界に薄い光の帯が重なり、侵入者全員の“動きのパターン”が浮かび上がる。


 足の踏み込み、視線、筋肉の張り、武器の角度、魔力の流れ。

 それらが“攻撃の経路”として解析される。


【マスター、行動予測演算完了。敵の攻撃は“当たりません”】


「当てさせねぇだけじゃ足りない。死ぬなら一瞬で眠らせてやったほうがいい」


 敵が最初の斬撃を繰り出す前に、俺は踏み込んだ。


 床を蹴る音すら遅れて響くほどの加速。


 目の前の刺客の手首を掴み──軽く捻る。


 「がッ――!?」


 力任せにへし折るのではない。

 神経の動きを止める一点に触れるだけ。


 そのまま反転して背後の刺客の顎に掌底。

 骨は折らない。意識だけを刈り取る。


 一撃ごとに敵が倒れ、崩れ、重なる。

 十秒も経たず、床に九人が眠った。


 刺客たちは予想外の展開にざわめく。


「反応が速すぎる……!」

「魔法も身体強化もしてないのに……!?」

「チートだろ……この化物ッ!」


 叫びと絶望と怒りが混ざり合う。


「よく言われてきたよ。だが俺はただの“ジジイ”だ」


 黒装束の魔術師たちが詠唱に入った。

 稲妻・氷・炎・闇……複合魔法の多重詠唱だ。


 防御すると研究所が破壊されかねない。


(だったら──“出す”しかない)


「――創造《虚式・魔力収束遮断壁セフィロト・サイレンス》」


 俺の足元から透明な波が広がり、半径二十メートルの魔力循環を一時停止させた。


 詠唱が潰れる。

 魔法陣が破裂し、魔術師たちが膝をつく。


「魔力が……動かない……!?」

「馬鹿な、魔力遮断なんて存在しないはず……!」


「無いなら創ればいい。それが“創造”だ」


 魔法使い五人が同時に沈んだ。


 残り十人ほどが武器を構えたが、動きの揺れに“恐怖”が入り混じっている。


(まだだ。“本命”は別にいる)


 敵の“編成”が明らかにおかしい。


 さっきの集団とは違う。

 この戦力は──“俺を殺すための対玄道構成”。


 魔術遮断を想定していない。

 つまり“新しいデータを取りに来た”動きだ。


 ――その瞬間。


 廊下の奥、敵の後列で、ひときわ強い魔力波形が瞬いた。


 刺客たちの動きが、何かの合図で一斉に止まる。


「……来たな」


 足音がゆっくりと響く。


 黒装束の部隊を押し分け、中央へ歩み出てくる人物。


 顔を隠すフードは他の刺客と同じだが、纏う空気が違う。

 殺気ではなく──“静かすぎる”気配。


 その人物は俺の正面で立ち止まる。


 そしてフードを下げた。


 現れたのは、黒髪漆のように艶やかで、白磁の肌。

 年齢は二十歳前後。

 中性的な美しさを持つ青年──いや青年“にも”見えるが、性別を拒絶するような顔立ち。


 紅の瞳。


 俺と同じ“創造神の寵愛”の波長。


【警告:対象は“創造神の寵愛持ち”。あなたと同格。

 危険度:未知。】


 それでも、その人物の“表情”には殺意がない。


 ただ、なぜか泣きそうなほど悲しげな目をしていた。


 そして──ゆっくり口を開く。


「……やっと、見つけた」


 殺意ではない。

 憎悪でもない。

 諦めでもない。


 涙の匂いすらする声だった。


 刺客たちは一斉に跪く。


──“この青年が指揮官”だ。


 青年は俺をまっすぐ見つめたまま言った。


「玄道勝利。君を殺しに来た」


 静かすぎる声。

 謝罪すら滲んでいる声。


「だけど──君を殺したくなんて、ない」


 全身に戦慄が走った。


「じゃあ何で来たよ」


 俺の声は低く、静か。


 青年は一瞬だけ目を閉じ、苦しげに言った。


「“俺が君を殺さないと、この世界が滅ぶ”

 そう“寵愛”が告げるんだ」


 研究所が静まり返る。


「寵愛が……命令するのか?」


「違う。正確には──“創造神マールの声が”。

 君を殺さないといけない。

 君が生きていると“世界が崩壊する”。

 俺が殺せるのは“俺だけ”。」


 心臓が低く鳴る。


 マールの声?

 俺はマールからそんな声は聞いていない。


 だがこの青年は“本気で”そう信じている。

 思い込みではない。

 実際に“聞こえてしまっている”のだ。


 青年は続ける。


「俺は君の味方だよ。仲間だよ。本当は……会いたくて仕方なかった」


 震える声。

 泣き出しそうな微笑み。


「だけど──『玄道勝利を殺せ。彼は世界を滅ぼす』

 マール様は、ずっと俺にそう言い続けるんだ」


 胸を刺すような痛みが走る。


(……マール様が、そんなことを?)


 青年は手を伸ばす。震えながら。


「お願いだ……抵抗しないでくれ。俺の手で君を殺せれば世界は救われる。

 君が殺されてくれるなら……俺達は敵にもならないし、戦う必要もなくなる。

 俺は君を殺したくなんてないんだ。……だからどうか──」


「殺されてくれ?」


 青年は苦しげに頷いた。


「そうだ。君を死なせたくないが──君が生きていると世界が崩れる。

 俺は……どうすればいいんだよ……」


 涙をこぼし、震えながら、俺に手を伸ばしながら。


「玄道勝利……どうか、俺を救ってくれ……!」


 刺客たちは一斉に武器を構える。

 青年が攻撃を命じたからではない。


 青年の“手が震えて命令が出せないから”、部下が代わりに殺しに来る。


 青年自身は俺を殺したくない。

 だが“世界のため”に、殺さねばならない。


 この矛盾が、青年を壊している。


 俺はゆっくり、青年の前に歩み寄った。


 刺客たちが殺気で包もうとするが、青年は涙で嗚咽しながら微かに制止する。


「……近づいてくるな……頼む、俺を……壊さないでくれ……」


 それでも俺は止まらない。


(この青年は俺を殺す敵じゃない。

 “殺すしか選べないように追い詰められた犠牲者だ”)


 目の前まで歩み寄り、届く距離。


 青年は涙を流しながら、崩れた声で言う。


「助けて……玄道……俺はどうすればいい……?」


 その問いは、俺じゃなくても泣きたくなるほどの叫びだった。


(選択肢はひとつじゃない)


 俺は青年の手を掴み、握り返す。


 圧倒的な静寂。


 そして、言う。


「俺を殺さなくていいように、俺が世界を救う。

 世界が崩れる原因を、俺が全部ぶっ壊す。

 “お前にも、マールにも、俺を殺す必要がない未来”を、俺が創る」


 青年は言葉にならず、声を震わせる。


「そんな未来……本当にあるのか……?」


「無いなら創る。俺のスキルは“創造”だろ?」


 青年は涙をこぼしながら、しゃくり上げるように笑った。


「……玄道勝利……やっぱり、君は“間違ってる”ほど強い……」


 青年が手を離し、深く息を吸う。


 ほんの一瞬だけ、殺気も絶望も消えた。


 だが次の瞬間──青年の瞳が大きく揺れる。


「……ッ!? 駄目だ! マール様の命令が……頭に……ッ!!」


 紅い瞳が狂気で染まりかけていく。


──マールの“声”が青年を壊しに来ている。


 青年は泣き叫ぶ。


「逃げろ玄道ッ!! 俺が理性を保ってる間に逃げろ!

 このままだと俺はッ!! お前を殺す!!」


 全刺客が同時に殺気を増幅。

 青年の“暴走”が始まる前兆。


(くそ……間に合うか?)


 青年自身を壊さず止める方法は、たったひとつ。


 “戦わず、支配ではなく、優先命令を書き換える”。


「――創造《精神結束リンク》」


 俺は青年の頭に手を添え、強制ではなく“共有”を創造した。


 光が弾け、二つの意識が一瞬だけ繋がる。


 青年の脳内で響いていた“マールの声”が流れ込んだ。


──玄道勝利を殺せ。

──彼が生きていると世界は崩壊する。

──殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。


(……これは)


 声は確かにマールだ。

 だが“壊れている”。

 言葉ではなく命令。感情ではなくプロトコル。


 これは“神の意思”ではなく、

 “神の機能の暴走”だ。


(マール様本人の人格じゃない。

 マールの権能の自動命令──システム側の警告だ!)


 俺は青年の精神リンクを通じて叫ぶ。


『聞け!! 俺は世界を滅ぼさない!! マール様の願いは“世界を救う”ことだった!!

 命令はノイズだ!! 止まれ!!』


 青年は頭を抱え、床に膝をつく。


「……ッッ!! マール様の声が……揺らいで……ッ!!」


 崩れ落ちるように青年の体が傾き、俺が受け止める。


 狂気が抜け、涙が静かに落ちた。


 青年は声にならない息で呟いた。


「……助けてくれて……ありがとう……」


 意識が途切れ、青年は静かに眠った。


 刺客たちは青年を守るように一斉に武器を下ろす。


 敵意ではなく、絶対的な忠誠だ。


 そして、全員が俺の前で跪いた。


「……玄道勝利。

 我らの主を壊さずに救う者──」


「次に命じるのはなんだ?」


 刺客の隊長が答える。


「“主の命を守ること”

 それが我らの任務です」


 つまり──


 青年を守るため、刺客たち全員が俺の“味方”になった。


 廊下は静寂に戻る。


【マスター、敵勢力三十名、完全服従状態。敵対行動ゼロ。

 戦闘は、あなたの“勝利”です】


「勝ち負けって感じじゃねぇけどな」


 俺は青年を抱きかかえる。


「名前、聞いてねぇな。起きたら聞くか」


 その時、警報を聞いて駆け付けたリエラが息を呑む。


「玄道……これは……」


「話すことは多いが、まずこの青年を治療してやってくれ。敵じゃない」


 リエラは表情を引き締める。


「……わかった。研究所として保護する。

 生かしておくべき“存在”だ」


 俺は頷き、長く息を吐いた。


(神の寵愛は二人。

 神の命令は暴走。

 狙われる理由も救う理由も増えた)


 だが──


「面白ぇ。全部まとめて救ってやるよ。世界も、神も、仲間も」


 研究所の中で静かに宣言した。


 玄道勝利の本当の戦いは、今ここから始まった。

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