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21.灰かぶり、やっちゃった感が半端ない

ブクマ登録&評価ありがとうございます(*´Д`*)

 



「ベイジル様………これは聞いていません」

「ああ。言ってないからな」


 そこにはたくさんの騎士たちと、観覧席にはパパ、その前に腰掛ける高貴な男女が集い、予想もしていなかった観客の多さにわたしはたじろいでしまいました。


「ま、まさか、あそこにいらっしゃる高貴なお二人、は」

「ああ、我が父母である、国王陛下と王妃陛下だ」

「両、陛下……!」


 どういうこと!とばかりに真っ青な顔でベイジル様を凝視する。両陛下の御前で討伐するなんて聞いてない!


「ただの見学だ。特に父上はセレスのことが気になって仕方がないといった感じだったが、気にするな。いつものようにやっていい」

「無理です! 気にしますよ!」

「国王と王妃だと思うから気になるだけだ。あれはただの野次馬。普通の中年夫婦だ。そう思えば気が楽だろ?」

「無茶苦茶言いますね!」

「宰相とエグバートの他に貴族は立ち入らせないから、その点は安心しろ」


 安心しろと言われましても、両陛下が観覧されている時点で安心していられませんからね!? そこまで神経図太くないです!


「両陛下や私の護衛任務にない近衛騎士もかなりいるようだが、彼らが捕獲した魔物をセレス一人でどう倒すのか気になる気持ちは理解できるからな。奴等は見逃してやってくれ」

「はあ……」


 呆然と生返事をして、そこではっと気づいてしまいました。

 この、戦闘に不向きなオーバースカート付きの衣装。まるで観劇のように見せる派手な出で立ちは、両陛下へ討伐をお見せするための身嗜みのようなものだったのだと。

 いつから決まっていたことなのか、その辺りを突っ込んで問い質してもいいものかどうか判断に迷います!


 パパが心配そうに眉尻を下げている姿を発見してしまいました。大丈夫だという気持ちをこめて手を振れば、眉尻は下がったままだけど、微笑んで手を振り返してくれます。

 パパ、心配しないでください。パパの笑顔を曇らせるような真似は絶対しませんから!

 そう決意したその時、両陛下がじっとこちらを観察しておられることに気づいてしまいました。慌てて深々と折り目正しく一礼します。もう二度と顔を上げられそうにありません……!


「セレス。顔を上げていい」

「で、でも」

「いつまでもそのままというわけにもいかないだろ? それにな、逆に失礼に当たるからな?」


 慌てて背筋を伸ばすと、ベイジル様が笑って頭を撫でます。わしゃわしゃと手荒く撫でるのではなく、そっと優しく触れる程度にひと撫でする様子から、見事な編み込みをされた髪を慮っておられることがわかります。

 ベイジル様も両陛下に会釈して、控えていた近衛騎士の一人に視線で指示を出しました。


「王宮に武器の持ち込みは出来ないため、代用品を近衛騎士団に用意させた」


 近衛騎士の方に弓矢とショートソードを渡されるけど、わたしはショートソードは受け取らなかった。


「ショートソードは扱えません。厨房から果物ナイフを二本貰えませんか? 錆びて使わなくなったものでいいのですが。あ、でも刃が折れていたり、欠けているものはさすがに使えませんけど」


 ベイジル様にそう頼むと、目配せを受けた近衛騎士が一礼して走り去って行きました。お手数お掛けします。


「弓矢は大丈夫そうか?」

「ちょっと手を加えますので、これは大丈夫です」


 弓を鳴らしてみたけど、やっぱり硬い。騎士団が用意した長弓は男性仕様で重く硬いから、このままでは弓を引き絞れない。なので、軽量化の魔法陣を施すことにする。この魔法陣は使い勝手がいいからよく使っていた。


 人差し指と中指に青白い灯火を宿し、風の紋様を描いていく。

 古代文字で風の精霊を意味するのだとおばあちゃんが言っていた。音読すれば『ヴァイレ』となるそうだけど、これは発音しては駄目だとおばあちゃんに厳命されている。なぜ音読しちゃいけないのかは知らない。


 軽量化の魔法陣は一部分を変えるだけで用途の幅を広げられるから、多様化されていてとても便利だ。

 例えば王宮まで納品に向かう道中、馬がバテないように荷台を軽くしたり、討伐した魔物を解体する時にも一人でやれるから重宝していた。

 宙に吊り上げたまま、ナイフでぐるりと皮を剥げるのは本当にやりやすくて助かる。まるっと一枚で剥ぎ取れるから、高値で売れるのです!


 これから討伐する魔物の素材を思い浮かべて、にまにまと口元が緩みそうです。それらを使って調合できるあれやこれやが、今から楽しみで楽しみで仕方ありません。貴重なダンジョンの魔物を、一部ではありますが融通していただけるのですもの!


 まずは何を調合しようかしらと浮わついた気持ちでいた間に、白の魔法陣が弓を照らし、吸い込まれるように消失した。これでわたしでも扱えます。

 ざわりと外野がざわめいたけど、気にしない気にしない。


 試しに矢はつがえず弦を引いてみた。適度にしなっていい感じです。使い慣れているのは短弓だけど、長弓は威力があるから拓けた場所では最強です。今回は長弓なので、硬い昆虫型も貫けそうですね。


 ご機嫌に弓の具合を見ていると、ベイジル様とエグバートお兄様が感心した様子で驚いた声を出されました。


「これが報告にあった魔法陣か。確かに美しいものだな」

「ええ、本当に。我々が扱う詠唱による魔法とはまったく異なるものですね」

「遅くなり申し訳ございません! こちらではいかがでしょうか?」


 走って戻ってきた近衛騎士の方が、ベイジル様に一礼してからわたしに果物ナイフを二本差し出しました。

 受け取ってから欠けや折れ、罅がないかを矯めつ眇めつ観察して、錆のひとつもない、もっと言えば使った形跡のない新品だと当たりをつけて近衛騎士の方に恐る恐る確認を取ります。


「あの、これって未使用品ではないです……?」

「はい、仰るとおりです」


 朗らかに返答されたわたしは心底困惑しました。この場限りの武器だから、廃棄品で充分なのですけど……。

 当惑の視線をベイジル様へ向けると、ベイジル様は屈託ない笑顔で構わず使えと仰います。なんて勿体ない。


 戸惑いつつも受け取った果物ナイフと矢に強化魔法陣を施しました。戦闘中に欠けたり折れたりしては困るし、何より実用性に乏しい衣装を着用しているので、一撃の殺傷力を底上げしておきたいからです。完璧な状態で素材を回収するためには、手数と傷は少ないに越したことはありませんからね。


「準備できました」

「わかった。どの魔物からやる?」

「飛行型の三体、スパルタ、ストラス、ユルングからお願いします」

「三体同時にか?」

「はい。三体同時にです」


 ベイジル様とエグバートお兄様の眉間にくっきりと縦に皺が刻まれました。心の声を言い当てるなら、危ないだろう、無謀だ、といったあたりでしょうか?


「大丈夫ですよ。無茶はしませんから、信じてください」


 暫し渋面を作っていたお二人でしたが、諦めたようにひとつ嘆息して、ベイジル様が両頬を挟んでむにむにします。唇が突き出て不細工になるから止めてほしいです。


「怪我だけはするなよ?」


 不細工なままなので返事出来ず、こくこくと小さく頷くだけにしました。


「―――飛行型三体を出せ!」


 アンフィテアトルムが騎士団のどよめきで揺れたような錯覚を覚える。担当の騎士が大いに動揺している様子が離れたここからでも分かる程度には狼狽しているけど、急げと再度命じられて慌てて地下へ消えて行きました。


「セレスト。無理だと思ったらすぐに逃げるんだよ」

「大丈夫ですよ、エグバートお兄様。ちゃんと討伐できますから、心配なさらないでください」

「いいから言うことを利きなさい。それから―――」


 ぎゅっと抱き締めて、耳元で囁きます。


「掠り傷ひとつでもつけようものなら、お仕置きするから覚悟しなさい」


 耳朶に触れた、まるで睦言を囁くような甘い声音と抱擁は、わたしから血の気を引かせるには十分過ぎるものでした。

 お仕置きと聞いて脳裏に過るのは、おばあちゃんの『森の中で一晩中逆さ吊りの刑』や、『一晩中木の幹にくくりつけの刑』、『夜通し魔物討伐の刑』などだ。どれも恐ろしいものだったので、お仕置きは完全回避とばかりにわたしは壊れたように何度も首を縦に振りました。


 エグバートお兄様の満足げで爽やかな微笑みに薄ら寒いものを感じます。爽やかなのに黒いってどういうことでしょう。


 ベイジル様とエグバートお兄様が観覧席へ上がられたのを合図に、地下から飛行型魔物三体が飛び出してきた。

 虹色の蛇体に虹色の翼を生やした蛇の魔物・ユルングと、金色に輝く羽毛を持つ魔鳥・ストラス、全身真っ赤な鋭い毒針を持つ魔蜂・スパルタ。

 観覧席には魔物から見えないよう魔法が組み込まれているそうで、三体はアンフィテアトルムの中心で一人ぽつんと立つわたしに直ぐ様狙いを定めた。


 一斉に襲ってくる中、飛行型には不要な果物ナイフを地面へ放棄し、邪魔なオーバースカートをばさりと翻す。

 足を肩幅に開いてしっかりと地面を捉えるけれど、一見タイトな短いスカートが太腿を固定してしまい、それ以上は破れてしまいそうだった。更に下に履いているホットパンツがタイトスカートのスリットから顔を出す。


(破れそうだし汚しそうだし、どうせならホットパンツだけにしてくれた方がまだやりやすかったのに!)


 いつもとだいぶ勝手の違う服装が地味に足を引っ張る。

 地面に突き立てていた矢を素早くつがえ、まずは一体、三体の中で最も素早いスパルタの頭部を射る。次いで虹蛇のユルング、金鳥のストラスの眉間へ連射した。


「―――――んん?」


 油断なく再び矢をつがえ構えたわたしは、予想外な事態に戸惑いを隠せません。観覧席の皆さんも同様です。一様に顎が外れるんじゃないかと本気で心配になるほど大口を開けて呆けていらっしゃいます。

 まあ、わかりますけど。わたしもあんぐりとしてますから。


 連射した矢は正確に眉間を捉え、そのまま突き抜けて観覧席を深く穿っていた。誰も居なかったのは不幸中の幸いとしか言いようがない。人がいなくて本当によかった。


 いつもよりはるかに過剰すぎる威力にぽかんと呆け、これはどういうことかと小首を傾げる。


 このとき失念していたけど、強化が必要なのはいつも使っている安価な石の矢尻であって、騎士団が用意した矢尻は高い強度を誇る鋼鉄で出来ていた。これに強化魔法陣を施せば過剰強化になるのは当然。でもこの時のわたしは気づいていなかった。


「……………あ、あれぇ……?」






読了お疲れ様でした!

いつも覗いてくださりありがとうございます(*´ェ`*)



予定としては、11月30日(土)に『公爵令嬢に転生したけど、中身はオッサンです。』、12月7日(土)に『灰かぶりのお薬屋さん』の最新話を更新できるかと思います。

以前活動報告にも書きましたが、それぞれの更新は2週間に一度とさせていただきます(;>_<;)


人一倍書くのが遅いので、楽しみにしてくださっている皆様には大変ご迷惑をおかけします(/o\)


ごめんなさ~い(。>д<)


でも!

早く書けた場合はこの限りではないので、とりあえず2週間に一度を目安に執筆を頑張りますq(*・ω・*)pファイト!


その時にはまた覗いていただけたら幸いです( *´艸`)

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