7話 ギルドマスターと昇格
大変遅れて申し訳ありません!!本業と副業の合間に執筆することの大変さを少しなめてました・・・
突然の大物登場に騒然とする冒険者達。俺は仕方なくつかみ上げていた男を床に下ろす。下ろされた男は顔を青ざめさせたまま後ずさっていった。
「ふむ、喧嘩っ早いくせして妙に理性的なところはレクス殿にそっくりじゃのう」
「父をご存じなのですか?」
「ああよく知っておるとも。それにしてもやはりレクス殿の子じゃったか。纏う雰囲気がそっくりじゃ」
「光栄です」
ダンブラーは満足そうにうなずいてから『荒鷲』の方へ視線を向ける。男達は周囲の冒険者と同じようにめまぐるしく変わる状況について行けなくなっていた。しかし、次のダンブラーの言葉で現実に引き戻される。
「さて、お主ら。先ほど少し聞き捨てならないことを言っておったのう」
「うっ・・・」
男達はあからさまに視線をそらす。
「最近のお主らは特に横暴な態度が目立っておったが、まさか貴族の権力を笠に着ていたとはのう。とりあえずガルベージ伯爵には抗議文を送っておくとして、お主らの方はギルドカードを剥奪させてもらおうかのう」
「なっ!?そ、それはやり過ぎだろ!」
「どこがやり過ぎなものか。ほかの果実までだめにする腐った果実を取り除くのは当然じゃろう?」
「だ、だけどそれじゃ俺らの生活が・・・」
「お主らの被害に遭った者達は皆そう思っておったと思うのだが、彼らの気持ちが少しは分かったかね?」
「分かった!分かったからカードの剥奪だけは勘弁してくれ!」
「・・・ふむ。良いじゃろう」
予想外にあっさりと出た許しの言葉に男達は喜色の笑みを浮かべるが、それはすぐに絶望へと変わる。
「ならば、お主らが今後受ける依頼の報酬は半分をギルドが没収する」
「はぁっ!?なんでそうなるんだよ!!」
「ほかの冒険者を脅して9割も巻き上げようとしていたのはどこのどいつじゃったかのう?」
「うぐっ・・・」
「お主らは曲がりなりにもCランクじゃ。半分もあれば生活はなんとかなるじゃろ。酒や女といった贅沢は一切できんじゃろうがな」
男達は反論できないものの、未だに納得がいかないといった様子でダンブラーをにらみつけている。その反応を見たダンブラーは受付の方へ振り返り、
「エミリア。こやつらの登録の抹消手続きを・・・」
「待てぇ!!分かったよ、半分払えば良いんだろ!」
「うむ、納得してくれたようで何よりじゃ。では今日のところはさっさと立ち去るが良い」
「く、くそったれっ!」
男達はそう言って去って行った。屈辱にまみれた顔をしていたが、むしろいい気味だ。自分の愚かさを思い知ると良い。
それにしても、この爺さん好々爺な見た目の割に意外と容赦ないな。
そんなことを考えていると、ダンブラーの方から声をかけてきた。
「さて、シグルよ。少しわしの部屋で話でもせんかね?」
「ええ、良いですよ。それじゃエミリア、査定の方よろしく」
「はい。分かりました」
俺はダンブラーの後に続いて二階の一番奥にある[支部長室]と書かれた部屋の中へ入る。部屋の中には、それなりに高級そうな執務机と客用のソファと机が置いてあったが全体的に質素な印象を受ける。
「そこのソファにでもかけてくれ」
「失礼します」
対面に腰掛けるとダンブラーはおもむろに口を開く。
「いやぁずいぶんと久しいのう。お主に会うのは何年ぶりじゃったか。ずいぶんとたくましい男になったもんじゃ」
「・・・やっぱり俺のことも昔から知っているんですね」
「おや?あまり驚かんかったか」
「いや、驚きましたよ。さっき、名乗ってもいないのに名前を呼ばれたんですから。それであなたは父とはどのような関係で?」
「うむ、これでもわしは現役時代は『黒竜の咆哮』のメンバーじゃったんじゃよ」
「ああなるほど、それで」
『黒竜の咆哮』とは、父さんがリーダー兼師匠をしていたパーティーで、メンバー一人一人が持つ実力と実績は世間でも高い評価を得ており、冒険者達の間では伝説となっているらしい。
「しかし、その反応を見るにレクス殿からは何も聞いておらんのか?」
「はい。『黒竜の咆哮』の元メンバーは現在高い地位に就いている方が多いため、俺が何か困ったときに安易に頼ることがないように、と名前や詳しい特徴などは聞いていません」
「ふぉっふぉっふぉ。なるほど、レクス殿らしいな。わしらもよく言われておったよ。『俺に頼りきりになるんじゃないぞ!』と、それこそ耳にたこができるほど聞かされたわい」
「ははっ、確かに俺もよく言われましたね」
その後は二人で昔話に花を咲かせた。ダンブラーは現役時代の冒険の話、俺は父さんとの修行の話。しばらくして時計を見上げたダンブラーが腰を上げた。
「おっと、もうこんな時間か。少し長話が過ぎたのう」
窓の外を見ると、日が落ちてすっかり暗くなっている。そろそろ戻らないとフェンも退屈しているだろう。
「シグル。レクス殿の言いつけもあるじゃろうから何でもかんでもというわけにはいかんが、困ったことがあったら相談しなさい。できる限り力になろう」
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」
最後に彼と握手を交わし、一階に下りると査定が終わったエミリアに呼ばれた。
「これが本日提出していただいた素材の買い取り料です」
そう言って渡された革袋には結構な量の硬貨が入っており、中を見てみると銅貨と銀貨の中に小金貨も一枚入っていた。
「すごいですねシグルさん。初日からこんなに稼ぐ人なんてそうそういませんよ」
「まあこのくらいは稼げないとな。ほら、俺だけじゃなくてうちの相棒も結構食うから・・・」
「・・・なるほど。確かに食費が大変そうですね」
フェンの姿を思い出して苦笑いするエミリア。だが突然表情を一転させ、フフンと少し得意げな顔をする。
「ですが、そんなあなたに朗報があります!」
そう言って彼女が取り出したのは一枚の紙。それはランクアップ試験に関する書類だった。
「これは?」
「本日シグルさんに提出していただいた素材の中にはランクの高い魔物のものもあり、一気にポイントが貯まりまして、すでにEランクへ自動昇格。それとともにDランクへのランクアップ試験に必要なポイントにも達しているんです。受験されますよね?」
「ああ。もちろん」
そんな会話をしていると周りの冒険者達がざわつき始めた。どうも俺がギルドマスターと親しげにしていたことがかなり広まっているみたいでそれとなく聞き耳を立てていたようだ。俺が冒険者としての初仕事でDランクにまで手をかけたことに相当驚いている。
中には僻みや妬みからかギルドマスターへのコネで手に入れたとかほざいてるのもいるが、相手にするだけ無駄なので無視。
「それではカードをお返しします。試験の日程につきましては後日お知らせいたしますので少々お待ちください」
FがEに変わったカードを受け取ってから報酬の金と一緒にマジックバッグにしまい、フェンを連れてたっぷり買い食いしてから宿へ戻った。
ちなみに宿での食事は食材のほとんどをこちらから提供するという条件付きで量の維持と値下げをしてもらうことに成功したのだった。
夏休みに入れば大分時間ができると思います。それまではちまちまと書いていくので8話はまた遅くなるかもしれません。どうかご容赦を。