6話 ギルドでの騒動
翌朝、身支度を調えた俺はフェンとともに朝食を済ませ、ギルドへ向かう。
朝のギルドは人の出入りが多く、中は喧噪に包まれている。条件の良い依頼を巡った競争があるためだ。もう依頼ボードには依頼があまり残っていなかったが、どうせ俺はまだFランクなので大して変わらない。
残っている依頼にざっと目を通していくが、やはりFランクの依頼は町中の雑用ばかりで外に出る依頼は薬草採取ぐらいだ。
「うーん、どうするかな・・・ん?」
昨日は気づかなかったがボードの上にもう一つ[常設依頼]と書かれたボードがあり、そこにはゴブリンやコボルト、オークといった定番の魔物の名前の下にそれぞれの報酬とポイントが載っている紙が貼られていた。
宿の大将が、食材がものすごい勢いで減っていくもんだから仕入れるのが大変だと言っていたので依頼ついでに食材となるものを調達してこようと考えていた俺にとってこれは渡りに船だった。
「決まりだな」
常設依頼の受け方を聞くために受付の方へ行くと、そこには昨日の受付嬢がいた。
「あ、シグルさん。早速依頼を受けに来られたのですか?」
「ん?ああ、昨日の・・・」
「申し遅れました、私の名前はエミリアと申します」
「じゃあエミリア、常設依頼の受け方を教えてくれないか?」
「かしこまりました。常設依頼は文字通り常に設けられている依頼で、ギルドが依頼人となっています。受注する必要は特になく、依頼書に書かれている部位を提出していただければそれで依頼完了となります。提出する部位は魔物の種類ごとに異なるので、注意してください」
「わかった、ありがとな」
「いえ、お気をつけて」
依頼書でそれぞれの魔物の提出部位を確認してから、早速フェンを連れて狩りに出る。場所は昨日入ってきたのとは反対の西門の先にある森を選んだ。
特に理由はない。適当である。
森に入り、少し進んだ辺りで風属性の探知魔術を使うとあっさり獲物が見つかった。
ゴブリンの群れ、数はおよそ30。反応が一斉に遠ざかっているため多分フェンの気配から本能的に危機を感じて逃げ出したんだろう。もしフェンが野生の神狼であればゴブリンごときなど気にもとめないだろうからそれで生き残れたのだろうが、今回は運が悪かった。
サクッと全滅させてからついでに近くにあったゴブリンの巣を潰し、また獲物を探すといったことを繰り返しているうちにかなりの数が集まった。適当なところで切り上げてからフェンを見張りに立てつつ解体を行い、日が傾き始める頃には帰路についた。
「これを全部自分でやっただぁ?嘘をつくならもっとましな嘘をつきやがれこのくそガキが!!」
・・・こっちのテンプレが先に来たか。
町に帰ってきた後、ギルドへ行ってエミリアのところで素材の提出をしたのだが、まずは“マジックバッグ”の容量の大きさに驚き、続けて素材のランクと質の高さに驚いていた。
持ってきた素材はゴブリンをはじめとした低ランクの魔物が二百匹以上、オーガやサイクロプスといった高ランクの魔物が数体。解体の仕方は完璧だ。俺が竜人であることを知っているとはいえ、さすがに初日でここまでの成果を上げるとは予想以上だったのだろう。
だが、エミリアと違って事情を知らない冒険者、特に(無駄な)プライドが高い者にとっては面白いものではなかった。そして今に至る。
「このオーガは俺たちが倒したものだったんだぞ!それを横からかっさらっておきながら持ち主面時やがって、良い度胸だなぁおい!?」
「そうだそうだ!ほかのやつだってどうせかっぱらってきたものなんだろ!」
「この恥知らずが!」
野次馬から漏れ聞こえてきた話によると、今俺の前で騒いでいるのは『荒鷲』というCランクのパーティーだそうだ。大柄な男がリーダーで、その後ろで煽ってる奴が4人。全員に共通しているのは素行と目つきが悪いことらしい。ふむ、確かに目つきが悪くて素行も悪そうだ。
俺が呆れた様子で見ているとそれが気に入らなかったらしく、さらに恫喝してくる。
「あぁ!?んだてめぇその目は!」
「見てわからないのか?呆れてるんだが」
その返答でついにキレた5人は剣を抜いた。
「この野郎!!もう勘弁ならねぇ!!」
「やめなさい!それ以上続けるつもりなら相応の措置をとりますよ!!」
「うるせぇ!てめぇは引っ込んでろ!」
エミリアが抑えようとするも、すでにかなりの興奮状態にある男達には焼け石に水だった。
「安心しろ、さすがに殺しはしねぇよ」
「わーおじさん優しーそれなら安心だー」
「余裕ぶってんじゃねぇぞこのガキ!」
5人が一斉に斬りかかってくる。昨日の今日でこれか・・・なんでこういう人種は行動がワンパターンなのだろうか。
柔道や合気道の要領で男達の攻撃をいなしつつ、武器をたたき落とす。結局5人全員の武器を奪い取るのに10秒もかからなかった。周りの冒険者達にとっては意外だったらしく、唖然としていた。
「で?少しは身の程がわかったか?」
「黙りやがれ!新入りのくせに生意気なんだよ!」
「その新入りに手も足も出なかったのはどこのどいつだ?」
「くっ・・・へっ、良いのか?そんな態度取っちまって」
「ん?どういう意味だ?」
リーダーの男が急に名案を思いついたとばかりにニヤッと顔をゆがめる。俺が聞き返すとドヤ顔をしながら得意げに語り始めた。
「俺たちにはガルべージ伯爵様の後ろ盾がある。それで分かるだろ?いくらてめぇが強くても親兄弟に恋人や友人全部は守り切れまい?」
ここでガルベージ伯爵が出てくるのか・・・。ますますろくな奴じゃないらしいな。
俺のため息を諦めと取ったのか、5人はさらにニヤニヤし出す。
「ようやく分かったようだな。そしたら詫びの印としてこれから得る報酬の9割は俺たちのところへ持ってこい。良いな?」
世の中には自分が優位に立っているからと人を人とも思わぬ輩がいる。前世の記憶の影響もあるのか、俺はそういう奴らが憎悪に近いレベルで嫌いだった。
そんなわけでこれ以上にないほどわかりやすい返答を返すことにする。
「おいおい、黙ってちゃわかんねぐおぇぇぇっっ!!!」
調子に乗って近づいてきた男の腹へ拳を叩き込み、そのまま振り抜く。男の体はギルドの扉を突き破って外まで吹き飛んでいった。俺は軽く殺気を放ちながらリーダーの男と残りの3人をにらみつける。
「言いがかりつけて絡んでくる程度なら軽いお仕置きと説教で済ますつもりだった。だが、本気でやり合う気なら・・・容赦はしない。二度と関わる気が起きないように心が折れるまで全力でたたきのめす」
俺は腰を抜かしてへたり込んでいる男のうちの1人の胸ぐらをつかんで持ち上げ、拳を振りかぶる。
「まずはお前からだ・・・覚悟は良いな?」
「ヒィッ!ゆ、ゆるし・・・」
「許さん」
「そこまでにしてやってくれんかのう」
拳を振り下ろす寸前、俺の殺気によって静まりかえっていたギルドに一人の男の声が響いた。声のした方へ顔を向けるとその人物は階段を下りてくるところだった。
長い銀髪とひげの老人で、どこかの校長先生を彷彿とさせる容姿をしている。
「・・・あなたは?」
「わしはダンブラー・ドール。このレフィリア支部のギルドマスターをしている者じゃよ」
・・・名前まで似ている気がするのは偶然だろうか。
某魔法使いの映画、僕は大好きです。皆さんはどうですか?