3話 最初の町へ
※2020/9/8 修正しました。ストーリーや設定に変更はありません。
15歳を迎えた俺の体はそれなりに成長しており、身長も170センチくらいまで伸びた。フェンの方は2メートルくらい。
今日は独り立ちの日。ついに家を出て冒険の旅に出る時が来たのだ。昨日からもうわくわくする気持ちが止まらない。
「シグル、忘れ物はないか?」
「大丈夫だよ、父さん。全部ここに入ってる」
俺はそう言って腰にあるポーチをポンポンとたたいてみせる。
このポーチは成人祝いと独り立ちして旅に出る俺への餞別として父さんがくれたもののうちの一つで、名称は、前世でおなじみ『マジックバッグ』だ。例によって例のごとく、容量はほぼ無限、時間停止の機能付きという超が3つ付くほどのレアものである。
「じゃあな。気をつけて行ってこいよ」
「ああ。いろいろ用意してくれてありがとう、父さん。それじゃ行ってきます。行くぞ、フェン!」
「ウォン!」
フェンは俺が背中に跳び乗ると同時に走り出し、父さんはあっという間に見えなくなってしまった。
いよいよ俺の冒険生活が幕を開ける!
ー ー ー ー ー ー
成長したフェンの速さはなかなかのもので、俺の飛行魔術よりも断然速い。その速度を生かして瞬く間に山を越え、谷を跳び越し、森を駆け抜ける。しばらくすると海が見えてきた。
「よし、いいぞフェン!このペースなら今日中に町にたどり着けそうだ。とりあえずこの海を渡りきった辺りで飯にしよう」
「ウォン!」
フェンは、待ってました! とばかりに一つ吠えると海岸から海に向かって飛び出した。そしてそのまま海の上を走って行く。フェンも俺と同じように大抵の魔術は使えるので水の上を走るくらいは造作もない。
1、2時間ほどで海を渡りきり、大陸へ上陸する。もちろん騒ぎにならないよう、港は避けてある。
索敵して周囲の安全を確認した後、ポーチから『マジックテント』を取り出す。見た目は普通のテントだが、中は家と同じようにいくつかの部屋とキッチン・ダイニング・トイレなどを完備している。そのほかにもいろいろと機能はあるが、今は必要ないので割愛しよう。
手早く調理を済ませ、俺とフェンの皿に料理を盛り付けていく。フェンの方は日頃のしつけと訓練の甲斐もあってちゃんとお座りの姿勢で待っていた。ただし、口からよだれをボタボタ垂らすのはカーペットのシミになるからやめて欲しい。
盛り付けが終わると席に着き、フェンはその隣に座る。
「いただきます」「ウォン!」
今回は簡単に味付けした焼き肉とパン、サラダ、スープだ。
「うん、うまくできた。フェン、どうだ?」
「ガッフ、ガッフ、ガッフ」
「そうか、俺の声が聞こえないくらいにうまいか。そりゃよかった」
フェンは基本的に何でも好き嫌いせずに食べるから助かるが、いかんせん消費量が多い。俺もかなり食うがその俺から見ても多い。体が大きく、高性能な分燃費も悪いのだ。おかげで大量に作った料理は綺麗さっぱりとなくなってしまった。
「腹ごしらえもすんだことだし、そろそろ行くか。フェン、また頼むぞ」
「ウォン!」
片付けをして一息入れた後、再びフェンの背中へまたがり、町を目指して走り出した。
「お、見えてきた」
あれから1時間もたたないうちに最初の町が見えてきた。巨大な狼がいきなり突っ込んできたらさすがに迷惑だろうと思い、門よりも離れたところでフェンから降りてゆっくりと歩いて近づいていく。
門の前では予想通りかなり緊迫した雰囲気になっていたが、わざわざ離れたところで止まり、こちらが話し合いの通じる相手だということをアピールしておいたおかげで少しは落ち着いたようだ。
「君、すまないがそこで止まってくれ」
俺とフェンは言われたとおり少し離れたところで立ち止まる。その様子を見た門番たちは安堵の表情を浮かべ、声をかけてきた男が一歩前へ出てきた。
「私の名はドレッド。ここの警備隊の隊長をしている。まず確認しておきたいのだが、その狼は君の従魔ということで間違いないか?」
「ああ、間違いない。登録はまだだけどな。ほら、ちゃんと俺のいうことを聞いておとなしくしているし、首輪もつけてるだろう?」
フェンの顔を少し上に向かせ、あらかじめつけておいた濃い茶色の首輪が見えるようにする。
「だから安心してくれ、とまでは言わないが、そこまで緊張しなくてもいい。俺もこいつも敵意を向けたり、危害を加えようとしなければ暴れたりはしない」
そう言いながらフェンの頭をなでてやれば気持ちよさそうに目を細めながら尻尾を振る。その姿を見てようやく門番たちの緊張は幾分か和らいだようだ。
「その言葉が聞けてよかった。だが一応忠告しておく。町の中で従魔が問題を起こした場合、その責任は主へといくから注意するように。ではこっちに来てくれ。手続きをしよう」
許可が出たので俺たちは門の横に設置されている受付へと向かう。
そこには数人の列があったので最後尾に並ぼうとしたら全員が一斉に先を譲った。俺は苦笑を浮かべながら軽く詫びを入れつつ先に進む。受付で待っていたドレッドは同じように苦笑を浮かべていた。
「入街手続きでの割り込みは御法度なんだがな···。まあ今回は仕方ないだろう。ではこの用紙に必要事項を記入してくれ。代筆はいるか?」
「いや、必要ない」
渡された用紙に名前、年齢、種族、肩書き、この町に来た目的などを書いていく。ちなみに俺の種族は一応人間族だが、正確には竜人なので、それも書いておく。隠しておこうかとも思ったが、フェンを連れてる時点で十分目立つし、それならばいちいち強さを証明する面倒を省いてしまおうと考えたのだ。
書き終わった用紙をドレッドに渡すと案の上を目を見開いていたが、同時に納得したような顔をした。
「なるほど、道理でこんなに強そうな魔物を従えてるわけだ。それにしてもまさか竜人をこの目で見る日が来ようとは···世の中はわからんな。とりあえず記入内容に問題はないな。入街料は銀貨1枚だ」
ちなみにこの世界の貨幣は各国で共通のものが使われており、小銅貨・銅貨・小銀貨・銀貨・小金貨・金貨・白金貨の7種類で数え方は十進法だ。つまり、10枚で一つ上の貨幣と同等になる。
俺の財布の中には父さんから稼ぎが安定するまでの資金としてもらった小金貨10枚が入っている。そこから1枚取り出して渡し、お釣りの銀貨9枚と1枚の羊皮紙を受け取った。そこには先ほど記入した内容と入街日が記されていた。
「それが仮市民証だ。初めての町らしいから説明しておくと、それを持っていることで町への滞在が認められる。有効期限は3ヶ月だ。それ以上滞在する場合は期限の10日前までに役所で更新手続きをしてくれ。なくした場合も同じく役所だ。ただし入街料の銀貨1枚に加え、罰金として銀貨2枚を払ってもらうことになる。ほかに聞いておきたいことはあるか?」
「冒険者ギルドへはどう行けば良い?」
「ああそうだった、冒険者になるんだったな。冒険者ギルドは町に入ってまっすぐだ。ほかには?」
「そうだな、おすすめの宿とかは?」
「そういうことは冒険者ギルドで聞くと良い。あそこではそれこそいろんな情報が手に入るからな」
「ならもう大丈夫だ。ありがとな」
「気にしなくてもいい。何せ、最悪の場合は命がけの戦闘を覚悟していたんだ。それに比べたらこの程度どうということはないさ」
ドレッドは人の良い笑みを浮かべながらそう言った。良いやつだ。
「さて、これで手続きは完了だ。ようこそ『レフィリア』へ」