2話 相棒との出会い
※2020/9/7 修正しました。ストーリーや設定に変更はありません。
その日の狩りは少し遠くに行ってみることにした。我が家がある島は孤島と言ってもかなり大きく、小さな国一つ分くらいの大きさがある。ただ、大陸側は魔物がわんさかいるうえ、反対側は俺たちの家のほかに竜族たちの巣がいくつかあるため大陸の人間が近寄ってくることは滅多にない。
今日俺が遠出してやってきたのは大陸側だ。ちなみにここへは風魔術を使い、徒歩で数日かかるところを2時間ほどで飛んできた。やはり魔術というのは便利なものだ。
しばらく狩りを続けていると日が高くなってきたので昼食の用意を始める。野外でのキャンプも手慣れたもので、薪を集めて火をおこし、獲れた獲物を解体して次々と肉を焼いていく。しばらくすると辺りに肉の焼ける良い匂いが漂い始めた。
しばらく調理を続けていると、不意に隣の茂みがガサガサと音を立てた。不覚にも全く気配をつかめていなかった俺はとっさに弓を構える。
するとそこから出てきたのは綺麗な白い毛並みの子犬、いや、子狼だった。いきなり弓を向けられたことに驚いたようだったが、俺が武器を下ろすと少し安心したようで物欲しそうな目を俺と肉へ交互に向けてきた。
「構えを解いただけでもう安心するのか···少し警戒心がなさ過ぎやしないか?」
「クゥ~ン」
呆れてつい話しかけてしまったが、驚いたことにこの子狼は理解しているような反応を見せた。だが、それでも物欲しそうな目は変わらない。
「わかった、わかったよ。分けてやるからこっちにおいで」
「ワン!」
俺が根負けして手招きすると子狼はうれしそうに尻尾を振りながら走り寄ってきた。その無邪気な様子にすっかり毒気を抜かれた俺はフッと笑みを漏らしながら焼き上がった肉を皿代わりの葉の上に置いてやると、相当腹が減っていたのか貪るように食べ出した。
あっという間に食べ終わり、もっと欲しいとばかりに再び物欲しそうな目を向けてくる。
「はいはい、そう来るだろうと思ったよ。ほら」
「ワン!」
追加の肉をのせてやると子狼はやはり嬉しそうに食らいついていった。
やがて食事を終えると俺は後片付けをしながら子狼に話しかける。
「お前は迷子なのか?親はどうした」
「ワン!」
「巣立ちの時期だから放り出された? それにしては幼いな···でもそれだけの力を秘めていれば巣立ちが早いのも納得か」
「ワン!」
単なる勘だが、目の前の子狼からはそれなりに高位の力を感じる。魔物のランクはS~Eで表されるが、この感じからするとおそらくAランクは下らないだろう。
「それで?お前はこれからどうするんだ?」
「ワン!」
「俺について行きたい? 良いのか?」
「ワンワン!」
「そうか。じゃあ、これからよろしくな」
「アオーン!」
どうやら子狼は俺のことを気に入ってくれたらしい。頭をなでてやると甘えるように擦りつけてきた。そういえば今更気づいたのだが、俺もこいつの言っていることがなんとなく理解できているようだ。父さんの竜の血が影響しているのだろうか、それともこいつが高位の魔物であることが関係しているのであろうか?
その後の狩りでは子狼も手伝ってくれた。子狼は思っていたよりもずっと優秀で、細かい指示をしなくても俺の意図を読み取り、大いに活躍してくれた。
狩りを終えてから家に帰ると、父さんは家畜小屋で牛の世話をしているところだった。
「父さん、ただいま」
「おう、お帰り。···って、何だそいつは?」
「拾った」
子狼を指して尋ねられた質問に簡潔に答える。
「拾った、か···シグル、お前こいつの種族わかってるのか?」
「いいや? ただランクが高い魔物だってことはわかるけど···」
「ランクが高いどころの話じゃねぇよ。こいつはあらゆる魔物の頂点に位置する神獣の一角、Sランクの神狼だ」
「えぇっ!? マジで!?」
驚愕のあまり叫んでしまった。まさかこいつが神獣だったとは。
「全く···驚いたのは俺の方だ。で、そいつはどうするつもりなんだ?」
「もちろん、俺の相棒にするよ。さっきも息ぴったりだったし、な?」
「ワン!」
俺が子狼の方に目を向ければ、同意するように吠えた。父さんも特に反対しなかったので、その日から子狼は我が家の一員となった。
子狼の名前は、北欧神話に登場する神喰狼『フェンリル』から取って『フェン』と名付けた。少し安直かとは思ったが、本人(本狼?)が気に入ってくれているようなのでよしとしよう。
狩りの時に見せた連携力は父さんとの模擬戦でも生かされ、なんとまともな一撃を入れることすらできた。もっとも、その一撃によって父さんのテンションが上がってしまい、二人揃って死ぬ寸前までボコボコにされたが。
そんな感じで瞬く間に時間は過ぎ去っていき、ついに俺は成人となる15歳の誕生日を迎えた。