1話 プロローグ
初投稿の作品です。いろいろと文章が拙いところもあるでしょうが大目に見てください。よろしくお願いします。
※2020/9/7 修正しました。ストーリーや設定に変更はありません。
俺の名前はシグル。見た目はごく普通の10歳の男の子だ。父に言わせると顔は割と美形の類いに入るらしい。ほかに特徴を挙げるとすれば黒髪黒目で前髪のあたりにメッシュのような感じで銀髪が入っていることぐらいだろうか。家は大陸から少し離れた孤島にあり、父と二人で暮らしている。母の方は体が弱かったために俺を産んでからすぐ亡くなったそうだ。
そんな俺には普通の子とは違う点が二つある。
まず一つ目は俺が人間と竜族のハーフであること。この世界には人間以外の種族も存在しており、竜族のほかにはエルフや獣人族、妖精族などが挙げられる。異種族とのハーフというのはそこまで珍しいものではないのだが、竜族は話が別だ。
まず竜族が異種族と子を成すには人化しなければならず、それができるのは最低でも数百年を生きたいわゆる“古竜”と呼ばれる者でなければできない。しかし大抵古竜ともなれば俗世に興味を示すこともなく人里に下りてこない。それに数も山奥の少数民族程度しかいないので、竜族とのハーフというのはかなり珍しい。
そして二つ目は、俺に前世で日本人だったときの記憶があることだ。二年前のとある日、何の前触れもなく唐突に前世の記憶がよみがえってきた。ただ、前の名前や人間関係などの自分についての記憶はあまり残っていない。思い出せる最後の記憶は目がくらむような光とけたたましいクラクションの音。おそらくトラックか何かに轢かれてしまったのだろう。
幸い、シグルとして生まれてから約八年間で形成されてきた人格や経験、記憶はそのまま残っていたので混乱はすぐに収まったし、日常生活も問題なく続けることができていた。
正直言ってこれからの人生に全く不安がないと言えば嘘になるが、それでも楽しみの方がずっと大きい。なにしろ、ここはいわゆる剣と魔法のファンタジーな異世界だからだ! 異世界ファンタジー、特に王道なストーリーのラノベを愛読書としていた俺にとってこの展開は非常に嬉しいものだった。
これは、そんな俺が異世界での冒険を楽しんでいく話。
ー ー ー ー ー ー
朝、目が覚めるとベッドからゆっくり起き上がる。窓のカーテンを開ければちょうど朝日が昇り始めていた。軽くベッドを整えてからパジャマを着替え、2階の寝室から1階のダイニングへ下りる。すると父さんも部屋から出てくるところだった。
「おはよう、父さん」
「ああ、おはようシグル」
父さんの名前はレクス。今は人間の姿をしているがその正体は竜族、その中でも最強と言われる黒竜族だ。
竜族の中でも父さんは少し変わり者で、人の姿での闘いを好む。己の強さを追求するのに余念がないのは竜族共通だが、わざわざ人の姿で技術を磨いているのは父さんぐらいしかいないらしい。
実際父さんは人化できるようになるとすぐに人里へ下りていき、冒険者として200年ほど人間の国で暮らしながら腕を磨いていた。その内世界中でその名を知らないものがいないほどに有名になり、さらには竜族でも父さんにかなうものはいなくなったことで“漆黒の竜王”と呼ばれるようになったそうだ。
しかし、有名になったことで強者と出会うチャンスが増えたことまではよかったのだが、王侯貴族を含め権力者の中には欲深い人間も多く、かなり面倒な思いもしたようだ。そんなことがあったからか、島に移り住んでからは学問にも精を出している。家には父さんが買い込んだ書物が所狭しと並べられており、もともと頭は悪くない父さんはそこら辺の学者とは比べものにならないほどに博識だ。そのおかげで俺も武術だけでなく学問もきちんと修めることができている。
「よし、それじゃあ行くか」
「うん」
我が家の朝は走り込みから始まる。裏手にある山は人の手が入っていないせいか起伏が激しく障害物も多いので体を鍛えるにはもってこいの場所なのだ。当然体への負担は大きいが、5歳から付き合わされている俺にとって大した苦にはならない。
走り込みが終わると次は朝食の準備に取りかかる。父さんは家事全般は結構得意だ。···顔に似合わず。
「シグル···今イラッときたんだが、何か変なこと考えてるんじゃないだろうな?」
「いやいや! 凶暴な獣すら尻尾巻いて逃げ出すようなその凶悪な顔に似合わず家事が上手だなぁ、なんてみじんも考えていませっへぶっ!?」
「ほっとけ!!」
頭にげんこつを食らった。解せぬ、ちゃんと否定したのに。
このように、父さんは勘も鋭い。伊達に“竜王”などと呼ばれていないのだ。
殴られてズキズキと痛む頭をさすりながら食事の準備を手伝う。今朝のメニューはオーク肉のシチューとパン、そしてサラダと牛乳だ。食材は家の周りでほとんどそろえることができる。
朝食を済ませて片付けをした後は少し食休みをしてから武術の訓練、昼食、休み、魔術の訓練、勉強、夕食、風呂、就寝、といった感じで一日が終わる。
そんなある日、夕食の席で話題が俺の将来のことになった。
「シグル、お前成人した後どうするのかは考えてあるのか?」
「うーん・・・具体的に何をするのかまでは決めてないけど、とりあえずは父さんのように冒険者になって経験を積もうかなとは思ってるよ」
俺の答えは予想できていたようで、特に反対することもなく頷く。···まあ竜族は本来自由を好む種族なので余程の子とがない限り人間のように親が子の行動を縛ることはしないのだが。
「そうか。まぁそう言うだろうとは思ってたけどな。ただ、お前はすでにベテランと呼ばれる冒険者と比べても遜色がない···いや、もう超えてるな。成人するまであと5年、お前はさらに成長しているだろう。そして腕の立つ冒険者、それも若い者であればいやでも目立つ」
「···貴族関係のトラブルのことだね?」
「そうだ。相手がまともなやつであれば普通に対応すれば済む話なんだが、中には本当にどうしようもないバカもいる。そして俺たちのように特殊な者は得てしてそういう奴らに絡まれやすい。しかもなまじ強い権力を持っているだけに質の悪い嫌がらせをしてくることも珍しくない」
父さんはこういう話をするときは決まって苦々しい顔をする。よっぽど嫌なことがあったのだろう。
「昔から何度も言い聞かせてきたことではあるが改めて言うぞ。外の世界にはいろいろな種類の厄介な敵がいる。大抵の場合は腕力で黙らせることができるが、それが通用しないときもある。いつ、どんなことが役に立つかわからないもんだ。だから勉強にしろ武術にしろ、知識や技術はできるだけ蓄えておけ」
「大丈夫、わかってるよ父さん」
「そうだな、お前は頭が良い。どんな壁でも乗り越えていけるだろう。ま、どうしても困ったときは俺を頼れ。お前の手に負えないことがあれば俺がなんとかしてやるさ」
「うん、ありがとう。父さん」
ありがたいことだ。いざという時、“竜王”という切り札はかなり頼りになる。もちろんできるだけ使わないようにはするが。
その夜は憧れの冒険者生活に思いを馳せながら床についたのだった。
いかがでしたか?少しでも興味を持っていただければ幸いです。本業などが忙しくなるためあまり速いペースで更新することはできませんが、なるべく頑張ります。