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カイラク

「ジゾウ、二人で旅をするなんて懐かしいなあ。」

 マスターヨボは自身のホースを足にはさむと入念に手入れをした。いざというとき堅くなってしまっては使い物にならないからだ。

「マスターにはずいぶんと助けられました。」

 ジゾウははげ頭を叩きながら、酒を飲んでいた。

「ふむ、お主ももう少し練習を続けていれば一流の芸人になれたのに。」

「別に、芸人になりたくて師匠の元にいたわけではありませんから。それに、禁欲の生活なんて耐えられませんし。」

「まったく、どこまでが本音なんじゃか。で、いつまで自分の宿命から逃げ回っているつもりだ。」

「まだ、手がたりません。」

「ネコの手ならいっぱいあるんだがな。」

 ヨボは部屋の隅にある箱を指差した。

「芸だけでは食っていけんでな。グッズ販売をしようかとな。うちわもあるぞ。」

「うちわデザインに弟子を入れるかどうかで昔よくもめてましたな。」

「内輪もめネェ。いまじゃその弟子たちも独立した。だが、ありがいたいもんだ。今回も皆一目散にかけてつけてくれよった。」

 それは、師匠がネチネチと怖いから。ジゾウは出かかった言葉を飲み込んだ。


「しかし、サンゾウがそんなに権力欲があったとは驚きじゃ。」

 ヨボは気持ちよくなってきたのか、目をしょぼつかせている。

「あいつほど、執着心の強い男もいない。政治や経済は必ず対抗勢力が生じる。得する者がいれば、必ず損する者がでる。しかし、宗教にはそれがない。富めるものは自らこぞって寄付をし、貧しいものは寄付を受ける。信じる限りはみな幸せなのですから。やつが、負け戦をするとは思えない。経験、戦力、統率力。どれをとっても、王子に勝ち目は無い。唯一のとりえが若さだが、それならじっくりと時を待てばいい。サンゾウが王子の下に素直につくとは思えない。」

「で、どこに向かうのじゃ。」

「シンゾウに会いに行く。ヒソウがカイラクと話をつけてくれているはず。」

「そこでわしは、闇、じゃなかった、直営業をすればいいわけじゃな。」


「え~、シンゾウ様。まもなくジゾウ様が到着しますが、いかがいたしましょう。」

 アシュラに似た男がシンゾウの部屋にやってきた。顔は白塗りでその表情は読めない。

「飛んで火にいる夏の虫よ。邪魔になるようなら適当な罪状で幽閉するがよかろう。」

 カイラクは体に付けたラッパを「パフッ」と鳴らすと部屋を出て行った。

「ふん、太鼓持ちのラクゴ者が。」

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