アヴェ・シンゾウ
そのころ、シンゾウは一人自室で怯えていた。
「末っ子のうつけと、散々馬鹿にした兄たちを必ずや見返して見せる。やらねば、やられる。」
シンゾウは自分の子孫を残すつもりはまったく無かった。自分の代で終わる。つまりは、自分の後の世界がどうなろうとかまわなかった。
「そのためには、王子にもっと頑張ってもらわねば。」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべると部屋の前にいる部下に耳打ちをした。
かれはギクリとしたが、
「仰せのままに。」
そういって、いづこかへ去った。
数日後、帝国寄りの議員が数名暗殺された。首謀者は王子寄りの議員とされ、彼等は全員、逃げ出すか、処刑をされるかのいづれかだった。鞭打ちの末、避けた体をウジに食わせるという拷問によって、強制的に自供をさせられた。そして、自らを反逆者と認めたものは、直ちに処刑された。そして、シンゾウは議会へと戻って来た。
「シンゾウ様は敵に監禁されていたに違いない。」
一つのデマにより、帝国と王子の軍は全面戦争に突入した。しかし、戦況は膠着状態のまま打開されるめどはたたなかった。
「緊急事態宣言の発動を可決します。」
議会はすべての指揮権を皇帝から議長であるシンゾウに移譲させた。彼は攻撃を一箇所に集中し、その他の戦場では防御に徹した。落ちぶれたとは言え、かつて大繁栄を誇った帝国軍の底力に、やがて王子側の星はひとつまたひとつと陥落していく。
「アヴェ・エルノ。」
議会は女神エルノを称えていたが、いつしか様変わりを始めた。
「シンゾウ様こそが帝国の救世主。さあ、みなさん称えましょう。」
「アヴェ・シンゾウ。」
その声は次第に大きくなり、やがて議場を埋め尽くした。




