月 ~月がまっすぐに光るとき~
神聖なる湖 森の奥に眠る幻の場所
木々の間から差し込んでくる輝き
水面に青い月 怪しく揺らめいて
手に掬った月の欠片 口に大きく吸い込んだ
口に含んだ月は 僕を守る力として僕の中で輝いてくれる
魔力を持った”御守”
昼の光ではなく夜の光だからこそ
僕の力になってくれるのだと信じて疑うこともなかった
それが”御守”がどれだけの力を持っているのかも
理解していない僕だったから
「また泣いてやんの? あっはっは。
あーはっはっは。どこまでもかっこわりぃ奴」
いつものことだった
殴られたり蹴られたりすることなんて
いつものことだった
泣いているつもりはなかったのだけれど
涙は勝手に流れていたらしくまた馬鹿にされる
苛められ体質だったのは幼い頃からずっとそうだった
もう完全に慣れだと思っていた
だけどやっぱり耐えられなくて
強く願いを込めると
僕は自分が強くなれるような気がした
すると可愛らしい少女が舞い降りて
苛めっ子たちと僕との間に立ち憚ってくれた
巫女服に身を包み
背景には神々しい何かが見えてきそうになるほど
神聖さを感じさせる姿
この世の存在ではないようで
僕を救うためだけに現れてくれたかのような
幻を見せる姿
目を逸らすことすら許されないほどに
神秘的でいて創造的とも捉えられる輝いた姿
どんな姿も可愛らしく美しく神々しく
僕の中に宿る青い月と自然に重なっていた
似ても似つかない月と少女のそれなのに
意図しないうちに重なり合っていた
少女は健気で幼気な体を輝かせて
夜空の彼方へと消えていってしまった……
同時に僕の勇気や強さも消えてしまったようだが
苛めっ子たちも消えてしまっていた
神聖なる湖 森の奥で目覚めた幻の場所
木々が大きく開き月光が森の中に揺れる
昼間の神聖さとは違う
夜の月の力か 木々が意志を持ち月と湖とを一直線に繋ぐ
水面に映る青い月を吸い込めば
願いを叶える強い強い力が密かに宿るんだ
儚く 月も少女も命も
青い”御守”の力で簡単に清く消えてなくなってしまうのだ