Ⅳ
少女は健気で幼気な体を輝かせた。
先程まではそうではなかったはずなのに、いつの間に月はこうも青く大きくなってしまったのか、少女の存在感を強めるように彼女の後ろで月は輝いていた。
月の輝きに苛めっ子たちは吸い込まれていったとでも言うのだろうか。
奴らは僕を見ていた。見ていたというよりも、睨んでいたというのだろう。
「何をしやがった! 幻術使いめ、気味の悪い人類の敵めが! 悪魔めがっ!」
「どちらが人類の敵だ、どちらが悪魔だっ!」
思わず僕は叫び返してしまっていた。
まさか僕に言えるようなことではなかったろうに、奴らがいなくなるだろうからと、今ならば安全だろうと勘違いして強気になっていってやったとでも言うのだろうか。
僕がそう言うとは思ってもみないことだったようで、ひどい驚きようだった。
そして、夜空の彼方へと消えていってしまった……。
少女は消えてしまったのだ。
それと同時に、刹那的だった僕の勇気や強さも消えてしまったようだ。
苛めっ子たちまでが消えてしまっていた。
神聖なる湖、森の奥で遂に目覚めたのだという、幻の場所。
木々の間が大きく開いて、月光が森の中に降り注いで大きく揺れる。
昼間にもまた神聖な光がこの湖に映っているものだけれど、昼間の神聖さとは違っている。
夜ならでは月の力なのか、木々が意志を持って月と湖とを一直線に繋ごうと道を開く。
水面に映る青い月を吸い込めば、願いを叶える強い強い力が、その人にも密かに宿るんだ。
あまりに強いその力をもってすれば、どんなものも儚く消えてなくなってしまうことになるのだ。
月も少女も命も、青い”御守”の力では簡単に清くなる、簡単に消えてなくなってしまう。
そうして淡く輝くのだ。
神々しい光を放って、神聖な地は幻に戻っていく。
再びその力が解放されるそのときまで、月の光を木々が遮断してしまう。神聖な湖に青い月が映ったとき、それは飲まれるときを待つ。
使われたなら、すぐに消えてなくなってしまう。
神聖なる湖、森の奥には幻の場所があった。