Ⅲ
空から可愛らしい少女が舞い降りてきたのだ。
苛めっ子たちと僕との間に、彼女は立ち憚ってくれたのだ。
間に立ってくれた、間に憚ってくれた。
必然的に、物理的な意味として僕は奴らとの距離が確保された。
彼女は巫女服に身を包み、背後からは神聖な何かが見えてきそうになるほどに、神聖さを感じさせる姿であった。
普通の登場の仕方ではないのだし、普通の人間ではないのだろう。
祈りに応じて出て来てくれたのだとしたら、この”御守”に宿っていてくれた聖ということになるのだろうか。
これまで僕に力を授けてくれており、遂に姿を現してくれた聖ということに。
まるでこの世の存在ではないようだった。
どこか知らない世界から、だれも傷付くことのない優しい世界から、この醜い世界へ僕を救うためだけに現れてくれたかのような、都合のいい幻想を見せるような神々しい姿。
美しいという言葉さえもったいなくて、言葉にならないだなんて安っぽい表現は失礼に当たるようだ。
ほんの一瞬たりとも、目を逸らすことすら許されないほどに、神秘的でいて、それなのに創造的とも捉えられる輝いた姿は、冷たい視線で奴らを射抜く。
どんな姿も可愛らしく、美しく、神々しく、彼女の姿は僕の記憶の中にある幻の地の青い月と、ぴったり重なっていた。
”御守”に注いだ青い月はこの少女となって僕を救ってくれたのだ。
似ても似つかない少女と月のそれは、一方は幻想的な景色に向けられた美しさへの感動で、同じ感情とはいえ、もう一方は確かにそこにいる少女に対して向けられたものなのだ。
同じ美しいだったとしても、感動は異なるものに決まっていた。
それだって少女と月の影は全く同じで、無意識のうちに僕はその二つを重ね合わせてしまっていた。
共通点を探し求めて、自分で作り信じた”御守”の効力というものを、自分に見せ付ける材料としただけなのかもしれない。
非現実を、美のせいにして信じさせようとしただけなのかもしれない。
それでも僕が意図しないうちに、その二点を結んでいたのは確かなのだ。




