Ⅱ
その力が僕をそうさせたのかもしれない。
操られるように、導かれるように、守ろうとあえて思うではなく動いていたくらいなのだから、それが僕の意志だとは言えないようなのだ。
痛いほどどんなことにも慣れてしまっていた僕は、無慈悲な言葉を聞き流しつつ、そんなことを考えていた。
暴言の数々がすぐに暴力に変わっていくのは、いつものことであった。
今更、僕の心は傷付くことなどないのだけれど、体はそう便利にはいかないらしい。もしかしたら、僕が気付いていないだけで、本当は心も傷付いているのだろうか。
いつものことなので、僕にはもうわからなかった。
「また泣いてやんの? あっはっは。あーはっはっは。どこまでもかっこわりぃ奴」
そう笑われている言葉を聞いて、初めて僕は自分が泣いているのだと知る。
殴られたり蹴られたりすることなんて、いつものことなので、何かを思うほどのことでもないかと思ったのだけれど、さすがにそうもいかなかったということなのだろうか。
泣いているつもりはなかったのだけれど、勝手に涙が流れていたらしい。
それをまた馬鹿にされる。
面倒だ。面倒だ。こんなものが流れても、馬鹿にされるものでしかないのに、どうして勝手に涙というものは溢れてくるのだろう。
その姿を僕自身には断じて見せてくれないで、他人にはこうも容易く見せて、もうそれにも慣れたとはいえ、涙というものの止め方を僕はまだ知らなかったのだ。
十年以上も前、本当に幼かったあの頃から、僕はずっとそうだった。
苛められ体質なもので、ここまで来たら僕の方にもきっと問題があるのだろうと諦めていたくらいだった。
それくらいのものだったので、もう完全に慣れだと思っていたのに、だけどやっぱり耐えられなかった。
そう、僕は耐えられなくて。
大切な”御守”に奴らは目を付けた。
見つかってしまった。見つかったら、奪われてしまう。必死に抵抗すれば、きっと無惨にされてしまうだけだ。
抵抗する素振りを見せれば見せるほどそうなのだ。
これだけは奪われてくれないでいよと、強く僕は願いを込めた。
願いを込めていると、僕は自分が強くなれるような気がした。
神聖な力が僕を守ってくれるどころか、神聖な力が僕に宿ってくれるような気がしたんだ。
その感覚はいつもあるものだったのだけれど、奴らが”御守”を僕から奪い取った瞬間、その力が目に見えて発揮されたのだ。
到底、信じられるようなことではないのだけれど、不思議と僕は冷静に受け入れられた。
あの青い月の力を本気で信じているから、ここもまた疑うところではなかったのだろう。