二章 個人経営ヒーロー 1
10月。
とても過ごしやすいこの時期なのだが、俺にはまたもや、弟子ができてしまった。
俺は、この街のとある閑静な住宅街に生まれた。両親は優秀で、互いに一流国公立大学を卒業していた。だが俺は、いや鷹は鳶を産んでしまったのだ。幼い頃から悪ガキと呼ばれるタマだったのも、俺があまりにも自己制御の効かない覚者だったからだ。
ある日両親は俺の悪っぷりに呆れ、俺に様々な制約を与えてきた。毎日の12時間学習、スイミングスクールへの強制入団、五時起床等、どれもハードなものだった。
いつしか俺は、いや小学校卒業後の春休みだった。家出した。それも規模は異様で、一年間の浮浪の末、俺は遂に両親に見捨てられた。
家出生活三年目。埼玉県のある川べりで魚を捕らえて過ごしていた俺は、自分の体になにか違和感を覚えた。ある鮭を取ってみれば別の鮭も跳ね上がってくる。
偶然出会った旅の者に、その現象について話してみた。
「それは、恐らく気功術だよ。君、まさかそこでずっと修行していたのかい?」
「ああ」
旅人は俺の顔つきに、少々期待したのか、
「本気で極めてみないか?」
俺は好奇心より、旅人に弟子入りした。
18歳の夏、旅人の助言により、俺はバイトで金を貯めつつ予備校で受験勉強をした。必死の過去問対策により、俺は見事埼玉大学に合格した。
「次は最初の弟子の話なんだが…。」
「師匠、それは私よりも長いです!」
そう、これは機械娘に長々と説明していたのだ。気づけば機械娘は保安部隊を辞め、俺の個人的なヒーローごっこに着いてきていた。
「一ついいか?シンナ」
「はい?」
俺は呼吸を整えて、言った。
「お前の本名はなんだ?」
東京Ⅹ区/駅前市街地。
『緊急警報。緊急警報。本街に、巨大外部侵略軍団が襲来しています。区民の皆さんは、速やかに屋内または区外に避難して下さい。』
放送通り、ドラゴンに乗った、宇宙人の集団が上空に佇む。街は悲鳴とクラクションで騒々しい。
『業務連絡。保衛官の皆さんは、腕に自信のある者のみ対峙して下さい。街区殲滅の信号を待機しなくても結構です。』
すると、数名の《保衛官》とやらが高層ビルの屋上に集まる。
俺の自宅。
「もしもし、惟夏?聞いたか?行くぜ」
俺はバイトの制服を脱ぎ捨て、真っ黒なシャツに黒いパンツを履き、家を出る。