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とても憂鬱な日曜日である。バイト先は定休日、見たかった映画は満席、マンションの隣室住民はパリピをかましつつこちらにまでも聞こえるその奇声。久しぶりに運動しようと公園に出かけてみれば、糞ガキの相手で目一杯。
そして今、居城オフトゥンの上に仰向けである。
「今にでもスターダスト・ドラゴンが街を襲ってくれないかな?そしたら俺が相手してやる!滅茶苦茶暇だからな」
と呟いていると、突然玄関チャイムが鳴動した。モニターを確認せず、直接玄関ドアを開ける。
「尊師様、弟子入りに参りました。」
紅色のパーカーを羽織った、昨日の機械娘だ。すぐにドアを閉めた。
「ん?なんで俺の家が分かった?」
もう一度開ける。
「昨日の戦闘の際、赤外線のタグを付けさせて頂き、俄に動く尊師様の挙動を把握しつつ、辿り着きました。」
とんでもないぐらいの悪質ストーカーと認識されても奇怪じゃない状況に、それでも彼女は笑顔を絶やさない。
「お前それ、何というか知ってるか?」
「いえ、わかりません」
「ストーカーっていうんだよ!帰れ!変態!」
気持ち少し強く言ったのが効いたのか、機械娘は少しハッとする。
「私がマイザキ様に惚れるまでの話をしますね」
根性の座った女だ。
「しなくていい!これ以上長居するってならぶっ飛ばすぞ!帰れ!」
しかし、帰らなかった。機械娘は。
「私は東京のハズレにある、小さな村に生まれました。」
ツッコミどころ満載だ。特に、
「いや生い立ちはいいんだよ!するならせめて小学生ぐらいからにしろ」
すると、機械娘はさらに話を続けた。
「小学生の頃の私は、成績の良い極めて良質な少女でした。ですが、周囲には嫉妬する者が現れ、さらには私に対して暴言や暴力を振るう輩もいて…」
なかなか壮絶な話である。少しは聞く気になった。
「私はそのとき思いました。いくら優秀でも、喧嘩が強くなければこの世は勝ち抜けない、と。そこで、私は極真空手に入門しました。しかし、ハードな稽古に耐えられず数ヶ月で辞退。こんなことでは終われない、そう思いました。そこで、賢かった私はある事案を提起しました。《科学力》による人体強化。所謂、サイボーグ化です。」
要は、その機械仕掛けの体はご自分の知能による発明なのだろう。
「しかし、私はまだ小学生で、経済力も行動力もありませんでした。そこで、一か八かイタリアに出向きました。勿論、留学という口実です。」
「美味しい紅茶はあったか?」
俺の質問も虚しく、機械娘はさらに続ける。
「偶然声をかけられた男性が、なんと人体自然改造のプロフェッショナルだったのです。」
経緯が曖昧すぎる!
「彼は私の語学力による要望を聞き、すぐさま研究所に招いて下さいました。その名も、『医学と機械のラボラトリー』!私は、見た目を変えずにサイボーグ化することに成功しました。そして彼のLINEがこちらです。」
「いやそこ自慢するな!」
気づけば、小バエが数匹部屋に侵入している。
俺は以前、同じように俺のパンチに惚れた奴の弟子入りを受け入れたことがあったので、この機械娘も弟子入りなら受け入るのだが、
「お前、本当に俺の《パンチ》に興味があってきたんだよな?」
「はい、そうですが…他に?」
俺は息を飲んで言った。
「性的な欲求とかじゃねぇのか?」
次の瞬間、機械娘は顔を真っ赤にして叫んだ。
「私はその《気功術》に興味があってきたんです!」
少しは関心した。何故なら、機械娘が俺の《気功術》を見破ったからだ。
「はい弟子入りオウケイ」